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平昌五輪以降無敗の女王クロエ・キムを小野光希が撃破し涙の優勝。平野流佳は大技を温存して3位
2024.01.21
女子ファイナル進出者8名中3人がDNS(Did Not Start: 棄権)という不穏な空気が流れる中、決勝が始まった伝統の一戦「LAAX OPEN」。欧州を代表するスノーボーダーの聖地として知られるスイス・ラークスの地でFIS(国際スキー・スノーボード連盟)ワールドカップ(以下、W杯)との併催で行われており、今季3戦目。北京五輪の舞台で行われた開幕戦の中国・シークレットガーデン大会、平野歩夢がトリプルコークを決めて復帰後初優勝を飾ったアメリカ・カッパーマウンテン大会に続いて、ハーフパイプ界の役者が揃った。そう、平昌&北京五輪で連覇を果たしている女王、クロエ・キム(アメリカ)の復帰戦となったのだ。
加えて、2戦目のカッパーマウンテン大会を制してW杯衝撃デビューを飾った15歳、チェ・カオン(韓国)も決勝に残ったが、冨田せな、マディ・マストロ(アメリカ)らとともに冒頭で述べたようにDNS。ナイトセッションとなった本大会は、スタート時点で気温-9℃、雪温-10℃というコンディショだった。ハーフパイプは完璧なシェイプを誇っているかのように映ったが、雪とはいえコンクリートのように硬いだけに転倒した際には大きな代償を払うことになるのだろう。
今大会はいつもの3本ではなくひとり2本のランを行い、ベストポイントが採用されるルール。ハーフパイプの壁の高さは7mと、シークレットガーデンの7.2mに次いで世界で2番目に大きいスペックだけに、男子ではトリプルコーク合戦が予想された。トリックの高難度化を鑑みれば2本は少ないようにも感じるが、戦いの火蓋が切られた。
女子は1本目から日本勢が魅せる。まずは、ケガからの復帰戦となった冨田るきがファーストヒットでスタイリッシュなクレイルインディを放つと、BS900ウェドル→FS720インディ→CAB720ウェドル→FS540ウェドルを決めて60.5ポイント。挨拶代わりといったところだったのかもしれないが、結果としてはこのまま逃げ切って3位を獲得した。
小野光希は同じく1本目、スイッチスタンスでドロップインするとCAB720ウェドル→FS900テール→BS540ウェドル→FS720インディ→CAB900スイッチメロンで81.75ポイントをマーク。2ヒット目のFS900はダブルオーバーヘッドの高さだった。先出した女王クロエが後ろに控えているだけに2本目では1本目のルーティンでポイントの上書きを狙うも、ラストヒットのCAB900で着地に嫌われてしまう結果に。1本目のランで転倒していた最終走者、クロエ次第で順位が決まる。
平昌五輪で金メダルを獲得して以降、学業に専念するなど出場していないシーズンもあるが、FIS大会では負けなしの9連勝中。2018年以降、「X GAMES」でも出場した3大会はすべて優勝しているだけに、無敵状態のはずだった。北京五輪で金メダルを獲得して以来の復帰戦だ。
1本目は中継のカメラがフレームアウトしてしまったほどの巨大メソッドから入ると、先述したように2ヒット目のFS1080で転倒していたため、後がない最終ラン。トリプルヘッド近く飛んでいた1本目よりは抑えたとはいえ、ダブル近くは飛んでいるメソッドエアからルーティンをスタートさせると、FS1080テールからCAB900スイッチメロンにつないだところでまさかの転倒。勝ちにこだわったクロエは、光希の前に屈する格好となった。ランを終えたクロエはすかさず光希のもとに駆け寄り、抱きつきながら祝福を告げにいくシーンが印象に残ったが、抑えた滑りでの結果だけにその悔しさもにじみ出ていた。
「複雑な気持ちがあるというのが正直なところです。けっこう難しい中での大会だったんですけど、しっかり自分の滑りを1本目で出すことができたのでよかったと思います。練習でみんなヤラれてしまっていて、自分自身も怖かったですし、クロエも見たことのない感じで(パイプに)合わせられていませんでした。なので、うれしいんですけど……っていう(複雑な)気持ちです。コンスタントに安定した成績を残せるようになっていることが自分の強みだと思うので、ケガには気をつけて今後も自分の滑りに集中していきたいです」
大会を終えた直後、J SPORTSの生放送で解説を務めさせていただいている筆者は、光希と言葉を交わすことができた。2戦目のカッパーマウンテン大会で2位、今大会で今シーズン初優勝を飾った光希は、W杯だけでなくX GAMESなども含めて、大きな弾みになったことだろう。
男子は結果からお伝えすると、スコッティ・ジェームス(オーストラリア)が1本目のランで優勝を手繰り寄せた。十八番でありオリジナルトリック、スイッチマックツイスト・リバートにスイッチジャパンを加えてファーストヒットで繰り出すと、BSダブルコーク1260ウェドル→FSダブルコーク1440テール→CAB900スイッチウェドル→スイッチBSダブルコーク1260スイッチウェドルというルーティンをクリーンに決めて、94ポイントとハイスコアを叩き出した。2本目は、連続トリプルコークを1本目に放つも転倒していたイ・チェウン(韓国)を残した状態で出走したのだが、むしろラストヒットをスイッチBSダブルコーク1080に落としてフィニッシュ。出し切ったということなのか、余裕の表れなのかどうかわかりかねるが、結果として1本目のポイントで逃げ切った。
2位にはスコッティの後輩格にあたる、ヴァレンティノ・ギュゼリ(オーストラリア)が食い込んだ。2本目、コンテスト史上初となる1620スピンを含むルーティンを完遂させたのだ。スタイリッシュかつ巨大なスイッチBSインディから入ると、CABトリプルコーク1440ウェドル→FS1260テール・トゥ・メロン→BSダブルコーク1260ウェドル→FS1620テールを成功させて92.25ポイントを叩き出した。スコッティには1.75ポイント及ばなかったものの、あえてファーストヒットでスピンを入れないこだわりのルーティンでの結果だけに、喜びもひとしおだったことだろう。CABトリプルコークの回転軸が若干浅い(頭が完全に下に入っていない)という課題もあるだけに、その完成度が高まったとき、同ルーティンでも先輩を上回るに違いない。
1本目、あまり失敗したのを見たことがないBSダブルコーク1260でミスをしていた平野流佳。北京五輪でもそうだった。またパイプ内に魔物でもいるのかと固唾を呑んで見守っていると、2本目はスイッチBSダブルコーク1080インディ→BSダブルコーク1260ウェドル→FSダブルコーク1440インディ→CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディを決めた直後に、雄叫びをあげながら感情をむき出しにしたガッツポーズを披露。会心のランだったに違いない。客席から投げられたという謎のフランスパンをかじりながらポイントを待っていると、90ポイントを獲得。3位に浮上し、表彰台に滑り込んだ。
「過去一番いいルーティンを決められたので、めっちゃうれしいです。今大会のパイプは気温が低くて凍っていたんですけど、上手いことコントロールできたので滑りやすかったですね。1本目の2ヒット目でBSダブルコーク1260で転倒してしまったんですけど、練習も含めて一度も失敗していなかったので予想外でした。上手く(壁を)蹴れなかったことが原因だったので、2本目は修正して臨むことができたんですけど、1本目でしっかり決められていれば2本目には(CAB)トリプルコークを入れたフルルーティンを出したかったので、それがお預けになってしまったことは悔しいですね。次戦以降はトリプルコークを含めたルーティンをクリーンに決めたいです」
大会を終えたばかりの流佳は、このように力強く語ってくれた。1ランで全4方向の高難度スピンを組み込むという、非常にバランス力に優れたルーティンが流佳の武器。そのうえで、このルーティンの4ヒット目にCABトリプルコーク1440を入れることができるということだ。
今シーズン復帰を遂げ、全戦に出場している北京五輪金メダリストの平野歩夢。前回のカッパーマウンテン大会で復帰後初優勝を飾っており、今大会は課題を持って臨んでいたはずだ。今年に入ってからリモートインタビューをする機会に恵まれていた筆者は、W杯開幕後の2戦について歩夢と話していた。トリプルコークを決めるためには滞空時間の長さが必要であることを前提に話を進めていこう。だからこそ、高さ7.2mを誇るシークレットガーデンで行われた北京五輪でそれを含む超高難度ルーティンを初めて成功させて金メダルを手繰り寄せたわけだが、今シーズンの開幕戦ではトリプルコークは決めたものの、ルーティンを成功させることはできなかった。
しかし、2戦目のカッパーマウンテン大会で優勝を飾ったときはパイプのコンディションは芳しくなく、サイズもシークレットガーデンに比べるとかなり小さいため、滞空時間を生み出すことが難しい。本人いわく、体感としてはパイプの大きさが倍近く違って感じるそうだ。そうした状況下で、一度も成功していなかったルーティンを見事に決めて優勝。そのことについて、逆になぜ環境に恵まれていたシークレットガーデンでルーティンを決めることができなかったのか、そこに今後向き合っていきたいと語っていた。ここに歩夢の強さが隠されているのだと確信するとともに、ラークスのパイプも7mという高さを誇るハイクオリティなハーフパイプなので、ここで己と向き合うことになると想像していた。
1本目はファーストヒットのFSトリプルコーク1440で転倒していたが、2本目はトリプルヘッド近くの高さでトラックドライバーを入れながら頭を3回下に入れた完璧なトリプルコークを決めると、歩夢劇場が始まったかに思えた。CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディもトリプル近くの高さで決め、BSダブルコーク1260ウェドルにつなぎ、ラストヒットはFSダブルコーク1440テールを放った。決まれば北京五輪の金メダルルーティンだ。しかし、若干プラットホーム側に飛び出してしまい、リップにボードが引っかかり万事休す。決まっていれば、2022年2月以来となる地球最強ルーティンだった。カッパーマウンテン大会でのラストヒットが1080だったことは、記憶に新しいだろう。
弟の海祝は十八番である巨大メソッドを封印し、マックツイスト・メロンというオリジナルスタイルあふれる新技からFSダブルコーク1440ウェドルにつなぐなど素晴らしいルーティンを決めて84ポイントを叩き出したが、重野秀一郎らに抜かれてしまい6位に。その秀一郎は5位、ケガからの復帰2戦目となった戸塚優斗は本調子ではなかったようで、11位に終わった。
続くは真冬の祭典、X GAMESでの戦いが待っている。トリプルコーク合戦になるのかが最大の焦点であるが、パイプのサイズはシークレットガーデンやラークスと比べると少しだけ小さくなる。その分、リスクが高いということだ。男子スーパーパイプは初日、アメリカ時間の1月26日(金)に決戦の幕が切って落とされる。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
女子結果
1位 小野光希(日本)
2位 ベア・キム(アメリカ)
3位 冨田るき(日本)
7位 冨田せな
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男子結果
1位 スコッティ・ジェームス(オーストラリア)
2位 ヴァレンティノ・ギュゼリ(オーストラリア)
3位 平野流佳(日本)
5位 重野秀一郎(日本)
6位 平野海祝(日本)
10位 平野歩夢(日本)
11位 戸塚優斗(日本)
13位 山田琉聖(日本)
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