BACKSIDE (バックサイド)

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大和撫子の強さを発揮した小野光希がW杯3大会連続優勝。平野流佳とともにクリスタルグローブ獲得

2024.02.11

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カナダ・カルガリーで行われたFIS(国際スキー・スノーボード連盟)ワールドカップ(以下、W杯)ハーフパイプ最終戦が先ほど幕を下ろし、女子は小野光希が優勝、冨田せなが3位に入った。男子は平野流佳が2位、重野秀一郎が3位と、4名の日本人ライダーが表彰台を射止める素晴らしい結果を収めた。

まずは女子からお届けしよう。光希の強さを改めて思い知らされる大会となった。ひとり3本のランが許されベストポイントで争われるおなじみのルールだ。光希の1本目、FS900テール→BS540ウェドル→FS720インディ→CAB720ウェドルと、十八番であるCAB900を封印したルーティンで89ポイント。結果論だが、このポイントを上回るライダーは今大会では現れなかった。

続く2本目、ラストヒットで伝家の宝刀であるCAB900スイッチメロンを放ってきた。2ヒット目のBS540ウェドルのグラブ時間が短かったものの、それを減点してもトータルは1ポイント加算されて90ポイントをマーク。今大会はエアの高さが重視されたジャッジングの傾向がうかがえたのだが、900を2回含めたルーティンで、そのエアの高さは申し分なし。このまま3本目を迎え、最終ランはウイニングランとなった。

しかし、光希は米カリフォルニア州マンモスマウンテンで行われた前回大会でそうだったように、これ以上のポイントは必要ないものの、さらなる高みを目指してFS900テールから入ってきた。2ヒット目のBS540もしっかりウェドルを加えてパーフェクトにつなぐも、続くFS720はリップにやや乗り上げるような格好で弾かれてしまい、雪面に強くたたきつけられるように転倒。身動きがとれない状態が続き固唾を呑んで見守っていたのだが、なんとか自力で立ち上がり滑り下りてきた。

表彰式には笑顔で登場するも、藁で作られていた表彰台の頂上に自力で登ることはできず。筆者はJ SPORTSの生放送で解説を務めさせていただいたいてのだが、画面上には松葉杖が映っていた。表彰台に登るまでに使用していたのだろう。こうしたリスクをとってまでして己の滑りを貫く姿勢、そのブレない軸の強さは、まさに大和撫子と言ったところか。光希の強さが垣間見えた瞬間だった。

「今シーズンは大きなミスもなくシーズンを終えることができました。出場した大会ではすべて表彰台に乗れて、自分の目標を達成することができたことが素直にうれしいなと思います。(3本目の転倒について)気合いが入りすぎました(笑)」

大会を終えた直後、光希はこのように話してくれた。3本目で転倒してしまったFS720は間違いなく今大会、女子のハイエストエアだった。

3位のせなもすごかった。2本目のファーストヒットでFS1080テールをパーフェクトに決めてくると、CAB720ウェドル→FS900メロン→BS540ウェドル→FS720インディという高難度なルーティンをクリーンに決めたのだ。ポイントは87と想像よりも低かった。5ヒットしているだけに光希に比べるとエアの高さはやや見劣りしていたものの、技の組み立てとしては非常によかっただけに、そのような印象を強く受けた。

続く3本目も同じルーティンで勝負に挑んだ。自信の表れに違いない。さらに精度を高めていたように筆者の目には見えたが、2本目とまったく同じ87ポイント。このルーティンでこれ以上は出さない、というジャッジの主張なのだろう。しかし、せなのFS1080は、これまでの女子ハーフパイプの歴史を振り返ってもトップレベルの精度を誇っていたと断言しておこう。

女子2位には、3本目のラストヒットでダブルクリップラーを見事に決めたマディ・マストロ(アメリカ)が入った。せなの妹・るきはBS900にこだわりルーティンを修正して挑むも7位と、表彰台には届かなかった。

男子2位となった流佳は1本目、スイッチBS1080インディ→BSダブルコーク1260ウェドルを決めた3ヒット目、FSダブルコーク1440インディで着地が少しずれてしまい、最終ヒットをCABダブルコーク1080トラックドライバーとしてフィニッシュ。本来であればラストヒットでCABダブルコーク1440を決めたかったはず。しかし、エアの高さはずば抜けていた。ベストルーティンではなかったものの、ポイントは88.25。特にファーストヒットはスイッチのバックサイドスピンにもかかわらず、常軌を逸したエアの高さを誇っていた。技の難易度としては余力を大きく残した状態だったため、2本目以降に大きな期待が寄せられた。

対して優勝したヴァレンティノ・ギュゼリ(オーストラリア)は1本目、スイッチBSインディ→CABダブルコーク1080ウェドル→FS1260テール→BS900ウェドル→FSダブルコーク1080インディと流佳同様、余力を残したルーティンで89.25ポイントをマーク。正直なところ点数が高すぎる印象を受けたが、エアの高さを踏まえるとそういうことだったのだろうか。2本目は4ヒット目まで同じルーティンで、ラストヒットでFS1440テールを成功させると91.5ポイントを叩き出した。

出走順がヴァレンティノより先だった流佳は2本目でミスしており、あとがなくなった3本目。2本目と同じくBSダブルコーク1260で転倒していまい、万事休す。スロープスタイル&ビッグエアにも参戦している二刀流ライダー、ヴァレンティノはハーフパイプではW杯初優勝となった。主戦場としているはずのハーフパイプよりも先に、同じくカナダ・エドモントンのビッグエアで優勝を飾っていただけに、優勝を決めた直後のインタビューでカナダが大好きだと語っている姿が、その強さとは裏腹にまだ18歳というあどけなさが残っていて印象的だった。

3位に入った秀一郎は3本目に意地のルーティンを披露。FSダブルコーク1440インディ→CABダブルコーク1080トラックドライバー→FSダブルコーク1260インディとつないでBSダブルコーク1260インディを4ヒット目でねじ込み、ややヒールサイドに乗ってしまい減速したかに見えた。しかし、ラストヒットでFS1440テールを見事に決めて86.75ポイント。高難度スピンを多く含んだルーティンのためエアの高さは十分とは言えなかったが、自身の滑りを貫いて表彰台を射止めたのだ。そうした意味で、“意地”のルーティンと述べさせてもらった。

前回大会を制して復調の兆しを見せていた戸塚優斗は、4ヒット目のBSダブルコーク1260を上手く合わせることができず5位に甘んじた。しかし、合わなかったとはいえ2本目ではBSダブルコーク1080とブラインド方向へのスイッチ着地となる超高難度トリックでリカバリーし、3本目もリップに乗り上げるも転倒することなくFSダブルコーク1080につなげるなど、さすがの滑りだった。

また、もうひとりの日本人ライダー、平野海祝はジャッジングの傾向を感じとってか、ファーストヒットで繰り出していたマックツイスト・メソッドを3本目では、ハーフパイプのハイエストエア世界記録を樹立したメソッドエアに変更。超特大エアはオーディエンスの度肝を抜いたが、ルーティンを完遂させることができず10位に終わった。

これで今シーズンのW杯ハーフパイプは全5戦すべてが終了。シーズン総合優勝の証であるクリスタルグローブは、流佳と光希の手に渡った。両名ともに2年連続獲得という快挙達成。クリスタルグローブのトロフィーはとても大きく、光希は「重たい(笑)」と吐露していた。流佳は昨年のトロフィーを自宅のリビングに飾っているようで、もうひとつ分置けるスペースを確保してあると大会直後のリモートインタビューで教えてくれた。今シーズン、流佳は常にクリスタルグローブを再び獲ることを口にしていただけに、有言実行となったわけだ。光希の強さだけでなく、流佳の進化も十二分に感じとれるシーズンとなった。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: FIS SNOWBOARD

 
女子結果
1位 小野光希(日本)
2位 マディ・マストロ(アメリカ)
3位 冨田せな(日本)
7位 冨田るき(日本)
全結果はこちら

男子結果
1位 ヴァレンティノ・ギュゼリ(オーストラリア)
2位 平野流佳(日本)
3位 重野秀一郎(日本)
5位 戸塚優斗(日本)
10位 平野海祝(日本)
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