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北京五輪の感動を生んだ地で行われたW杯ハーフパイプ開幕戦は戸塚優斗が優勝し山田琉聖は3位に。平野歩夢は4位
2024.12.08
北京五輪ハーフパイプの開催地、中国・シークレットガーデンにてFIS(国際スキー&スノーボード連盟)ワールドカップ(以下、W杯)が開幕。男子は4人がハーフパイプ最高難度とされるトリプルコークを成功させるというハイレベルな戦いとなり、戸塚優斗が表彰台の中央を射止めた。そして、18歳の山田琉聖が初の表彰台となる3位に食い込んだ。2位には北京五輪銀メダリストのスコッティ・ジェームス(オーストラリア)。同五輪金メダリストの平野歩夢は4位と苦汁をなめた。
ひとり3本のランを行い、それらのベストポイントで争われるおなじみのルールで行われた。優勝した優斗は1本目はミスするも2本目、多くのライダーたちがボトムに弾かれ苦戦を強いられている中、リップ・トゥ・リップの美しい滑りを披露して91.5ポイントをマーク。結果としてはこのポイントで逃げ切れたのだが3本目、さらなる高みを求めてドロップイン。
ラストヒットまでは2本目同様、スイッチBSダブルコーク1260インディ→CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディ→BSダブルコーク1260ウェドルをクリーンに決め、ラストヒットで優斗自身大会では初となるFSトリプルコーク1440インディを大きな放物線を描きながら成功。自身のポイントを塗り替えて95.5をマーク、圧勝だった。
ライブ配信を行っていたJ SPORTSで筆者は解説を務めさせていただいていたのだが、優斗とチームメイトである冨田るきが現在リハビリ中のため、ゲストとしてスタジオに来ていた。表彰式を終えた直後、リモートインタビューでるきがトリプルコークに対して恐怖心はなかったのかと優斗に問うと、もちろん恐怖心はあったが、手前のBSダブルコーク1260がクリーンに決まったから行くしかない!という気持ちで挑んだと吐露してくれた。そういったギリギリの状況でライダーたちは格闘しているのだということを、改めて思い知らされる言葉だった。
そして、今大会で特筆すべきは琉聖のルーティンだ。1本目のランで、エアのピークでジャパングラブをしながら一瞬時が止まったかのように見えるダブルマックツイスト1080から入ると、続けて2ヒット目ではスイッチジャパングラブをしながら超絶スタイリッシュなスイッチマックツイストにつないだ。そこから、CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1440インディ→CAB1080ウェドルを決めて87.75ポイントを記録。表現力と難易度が掛け合わされた、見事な滑りだった。
2本目は4ヒット目まで同ルーティンを成功させ、ラストヒットでスイッチBSアーリーウープ・ダブルロデオ1080にトライし、惜しくも転倒してしまったが、大器の片鱗をうかがわせた。初の表彰台に登った直後のリモートインタビューでは、とにかくダブルマック&スイッチマックとバック・トゥ・バックの1440を成功できたことが、とにかくうれしいと話してくれた。以前にインタビューをした際、みなが似通ったルーティンを目指しているところが大会が面白くない理由だということに気づき、オリジナリティあふれる滑りでパイプシーンを変えたいと語っていた琉聖の力強い言葉を思い出した。気になるという読者諸兄姉は、こちらから彼のインタビュー記事をご一読いただきたい。
2位に入ったスコッティのルーティンは、昨シーズンまでのスイッチマックツイストリバートから入ると思いきや、スイッチマックツイスト・スイッチジャパンからスタート。2ヒット目には彼にとってもコンテストで初成功となるCABトリプルコーク1440ウェドルをメイクした。1、2本目はルーティンを完遂させることができなかったが、さすがは勝負師。3本目はCABトリプルコークからFS540インディで息継ぎをすると、後ろ足をポークさせたスタイリッシュなBSダブルコーク1080ステイルフィッシュを決め、ラストヒットはスイッチBSダブルコーク1260インディを成功させてガッツポーズを披露した。常勝ライダーとして確かな手応えを感じているようだったが、540のトリックが5ヒット中2つあったためか、88.25と優斗には及ばなかった。
オリンピック2連覇を目論んでいる歩夢は1、2本目ともにルーティンを成功させることができず、あとがなくなった3本目。北京五輪の3本目を彷彿とさせる圧倒的な高さのFSトリプルコーク1440トラックドライバーから入ると、続けざまに同五輪の2ヒット目と同じくCABダブルコーク1440ウェドルで段違いの高さを生み出しなが空中遊泳するも、ボトムに返されてしまい回転が余った状態でバランスを崩したが、雪面に手をつくことなく見事ストンプした。しかし、大きく失速してしまい、同五輪ではFSダブルコーク1260インディだったところをFS540インディで体勢を立て直し、BSダブルコーク1260ウェドル→FSダブルコーク1440テールとつなぐも、86.25ポイントとわずかに表彰台には届かなかった。
予選トップ通過の平野流佳はボトム落ちが目立ってしまい、彼らしい高さのあるランができずに85ポイントで5位。重野秀一郎は果敢にFS1620に2度トライするも着地に嫌われていまい80ポイントで6位に終わった。
女子は同地で行われた北京五輪で銅メダルを獲得したるきの姉・せなが予選落ちするという波乱の中、15歳の日本人女子ふたりが初のW杯出場で決勝進出を果たした。しかも、予選をトップ通過した清水さらは、3本目にFS1080にトライするも成功させることはできなかったが、2本目にBS900とFS900を組み込んだルーティンで80ポイントをマークして5位でフィニッシュ。
もうひとりの15歳、工藤璃星は2本目にファーストヒットからFS1080を成功させると、なんと、バック・トゥ・バック1080となるCAB1080を2ヒット目で狙うも、ややプラットホームに乗り上げるような格好で激しく転倒。自力でフィニッシュラインまで下りることはできたが、3本目は棄権した。大事に至っていないことを祈りたい。
そして、ここ2シーズン連続して種目別総合優勝を飾っている女王・小野光希は、これまでラストヒットで放っていたCAB900を2ヒット目に組み込んだ攻めのルーティンで2、3本目に挑むも、思ったようにポイントを伸ばすことができず82ポイントで4位。逆転を狙った3本目は2ヒット目のCAB900でバランスを崩してしまい万事休す。そのランを終えた直後、悔しさを表に出しているシーンが光希としては珍しかっただけに、強く印象に残った。
優勝はW杯で何度も表彰台に立っているものの、意外にもその中央に初めて上ることができたマディ・マストロ(アメリカ)。ファーストヒットから高さのあるダブルクリップラー900インディで入ると、BS900ウェドル→FS900テール→BS540ウェドル→FS720インディ→ハーカンフリップ・ステイルフィッシュを2本目のランで決めた。これまではラストヒットでダブルクリップラーを一か八かでトライしていたような印象があったもののファーストヒットで3ランともすべてメイクし、かつ、エアの高さが昨シーズンまでよりも間違いなく高かった。シークレットガーデンのハーフパイプの高さは7.2mと世界最大なわけだが、全ライダーが普段よりもハイエアだったかと言われればそうでなかったことを踏まえると、マディの進化がうかがえた。
2位には女子で唯一、FS1080を含めたルーティンを成功させたツァイ・シュートン(中国)が入った。昨シーズンまでアメリカのコーチを務めていたマデリーン・シャフリックが現役に復帰し、見事表彰台となる3位に。ファーストヒットからスピンではなくグラブトリックのステイルフィッシュからスタートすると、FSアーリーウープ360メロンからスイッチBS540インディにつなぐシブいトリックなどを含め、1ランに7ヒットも組み込んだ。多くヒットするということはリップラインに対して垂直気味に切れ上がるはずなので、失速してしまい全体的にエアが低くなりそうなものだが、しっかりと高さを生み出していたあたり、さすがは元コーチという美しいパイプランだった。両名とも30代。まだまだ若い者には負けられないといったところか。
今大会は日本人女子が表彰台に立つことができなかった。ほんの十数年前までは当たり前だったが、近年の日本人女子ライダーたちの活躍があったからこそ、今大会の表彰式はとても違和感がある光景に映った。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photo: FIS SNOWBOARD
男子結果
1位 戸塚優斗(日本)
2位 スコッティ・ジェームス(オーストラリア)
3位 山田琉聖(日本)
4位 平野歩夢(日本)
5位 平野流佳(日本)
6位 重野秀一郎(日本)
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女子結果
1位 マディ・マストロ(アメリカ)
2位 ツァイ・シュートン(中国)
3位 マデリーン・シャフリック(アメリカ)
4位 小野光希(日本)
5位 清水さら(日本)
8位 工藤璃星(日本)
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