BACKSIDE (バックサイド)

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回転数を下げる進化でスコッティが優勝。昨シーズン王者の流佳は2位。トリプルに成功するも歩夢は復帰戦飾れず

2023.12.08

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あの感動から1年10ヶ月。北京五輪が開催された中国・シークレットガーデンのハーフパイプに、役者が揃った。北京五輪金メダリストの平野歩夢が、FIS(国際スキー・スノーボード連盟)大会に復帰。昨シーズンは「X GAMES」と「DEW TOUR」のいわゆるプロ大会には出場していたが、次のミラノ・コルティナ五輪から逆算して3シーズン前にFIS大会に出場するのは、歩夢にとって異例である。東京五輪スケートボードに挑んでいた際はもちろん、平昌五輪に向けてもプロ活動を優先させ、その2シーズン前から参戦していたからだ。
 
ファイナルはひとり3本のランを行い、ベストポイントで順位を決するおなじみのルール。歩夢はファーストヒットでFSトリプルコーク1440トラックドライバーを仕掛ける攻めのルーティンを狙うも、1、2本目のランは着地に嫌われていた。
 
あとがなくなった3本目。北京五輪の3本目に繰り出したときよりも精度が高いFSトリプルコーク1440に成功。そう断言できる理由としては、エアの高さはもちろん、限りなくリップに近いバーチカルに着地したうえで成功させていたからである。パイプランはリップ・トゥ・リップが理想と言われるように、次の壁に対してより加速させることができるからだ。そこからは北京五輪でのランを彷彿とさせるように、CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディを完璧に決めるも、4ヒット目のBSダブルコーク1260ウェドルの回転が若干足りずに万事休す。50.75ポイントで9位に終わった。
 
タイトルに綴っているように、回転数を下げたトリックをルーティンに組み込んだスコッティ・ジェームス(オーストラリア)が優勝を手繰り寄せた。このオフシーズン、弊ウェブマガジンでも取り上げているのだが、スコッティの十八番であるスイッチマックツイストから180戻すトリックをファーストヒットで披露。マックツイストの回転数は540だが、スイッチマックツイスト・リバートと呼ばせてもらおうこのトリックは360になる。そのためレギュラースタンスで着地するとそこから、BSダブルコーク1260ウェドル→FSダブルコーク1440テール→CAB900インディ→スイッチBSダブルコーク1260インディという高難度ルーティンを決めて91.25ポイントをマーク。結果として、このまま逃げ切った格好だ。

2位には、昨シーズンの総合チャンピオンである平野流佳が輝いた。2本目にスイッチBSダブルコーク1080インディ→BS900ウェドル→FSダブルコーク1440インディ→CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディを成功させて渾身のガッツポーズ。呼吸を整えて臨める1、2ヒット目とは違い、中盤にバック・トゥ・バック(連続)でダブルコーク1440を決める難しさを想像してみてほしい。88.25ポイントを叩き出した。
 
続く3本目。3ポイント差のスコッティを追い越し頂点に立つために挑んだのは、4ヒット目のCABダブルコークをトリプルコークにアップグレードすることだった。流佳はSNSに同トリックを成功させたシーンをポストしているので持ち技であることは重々承知していたのだが、惜しくも転倒。しかし、トリプルコークという超大技を、スピードを維持させなければならないパイプランにおいて、4ヒット目に取り入れるルーティンを構成できる流佳の底力が垣間見えた瞬間だった。
 
3位には韓国の17歳、イ・チェウンが入った。先週、同じく中国・北京で行われていたビッグエアでもファイナルに残っていた、いわゆる二刀流ライダーだ。筆者はおなじみ、J SPORTSで解説を務めさていただいていたためライブで見ており、その際に真下からのカメラアングルだとわかりづらかったためはっきりと言い切ることができなかったが、ファーストヒットでFSトリプルコーク1440トラックドライバーを決めたのだ。そこから、CABダブルコーク1440ウェドル→FSダブルコーク1260インディ→BS900メロン→FSダブルコーク1080インディを決めて87.5ポイントを記録。北京五輪金メダリストの歩夢が放ったルーティンは4ヒット目までは本人が今大会で放った内容と同じで、5ヒット目がFSダブルコーク1440だった。それがこれまでのハーフパイプ史上最高難度のルーティンであることは百も承知なので、トリプルコークを含むルーティンでも80点台というジャッジングが下された。
 
表彰台圏外だが特筆すべきは、最下位に終わったものの、歩夢同様に北京五輪を思い出させる滑りを魅せてくれた弟の海祝。ハーフパイプのハイエストエア世界記録保持者であり、その記録はこの地で行われたオリンピックという大舞台で樹立した。その記録を抜かんとばかりに、3本ともファーストヒットからメソッド・トゥイークでクワッドヘッドオーバーのハイエアを披露。強風にあおられたのか、セカンドヒットにつなげることはできなったが兄とともに、あの感動を再び味わわせてくれたのだった。
 
女子は予選をトップ通過していた冨田せなが棄権。予選時に負傷してしまい、チームの判断での欠場となった。昨シーズンは競技活動を一旦休止し、フリーライディングに明け暮れるシーズンを過ごしていた。ハーフパイプの滑走力とフリーライドスキルが掛け合わさったせなの滑りを楽しみにしていただけに残念だったが、次の米コロラド州カッパーマウンテンで開催されるワールドカップに期待したい。
 
せなが棄権、昨シーズン女王として君臨していた小野光希はDNS(Did Not Startの略。エントリーしていたが欠場)、さらに言えばオリンピック2大会連続金メダリストのクロエ・キム(アメリカ)も不在のため、女子は1080が飛び出すことはなく900で争われた。優勝はFSトゥフェイキーやBSアーリーウープ540など玄人好みのルーティンを決めたツァイ・シュートン、2位は平昌五輪銀メダリストのリュウ・ジャユとなり、中国勢がワンツーフィニッシュ。3位にはダブルクリップラーを決めたマディ・マストロ(アメリカ)が入り、表彰台を射止めた。
 
ついにハーフパイプが開幕。ショーン・ホワイト(アメリカ)からバトンを受け継いだ王者・歩夢は不本意な結果に終わってしまったが、次のカッパーマウンテン大会に照準を合わせて挑むのだろう。カッパーマウンテンは、歩夢が史上初のトリプルコークを決めた地である。腰を痛めており欠場となった戸塚優斗も次戦から参戦するとの情報も入っている。現地時間の12月14日(木)から予選が始まるので、こちらも見逃せない。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)

 
男子結果
1位 スコッティ・ジェームス(オーストラリア)
2位 平野流佳(日本)
3位 イ・チェウン(韓国)
5位 重野秀一郎(日本)
9位 平野歩夢(日本)
10位 平野海祝
21位 山田琉聖
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女子結果
1位 ツァイ・シュートン(中国)
2位 リュウ・ジャユ(中国)
3位 マディ・マストロ(アメリカ)
8位 冨田せな
DNS 小野光希(日本)
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