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國母和宏が世界中に巻き起こす『KAMIKAZU』初のポートランド試写会に密着
2018.10.17
スノーボーダー・國母和宏がBURTON US OPENの舞台で世界の人々の心をつかんだのは14歳のときだった。あれから約16年。カズは常に世界のトップを走り続け、いくつかのタイトルを手にしてきた。そして今回、世界最大手メディアであるTRANSWORLD SNOWBOARDINGから全世界へ向けてシグネチャームービーを発表し、スノーボード界に新たな歴史を刻もうとしている。
シグネチャーボードが売れないと囁かれてから20年ほど経ち、情報や映像の配信方法も大きく変化した。これまでのシグネチャームービーと言えば、1996年に制作されたテリエ・ハーカンセンの『SUBJEKT HAAKONSEN』、記憶に新しい2016年作、トラビス・ライスの『THE FOURTH PHASE』などが思い浮かぶ。今の時代、スノーボーダーとして自身の名が冠となるムービーが制作されることに、どれほど価値があるだろうか。しかも今回のように、TRANSWORLD SNOWBOARDINGのようなメディアから発信されるシグネチャームービーとしては、おそらく初の快挙だ。世界においても歴史に残るこの大役を担うのが、日本人スノーボーダーの國母和宏だという事実。まさに偉業である。
その瞬間に立ち会うべく、カズと最上級のチームが1年かけて作り上げてきた作品が解禁される記念すべき初の試写会へと足を運んだ。
日本人スノーボーダーの新しい歴史の幕開け
会場は米オレゴン州ポートランドの街中にあるオシャレなリビングシアター。ガラス張りのラウンジバーはあっという間にスノーボード関係者でひしめき合っていた。初のお披露目とあり業界人だらけだった。500名ほどの希望者が殺到したらしいが、一般の観客でメイクできた人は数少なかったそうで、300名近くの業界関係者で埋め尽くされていた。まるで、何かのアワードで行われるパーティーのような雰囲気すら感じた。

photo: Chris Wellhausen
すぐに工藤洸平と平野歩夢が現れた。なんだか、いつもより嬉しそうに駆け寄ってくれる姿にホッとする。ポートランドという土地柄や、この場にいる日本人がライダーである彼ら3人と私だけだったこともあるのだろう。このアウェイ感が我ら日本人同士の距離を縮めてくれたのかもしれない。洸平と歩夢はとても楽しそうにワクワクした表情を浮かべていた。
そんな彼らとは対照的に、少し違った雰囲気で現れたカズ。いつにも増してオーラが出ているようだ。すでに熱を帯び始めた会場に彼が登場した瞬間、会場内の空気が変わったのを感じた。注目を浴び、周囲に群れる人々とカズは笑顔で言葉を交わしながら、しばらく身動きがとれずにいた。その姿を遠目で見たとき、今回私が感じていた緊張感が何なのかに気づいた。今宵の主役であるカズを見ることに、とてつもない緊張を感じていたのだった。大舞台でアメリカ人たちに囲まれる彼の姿は同じ日本人として誇らしく、勝手ながらその様子を遠くで見守る親のような気分でもあった。おそらく、もしここにカズのことを長年見てきた日本人がいたとしたら同じような気持ちになったのではないかと思う。
國母和宏が成し遂げてきたことは、憧れや夢という言葉だけでは表し切れない。世界のトップを滑り続けてきた彼の新たな歴史が作られる瞬間を見るのは、日本人スノーボーダーとして震えるほど緊張し興奮することなのだった。
さあ、KAZUが世界に刻む、新しい歴史の幕開けだ。
KAMIKAZU旋風巻き起こる
カズがスクリーンに登場するシーンは、まさに神風を巻き起こすかのような歓声が会場に響いた。私は玄人好みの作品だと感じた。それはのちに洸平とも話したが、「そのくらいのメンツ、作品」ということだった。笑いを入れるわけでもない、わかりやすくもない。だが、カズが自信を持って伝えようとする部分が際立って見える作品だった。
私は斜め前に座るカズの表情とスクリーンを交互に眺めていた。業界関係者がほとんどだったため、その歓声があがるポイントもマニアックだった。緊張した面持ちで、何度も見たであろう映像から目を離さないカズ。スクリーンを見てはいるが全神経で周囲の空気を感じとっているようにも見える。そして周囲の反応を感じながら、時折うれしそうにほんの少しほころぶ横顔が、なんだかホッとさせるのであった。

photo: Chris Wellhausen
エンディングに差し掛かると、ひと際大きな歓声が沸き起こった。上映が終了する前に多くの人がカズの元へ駆け寄ってくる。この瞬間、このプロジェクトがどれほどの影響力を持っていたのかを肌で感じ、ゾクゾクした。
このムービーを観たことで私は、スノーボードを始めた頃に夢中になって観ていた90年代の『ROADKILL』などの作品を思い出した。現在レジェンドと言われている名だたるライダーたちが勢ぞろいし、ロードトリップをしながら各地で彼らのスタイルを魅せつけていく名作だ。あの頃、周りにいたほとんどのスノーボーダーたちは、彼らムービースターをマネすることに必死だったと言っても過言ではない。今となってはアイテムやロケーション、ジャンプの大きさ、スピンの回転数などに時代を感じるが、そのフィルムに残された彼らのライディングスタイルは、改めて観てもまったく色あせていない。記憶に残るライディングとは、技の難易度ではなく身体の奥底にまで響き渡る衝撃的なスタイルなのだと気づかされる作品である。
あれから四半世紀の間にスノーボードは驚くべき進化を遂げた。その進化を表すトリックやライディングが詰め込まれたムービーは年々、時代に合わせたクオリティの高い映像で数多く配信されている。
しかし、この夜私はひさしぶりにスノーボードのカッコよさが何だったのかに改めて気づき、何を観てスノーボードに夢中になったのかを思い出していた。正直、このムービーのライディングやロケーション、そしてスキルも雲の上の存在。これをマネしたいと思うには程遠い映像なのに、何が私にあの時代の価値観と関連づけさせたのだろうか。
彼らの緊張感、達成感、喜び。仲間とあちこちの山でそれぞれのスタイルを示し合う姿。彼らの圧倒的なライディングは別次元のスノーボードのようでいて、ふと垣間見えるスノーボードに対するシンプルな感情が、忘れかけていた懐かしい気持ちを蘇らせたのかもしれない。そう感じた。
出演ライダーたちも熱狂
「カッコいい。すごくカッコよかった……」と噛み締めるようにつぶやいた歩夢。シーズン後半に撮影に合流した歩夢は、このメンバーの中にいるとなんだか、近年メディアで見る“平野歩夢”よりもずっとあどけなく映る。世間に絶大な結果とイメージを残した彼はここでは一番年下であり、とにかくみんなにからかわれたりして可愛がられているのだ。その笑顔に、彼が今の環境に溶け込みリラックスして過ごしていることがわかる。「オレはすごくいい経験をさせてもらったと思います」。目を輝かせてため息まじりにつぶやくその表情に、深い感情が見えた気がした。歩夢にとってカズの存在は格別なのだろうと改めて感じられた。

photo: Yukie Ueda
バックカントリー×フリースタイルの第一人者とも言えるブレア・ハベニットは、落ち着いた様子で静かに画面に見入っていた。上映を終えた直後に声をかけると、「カズのこのプロジェクトに参加できたことをうれしく誇りに思うよ」、上映が終了して白くなったスクリーンを見つめながら、ブレアは何かを思い返すような目でこう言った。彼もまだ冷めやらぬ興奮を抱えているようだった。
長い手足から生み出される独特のスタイルが人気のケビン・バックストロム。端正な顔立ちが一見クールなケビンだが、始終カズや洸平とふざけたり、歩夢にちょっかいを出して遊んでいた。ムービーではあんなに激しい滑りを魅せつける男たちがティーンエイジャーのように悪ふざけしている姿は、何だか微笑ましい。そんなケビンに感想を求めると、そこは大真面目な顔つきで「素晴らしいムービーだろう。最高だ!」と誇らしげに断言。日本が大好きなんだとも付け加えてくれた。
「やっと見れたー! カズも本当に緊張していたよ」。幼い頃からともにスノーボードに取り組んできた洸平は、おそらくカズにとって貴重な理解者のひとりだろう。「カズ、きっとオレたちにも(前もって)見てほしかったと思うし、いいよねって意見聞きたかったと思うけど、絶対見せてこなかったから。それくらいカズのなかで自信もあったんだろうし、緊張もしてたんだと思う」。そう感情を胸いっぱいに抱えながら話す洸平もまた、内心緊張していたのだと気づく。「本当にすごいことだよ。日本人が世界で認められるって。それをやったカズ、本当にすごいよ。そこで一緒にやらせてもらってこの作品に出れたことは、すごくうれしい」

photo: Yukie Ueda
本作品はライダーのネームバリューがどうこうというよりも、それぞれのスタイルが際立っていることが一目瞭然だった。そのなかで、洸平の滑りはシルエットだけで彼だとすぐにわかる。手足が長く、身体が大きく見えるのだ。そんな感想を伝えると、「うわ〜、それは本当にうれしい! 自分自身、スタイルという部分にこだわってずっとやってきたから」。そう話す洸平が、やはりムービーで観るイメージよりも小柄だということを改めて実感。ライディングのスタイルとは、人の感性を刺激する魔法なのではないかとさえ思った。
レジェンドへの道
「カズはオレにとってまだ少年なんだ。もう30だって? 信じられないよ」。カズの長年のエージェントであるカール・ハリス氏は笑いながらも、感極まったような顔をしながらこう言った。
また、彼の滑りを見てきた業界の人々は口をそろえて次のように語っていた。「あの滑り、アイツはまだ大人じゃないだろ?」
カズはシーズン初め、このプロジェクトは30歳を迎える自分にとって大きなチャンスだと語っていた。自分が思い描くレジェンドという域に行けるのかどうか、スノーボード界で生き残っていけるのか、このムービーにかかっていると。
しかし、実際はレジェンドというにはまだ気が早い存在であると証明したことになるのかもしれない。本人がどう思っているのかわからないが、まだまだこの業界はカズを必要としている。次はどんなことをしてくれるのか、世界中が彼の動きから目を離せないのだ。
そんな日本人スノーボーダーが実在している事実は、私たちにとってどれほど夢と誇りを持たせてくれることか。そして彼の残す足跡は、これからの日本人スノーボーダーたちへと受け継がれていくであろう。
このようなビッグプロジェクトが誕生した背景を知るべく、TRANSWORLD SNOWBOARDINGのコンテンツディレクターを務めるニック・ハミルトン氏に、KAMIKAZU PROJECTを始動させた経緯や真意についてたずねてみた。
「カズが日本人かどうかということは関係ないんだ。その代わり、オレたちは彼が紛れもないベストスノーボーダーであり、世界的なスノーボーダーだと見ている。彼の滑りは世界中のどこでも通用するからね。そして、バックカントリーで生み出される彼の力強いライディングスタイルは、驚くべき映像となるんだ。だから、オレたちはカズにこのプロジェクトを一緒にやろうと話したのさ。そして、このような形に仕上がったことがうれしくてたまらないよ」
カズに会えて夢が叶ったと、うれしそうに並んで写真を撮るアメリカのキッズたち。カズは世界で名の知れた一流スノーボーダーという枠を超えて、世界中から憧れられる超一流スノーボーダーなのだ。彼が貫いてきたまったくブレることのない生き様こそが、記憶と歴史に残るスノーボーダー・Kazu Kokuboを作り上げた。

photo: Chris Wellhausen
カズはすでにこの業界において、彼にしか成し得ないポジションを確立しているのだろう。しかしこのプロジェクトは、彼が揺るぎない思いで目指す次なるステージへの大きな通過点なのかもしれない。この先どこまで、日本人のスノーボーダーが可能性を広げていくのだろうかと新たな楽しみが増えたような気がした。
「緊張したー」。上映会後、興奮に包まれていた会場が閉鎖され、冷たいポートランドの空気を吸い込んだ頃に、ようやくいつものカズの声が聞こえてきた。計り知れない緊張感があったのだろう。
その時代ごとにスターが生まれ、やがて次の世代へと移り変わっていく。そのなかで、揺るぎない存在感を放つ者が、のちに“レジェンド”という域に達することができるのだろう。

photo: Chris Wellhausen
21世紀のスノーボード界に大きな影響力を与えてきた國母和宏というスノーボーダーは、BURTON US OPENで優勝しただけでも、ベストビデオパートを受賞しただけでも、バックカントリーが超絶上手いというだけでもない。彼には日本という枠を超え、世界のスノーボーダーたちを惹きつけるスノーボーダーとしての魅力があるからこそ、このシグネチャームービー『KAMIKAZU』が実現したのである。
いつの時代も、そのときそこでしか感じられない経験がある。昔のムービーを見返して懐かしむと同時に、その頃の情景や感覚を思い出すとたまらなくなる。その時代、そこにいた自分の感動を思い返すことはできても、改めて経験することはできないからだ。だからこそ、私はこの場に足を運び、この空気を肌で感じることができて、本当によかったと思った。
カズが世界中に知らしめたい日本人魂を、きっと日本人スノーボーダーはこの作品を通じて感じとることができるだろう。同じ情熱を持つ同志で、そして、ここに出演するムービースターたちとともに感じることができる試写会というイベントは、格別な時間になるはずだ。

photo: Chris Wellhausen
text: Yukie Ueda
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