NEWS
長谷川帝勝と深田茉莉が圧勝したW杯ビッグエア開幕戦。岩渕麗楽も2位と日本が強すぎる
2024.10.20
ミラノ・コルティナ五輪まで1年半を切っており、今シーズンのFIS(国際スキー・スノーボード連盟)ワールドカップ(以下、W杯)は各国の代表争いが熾烈を極めることが予想されるわけだが、ビッグエア開幕戦でいきなり日本人が男女とも優勝を飾った。3日後に誕生日を控えた18歳の長谷川帝勝と17歳の深田茉莉だ。女子2位に岩渕麗楽が入り、ワンツーフィニッシュも達成した。
まず男子優勝の帝勝だが、貫禄の勝利だった。ひとり3本のジャンプが許され、回転方向の異なる2本の合算で争われるおなじみのルールで行われ、帝勝は1本目にCAB1800ウェドルを決めて87.5ポイントをマーク。順調な滑り出しだったのだが、2本目に放ったFS1800インディは着地で弾かれてしまいドライブで180回してしまうミスでポイントを伸ばすことができなかった。
あとがなくなった3本目。2本目と同トリックを放つと、完璧に雪面をとらえる会心の一本だった。空気を切り裂くような切れ味抜群のフラットスピンは完璧にコントロールされており、なおかつ、5回転というハイローテーションながらも前足をしっかりとポークさせたインディグラブを入れる帝勝。高難度とスタイリッシュさを兼ね合わせた渾身の一撃は89.75ポイントを記録。トータル177.25ポイントとし、2位に13.75ポイントの差をつけての圧勝だった。
表彰式の直後、W杯をライブ中継しているJ SPORTSで解説を務めている筆者は、帝勝と言葉をかわす機会に恵まれた。詳しくはアーカイブされている放送をご覧いただきたいのだが、2本目でミスした要因についてたずねると、絶対に立つんだという気合いが足りなかったからだという話をしてくれたのが強く印象に残っている。5回転という超高難度なトリックを操る卓越した技術はもちろん重要なのだが、やはり最後は精神力の強さが勝敗のカギを握っているのだということを教えてくれた。
もうひとりのファイナリスト、帝勝と同い年の荻原大翔は1、2本目ともにスイッチBS1980という超大技の着地に嫌われしまいて万事休す。2本のジャンプをそろえないと勝負にならない競技だけに、こうした状況では無理することなく低回転スピンでスタイリッシュさを強調させたジャンプを繰り出すライダーが大半の中、大翔は3本目にBS1800をパーフェクトストンプ。記録よりも記憶に残るジャンプでオーディエンスを大いに沸かせた。
いっぽう、女子はW杯に参戦し始めてからまだ3シーズン目という茉莉の独壇場だった。1本目に大きな放物線を描きながらFS1080ウェドルを完璧に決めて87.5ポイントを叩き出すと、その次の2本目が衝撃だった。得手不得手はあれど、4方向あるスピンの中でもっとも難しいとされているスイッチBSスピンを放ち、しかも3.5回転となる1260。さらに言えば、スイッチジャパングラブという個性が際立つ高難度なグラブを入れたうえでのパーフェクトストンプだった。女性ライダーで同スピンを操るのは、コンテストでもバックカントリーでも世界一に君臨するゾーイ・サドウスキー・シノットしかいないだろう。こうした大技を先述の内容で成功させたわけだ。この日の男女を通じて最高得点となる94ポイントを記録し、トータル181.5ポイント。FS1080ダブルテールなどを決めて2位となった先輩ライダーの麗楽に14ポイントの差をつけての圧勝。その茉莉は、麗楽の滑りに憧れてコンテストに参戦するようになったというストーリーがあるだけに、今回の表彰台は格別だったことだろう。
表彰式直後のインタビューでは、このオフシーズンにスイッチBS1260を習得したということを教えてくれた。2本目のジャンプについては、滞空時間が少ない状況でスイッチジャパングラブを入れられたことを評価していた。
昨シーズン、複数の1440を持ち技として世界の頂点に登り詰めていた村瀬心椛は、1本目にBSダブルコーク1080を完璧に決めていたが、2本目にFS1080の着地が合わずに転倒こそなかったものの、大きくトウサイド側にバランスを崩してしまった。この時点で茉莉がトップにつけており、心椛は3本目のジャンプで97ポイント近くを出さないと頂点に立てない状況だった。そして3本目に放たれたのは、女子ビッグエアでは最高難度のひとつであるFS1440だったのだが、着地が乱れてしまい4位に甘んじる結果に終わった。表彰式後に心椛と言葉を交わすことはできなかったが、唇を強く噛み締めている姿が容易に想像できた。
帝勝のスタイリッシュな5回転スピンはもちろん、茉莉のスイッチBS1260も麗楽のFS1080も先述したように、個性的なグラブを入れることで生まれる表現力が高ポイントの要因となった。これまでは回転数の増加ばかりに注目が集まってきたビッグエアシーンだが、ここに来て、より個性や表現性が求められるようになってきた。高回転スピンだけでは勝てない時代に突入したということだ。
それらを習得するためには血の滲むような努力が必要になることは想像に難くない。そのうえで、これからのビッグエアシーンは回転数を増やすという進化だけでなく、フリースタイルスノーボーディングの本質である表現力が重視される深化も求められるようになっていく。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photo: FIS SNOWBOARDING
男子結果
1位 長谷川帝勝(日本)
2位 ロッコ・ジェイミーソン(ニュージーランド)
3位 ロメイン・アレマンド(フランス)
6位 荻原大翔(日本)
11位 濱田海人(日本)
25位 宮村結斗(日本)
30位 飛田流輝(日本)
40位 木俣椋真(日本)
全結果はこちら
女子結果
1位 深田茉莉(日本)
2位 岩渕麗楽(日本)
3位 ローリー・ブルーアン(カナダ)
4位 村瀬心椛(日本)
8位 鬼塚 雅(日本)
23位 鈴木萌々(日本)
26位 村瀬由徠(日本)
全結果はこちら