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世界を震撼させる日本のガールズパワー。ジェス・キムラがネコマ マウンテンに持ち込んだ「THE UNINVITED」の魂
2026.03.26
「彼女たちのスキル、スタイル、それらの精度は爆発的。まるで別の惑星から来たかのようでした!」
世界中の女性スノーボーダーを牽引し続けているジェス・キムラは、日本のガールズライダーたちをそう評した。2月6日から8日にかけて、星野リゾート ネコマ マウンテンにて開催された「THE UNINVITED JAPAN OPEN」。総額150万円という賞金が用意されたこのストリート・ジブイベントは、単なる大会の枠を超え、世界が日本のガールズシーンの真価を目撃した3日間となった。

ここから世界へ羽ばたくべく、全国から集まったガールズライダーたち。サポートブランドのブースも立ち並び、温かいスープの提供やニューモデルの展示などでイベントを盛り上げていた
「THE UNINVITED(招かれざる者)」というイベント名に耳馴染みがない読者のために、まずはその背景を説明しておこう。
これはもともと、メンズライダーの活躍に比べて過小評価され、正当なスポンサーシップやメディア露出の機会を与えられてこなかったガールズライダーたちにスポットライトを当てるため、ジェスが自費を投じて立ち上げた映像プロダクションだ。彼女たちが制作した映像作品はシーンに多大な衝撃を与え、処女作『THE UNINVITED』にはベテランの高橋博美や、Miyonこと山口美英らが出演。その2作目となる『THE UNINVITED Ⅱ』では当時12歳の高森日葵がオープニングを飾るなど、日本人ライダーも活躍を見せていた。
映像から始まったこのプロジェクトは、やがて「招かれざる者」たちが輝くためのリアルなイベントへと進化した。そして今年、ジェスにとって10年来の夢だった日本開催が実現したのだ。ハーフジャパニーズであるジェスは毎年日本を訪れており、日本の若手ライダーたちの圧倒的なポテンシャルを誰よりも理解していた。しかし同時に、彼女たちが直面している“壁”にも気づいていた。
「アメリカやヨーロッパへ行くにはお金がかかる。チャンスをつかめていない子たちが日本にはどれだけいるでしょう? 日本で開催することで、彼女たちに直接チャンスを届けられると考えたんです」

開会式で集ったライダーたちにエールを送るジェス(写真中)
photo: Yuto Nishimura
ジェスが日本での開催にこだわった理由は、埋もれてしまった才能の発掘だけではない。彼女は日本のスノーボードシーンに残る“魂”に深く共鳴していた。
「アメリカの多くのリゾートは利益を優先する大企業に所有され、資本主義の考えが強いように思います。でも、日本のリゾートにはまだ“魂”が感じられる。リゾートの人たちがイベントやコミュニティを心から大切にしていると、ネコマの担当者と話していて感じました」
さらに、ストリートスタイルのセットを組むにあたり、ローカルチームに製作を依頼したそうだが、ここでもジェスを驚かせる出来事があった。賞金を捻出するため予算を極限まで削っていたにも関わらず、完成したセットは一段一段がミリ単位で歪みのない完璧な水平と直角、そしてすべての面が丁寧に塗装されていた。職人技と呼ぶにふさわしい仕上がりだったのだ。
「坂林(聡樹)さんや、Tappuさん(笛木辰也)らのおかげで、最高の舞台が整いました。ライダーたちを大切に思いながら、彼女たちの滑りには世界に示すべき価値があるのだと証明する準備です。すべてが期待以上でした。彼らとは、ビジネス上の利益以上に大切なものを共有できたと思います」

この日のために南エリアに出現した特設コース。細部までこだわり抜かれたこのセクションが、ライダーたちのクリエイティビティを極限まで引き出した
イベントを支える布陣も、このプロジェクトの歴史を物語るものだった。MCにはオリジナルメンバーの博美が立ち、ジャッジにはジェス、佐藤亜耶、そしてMiyonの3名が並んだ。ジェスとはTHE NORTH FACEのチームメイトでもある亜耶は、次のように意気込みを語ってくれていた。
「こういうチャンスはみんなにあったほうがいい。オリジナリティやアイテムの使い方など、どこに行っても注目されるような、個性が光るライダーを見つけたい」
ここで入賞を果たしたライダーは、今年4月にアメリカ・ユタ州パークシティで行われる「UNINVITED INVITATIONAL」に出場することができる。このイベントは日本のガールズライダーが世界へ羽ばたくための登竜門であり、集まったライダーたちはみな、この最高のステージで各々が限界を超えるライディングを披露していた。

世代やライディングスタイルは違えど、ジェスと同じ想いを共有する3人の日本人ガールズライダーが、イベントを盛り上げるために集まった

凍てつくような風が肌を刺す日だったが、野心に燃えるライダーたちの滑りを目撃するために、たくさんのギャラリーが訪れていた
まず注目すべきは、14歳ながらすでに国内外のストリートイベントで活躍する坂本妃菜乃のライディングだ。勢いあふれる乗せ替えトリックはもちろん、ハードウェイCAB270オン・フェイキーアウトやスタイリッシュなFSボードスライド270オフなど、テクニカルなトリックを次々とメイク。
「今日はもう攻める一択。逃げないで、常に自分のベストな滑りを塗り替えることだけを考えていました。大会中も『さっきはこれをやったから、次はもっとヤバい技をやろう』と、一番の敵は自分だと思いながら滑っていました」と、イベント後のインタビューでは頼もしいコメントを残してくれた。

公開練習ではジェスに「あなたは50-50以外禁止(笑)」と言わせるシーンがあったほど攻め続けた妃菜乃のBSボードスライド270オフ。「野心的なライディングには自信が溢れていて、見ていて本当に楽しかった」とジェスも太鼓判を捺していた
昨年の「UNINVITED INVITATIONAL」本戦で2位に輝いた高森日葵は、誰にもマネできない独自のスタイルを貫いた。ダブルダウンレールへのトランスファーや、ウォーターフォールレールでのFSボードスライドなどをカジュアルに魅せる完成度の高さが注目を集めていた。

予選からスタイルの完成度にこだわった日葵のBSリップスライド。ストリート撮影で培われた魅せ方の美学が光っていた
photo: Yuto Nishimura
また、花田雫も持ち前の安定感を発揮し、高難度トリックを次々とメイク。熾烈を極めたセッションの末、表彰台の頂点に立ったのは妃菜乃だった。しかし、ジャッジ陣に「表彰台にあげたいライダーは10人以上いた」と言わしめるほど、拮抗したストリートバトルが繰り広げられたのだった。

雫のBSボードスライド。目玉となったウォーターフォールレールを含む複数のセクションを抜群の安定感で攻略した
そして表彰台に登った前述の3人以外にも、特筆すべきライダーたちがいる。ランディングまでかなり落差のあるウォーターフォールレールで果敢にスイッチFSボードスライド270オフを仕掛け続けた、ユリボーこと滝沢由里香。激しいクラッシュを乗り越えてメイクしたその執念は、まさにストリートの真髄だった。会場にいたすべての人々を熱狂させ、見事ベストトリック賞を獲得した。

出場ライダーの中でもベテランに当たるユリボー。メイクへの執念は観る者の心を震わせた
15歳の大島みどりはこだわりのノーズマニュアルを複数のアイテムで披露しつつ、ダブルダウンではBS180オン・CAB180オフをメイク。自身のスタイルを貫きながらイベントの中で進化を続けた彼女に、ルーキー賞が贈られた。

ライディング中は笑顔を絶やさなかったみどりだけに、表彰式で感極まる姿が印象的だった。「大好きなミヨンちゃんとジェスに見てもらいたくて、ふたりの記憶に残るように頑張りました。ミヨンちゃんがデザインしたトロフィーがほしい!とずっと思っていたので、本当にうれしかったです!」
「このイベントを、ただの活躍の場で終わらせるつもりはありません。目に見える形でのチャンスが与えられるべきだと考えています」
ジェスは、150万円という賞金総額、そして4月の本戦への招待という実利にこだわった理由をそう語る。ガールズライダーたちが経済的に不安なく、アスリートとして持続可能なキャリアを築けるようにすること。そして、彼女たちがエネルギーのすべてをスノーボードにつぎ込んだときに訪れる、ネクストレベルなライディングを世に知らしめること。これこそが「THE UNINVITED」の存在意義であり、レガシーなのだ。
最後に、ジェスは日本のガールズライダーたちに具体的なアドバイスを遺してくれた。
「スキルは十分。だからこそ、たとえアメリカの大会に出る枠がなくても、現地に行ってローカルと友達になったり、自分のスマートフォンを活用して、最高の映像を世界に発信し続けてください。そしてどんなツールでもいいから、英語を学んでほしい。コミュニケーションの壁を取り払えば、世界との距離は一気に縮まります。カズ(國母和宏)が世界的なスノーボードカルチャーのアイコンであり続けるように、海外のライダーから見ると日本人のライダーはいつもユニークで、興味深いんです!」

カナダ出身のジェス自身も、国境を越えてグローバルに羽ばたいたライダーのひとり。彼女の言葉は日本のガールズライダーにとって、世界への扉を開くための羅針盤となるはずだ
photo: Yuto Nishimura
ネコマ マウンテンで目撃したものは、単なる大会の結果ではない。日本のガールズライダーたちが世界へ羽ばたくための、巨大な胎動だった。
4月8日(水)からパークシティで始まる『UNINVITED INVITATIONAL』。招待状を自らの手でもぎとった彼女たちが、世界を相手にどのような衝撃を与えるのか。その物語の続きを楽しみに待ちたい。

photo: THE UNINVITED
結果
1位 坂本妃菜乃
2位 高森日葵
3位 花田 雫
ベストトリック賞 滝沢由里香
ルーキー賞 大島みどり
text: Yuto Nishimura
photos: Ryo Hiwatashi




