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常軌を逸した戦いを制した戸塚優斗の金、表現力でつかんだ山田琉聖の銅。平野流佳の完成度、平野歩夢の極限への挑戦──ミラノ・コルティナ五輪ハーフパイプ決勝
2026.02.14
ミラノ・コルティナ五輪の男子ハーフパイプ決勝は、「空前絶後」という言葉でさえ足りない、常軌を逸した戦いとなった。その異次元のパイプバトルを制したのは、圧倒的なトリックの引き出しを誇る戸塚優斗。しかも、オリンピックの舞台で初めて披露した超高難度ルーティンでの勝利である。
この超絶ハイレベルな決勝において、もうひとつ強烈な印象を残したのが山田琉聖だった。獲得したのは銅メダル。しかし、その価値は色以上に重い。高回転化が加速する現代ハーフパイプにあって、彼のランは“回転数の多寡”とは異なる評価軸を鮮明に浮かび上がらせた。難易度が低いわけではない。だが、純粋な技の複雑さ以上に、美しさ、流れ、スタイルが際立っていた。
競技は3本のランを行い、ベストポイントが採用されるフォーマット。優斗は1本目で91ポイントをマーク。すでにふたつの勝負ルーティンを持つ彼だったが、この決勝で投入したのは“初出し”の構成だった。
2本目、さらにその真価が解き放たれる。ファーストヒットをCABトリプルコーク1440ドランクドライバーへとアップグレードし、FSトリプルコーク1440トラックドライバーへ。バック・トゥ・バックのトリプルコークを、公式大会で初めてクリーンにメイクした。
だが、驚きはそこでは終わらない。ランの流れに逆らい、山側へと回すアーリーウープをスイッチから放ち、ダブルロデオ900メロンを加える。スイッチスタンスでの着地をクリーンにまとめ、スピードが落ちること必至のアーリーウープでの減速を最小限に抑え込んだ。その勢いのまま、スイッチBS1080テールからBSダブルコーク1260ミュートへ。技術、構成力、そして流れ。すべてが高次元で噛み合ったランに95ポイントが与えられ、優斗はトップへ躍り出た。
琉聖の1本目もまた鮮烈だった。これまでファーストヒットで放ってきた大技を中盤へ移行させた構成。CABダブルコーク1440ノーズ→FSダブルコーク1260ミュート→ダブルマックツイスト1080ジャパン→スイッチマックツイスト・ジャパン→スイッチBSアーリーウープ・ダブルロデオ900メロン。難度とスタイルが同居したルーティンで92ポイントを叩き出し、この時点で首位に立った。
平野流佳は1本目で90ポイントを記録したランをベースにアップグレードへ挑む。2本目は、スイッチBSダブルコーク1440テール→BSダブルコーク1260ミュート→FSトリプルコーク1440トラックドライバー→CABトリプルコーク1440ドランクドライバー→FSダブルコーク1260インディというルーティンを組み、3ヒット目のFSトリプルコーク1440で着地がわずかにズレながらも90ポイント。修正して臨んだ3本目は全ヒットをクリーンに決めたかに見えたが、スコアは91。得点を確認した本人の表情には、複雑な感情がにじんでいた。
重傷を抱えながら大会に臨んだ平野歩夢の存在も、この決勝の空気を特別なものにしていた。1本目、FSダブルコーク1620テールという高難度トリックに挑むも着地でミス。骨折の影響を感じさせないその挑戦する姿には、恐怖ではなく感動を呼び起こした。
2本目では、スイッチBSダブルコーク1260テール→CABダブルコーク1440ミュート→FSダブルコーク1620テール→BSダブルコーク1260ミュート→FSトリプルコーク1440トラックドライバーというルーティンを成功させたが、スコアは86.5。エアの高さが代名詞の歩夢だけに、すこし不足していたか。あるいは、わずかな着地のズレでの減点か。3本目には世界初となるダブルテールグラブでのFSダブルコーク1620に挑戦。しかし着地が流れてしまい、続くヒットで転倒。4大会連続メダルという偉業はならなかった。
それでも、彼の表情は穏やかだった。どこか、清々しさすら感じた。結果とは異なる次元で、この舞台と向き合っていたかのように映った。極限の逆境の中で攻め続けた姿勢は、確かに世界中へ届いていた。
琉聖は2本目からルーティンを変更。2本目では転倒を喫するも、3本目で再び大勝負に出る。ファーストヒットのCABダブルコーク1260インディから2ヒット目のスイッチFSアーリーウープ・ダブルロデオ1080ミュートを耐え切り、そのままダブルマックツイスト1080ジャパン→スイッチマックツイスト・ジャパン→スイッチBSアーリーウープ・ダブルロデオ900メロンへ。前人未踏の流れを転倒なく完走した。しかし、細かなミスは目立っていた。それほど複雑なルーティンだったからだ。スコアは92。この時点で銅メダルが確定した。
優斗の3本目は、さらなる高みへの挑戦だった。4ヒット目をスイッチBS1440インディへと上書きするも、ラストヒットで転倒。スコッティ・ジェームス(オーストラリア)の最終ランへ望みが託される。
そのスコッティも、限界を更新する構成で応戦した。1本目はミスが出たが、2本目には彼の黄金ルーティンである、CABトリプルコーク1440ミュート→FSダブルコーク1260ステイルフィッシュ→BSダブルコーク1080ステイルフィッシュ→スイッチBSダブルコーク1440インディ→BSダブルコーク1440ミュートをクリーンに決めて2位につけていた。
ラストランでは隠し球と噂されたBSダブルコーク1620に挑戦。しかし転倒。この瞬間、戸塚優斗の金メダルが確定した。
決勝に残ったライダーたちは、誰ひとり守っていなかった。韓国のイ・チェウン世界初となるFSトリプルコーク1620インディを3本目に決め、ニュージーランドのキャンベル・メルヴィル・アイヴスはひとつのランにアーリーウープの高難度トリックとトリプルコークをふたつずつ入れ、オーストラリアのヴァレンティノ・ギュゼリはファーストヒットでBSアーリーウープ360ノーズから入って高難度トリックにつなげながらも、全トリックのエアの高さの平均が5mを超えるほどの滑りを披露。4年に一度の大舞台の決勝に残った全ライダーたちに、大きな拍手を送りたい。
3度目のオリンピック挑戦で悲願の金メダルを獲得した優斗は、ハーフパイプ競技の可能性をさらに大きく広げた。そして、初出場ながらフリースタイルスノーボーディングの本質を貫いた滑りを世界中に発信して銅メダルを獲得した琉聖。
この夜、ハーフパイプは確実に新しいフェーズへと踏み込んだ。
ミラノ・コルティナ五輪
男子ハーフパイプ結果
1位 戸塚優斗(日本)
2位 スコッティ・ジェームス(オーストラリア)
3位 山田琉聖(日本)
4位 平野流佳(日本)
5位 ヴァレンティノ・ギュゼリ(オーストラリア)
6位 イ・チェウン(韓国)
7位 平野歩夢(日本)
8位 ジェイク・ペイツ(アメリカ)
9位 ワン・ズーヤン(中国)
10位 アレッサンドロ・バルビエリ(アメリカ)
11位 チェイス・ジョージー(アメリカ)
12位 キャンベル・メルヴィル・アイヴス(ニュージーランド)
全結果はこちら
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: FIS SNOWBOARDING




