BACKSIDE (バックサイド)

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空前絶後の1980バトルで日本人男子2名が表彰台の快挙。鬼塚雅は3位獲得のW杯ビッグエア2戦目

2023.12.03

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2017年春に長野・栂池高原で開催された巨大ジャンプセッション「HAMMER BANGER」の特設キッカーで、角野友基が世界初のBSクワッドコーク1980をお披露目し世界中を震撼させたときから、このストーリーは始まっていた。その後、2022年の「X GAMES」ビッグエアでレネ・リンネカンガス(フィンランド)がBS1980をコンテストで初成功させるのだが、スノーボードで5.5回転が可能だと友基が証明してから5年の歳月をかけて1980時代に突入。その間、コンテスト以外で滞空時間を生み出せる巨大キッカーでは6回転の大技が誕生したわけだが、ついに、コンテストで1980が連発する時代が到来した。
 
2022年に北京五輪が開催された舞台にて、FIS(国際スキー・スノーボード連盟)ワールドカップ(以下、W杯)ビッグエア第2戦が行われ、オリンピック金メダリストで地元の英雄、シャオミンことスー・イーミン(中国)が圧倒的な強さを誇示し、優勝を飾った。ひとり3本のジャンプを行い回転方向の異なる2本の合算で争われるおなじみのルールのもと、シャオミンは1本目にスイッチBS1800ステイルフィッシュを完璧に成功。1980が飛び出すことが前提のジャッジングだっため余剰を残す必要があったことから、1800は80点台ということだったのだが、その中でほぼ満点に近い89ポイントを獲得した。そして2本目には、BS1980インディをパーフェクトストンプ。95.5ポイントを叩き出してトータル184.5ポイントとし、前述したとおり頂点を極めた。

シャオミンの1980の前に、今大会の5.5回転合戦を仕掛けたのは、木俣椋真だった。2本目にBS1980メロンを繰り出して93.5ポイントをマークし、口火を切ったのだ。続く3本目は1本目と同じくFS1800ダブルテールを繰り出し、87.25ポイントを獲得。1本目よりも完成度を高めて成功させたことで5.5ポイント上回り、トータル180.75ポイントで2位となった。
 
3位には昨シーズンのW杯デビューで3位となり表彰台を射止めてから、今シーズンの初戦でも2位をゲットしていた木村葵来が入った。これまで出場したW杯ビッグエア3戦すべてで表彰台に立ったわけだ。しかも、その中身すごかった。3本目にスイッチBSクワッドコーク1980インディを決めたのだ。得手不得手はあれど、4方向あるスピントリックの中で、もっとも難しいとされるスイッチBSスピン。間違いなく、コンテスト史上最高難度の大技だった。しかし、ポイントは伸び悩み92.5ポイント。ニーグラブ(グラブしていない手で膝を抱え込むアクション)が減点対象になってしまったのかはわかりかねるが、世界中に大きな衝撃を与えた瞬間だった。
 
昨シーズンの常勝ライダー、長谷川帝勝はCAB1800とFS1800を1、2本目に成功させて大逆転を狙った3本目、CAB1980ウェドルを繰り出すも、回転力を抑えきれず着地後に180してしまい、万事休す。4位と惜しくも表彰台を逃した。帝勝と同い年で前大会覇者の荻原大翔は今大会では精彩を欠き、10位に終わった。
 
女子は男子同様、北京五輪女王が再び表彰台の中央を射止めた。アンナ・ガッサー(オーストリア)が2本目にCABダブルコーク1260メロン、3本目にBSダブルコーク1080メロンを揃えて174ポイント。テス・コーディーは1本目にBSダブルコーク1080メロン、3本目にはFS1080ダブルテールグラブを決めてトータル171ポイントで2位となった。

そのテスにわずか0.5ポイント届かなったが、鬼塚雅は2本目にCAB1260ウェドルで88.5ポイントと今大会女子最高得点を記録すると、3本目にはBSダブルコーク1080トラックドライバーに成功。合計170.5ポイントとなり、昨シーズンの世界選手権以来のビッグエアでの表彰台となった。
 
筆者はJ SPORTSの番組ですべてのW杯の解説を務めさせていただいており、毎回、表彰台に上ったライダーたちと番組内で言葉を交わすことが許されているのだが、今大会ではメディア向けの取材が表彰式直後に入っていたようで、椋真と葵来とは話すことができなかった。そうした時間がない中ではあったが、雅とは少しだけ話すことができ、今大会の感想について「最低限のことはできた」と語っていたので、ということは可能性として何があったのか?というツッコミを入れると、“1440”というワードが飛び出した。先日、村瀬心椛が女性初となるBSトリプルコーク1440を成功させており、今大会4位だったミア・ブルックス(イギリス)が女性史上初の1440をCABスピンでその前に決めている。これらに肩を並べるトリックだけに、気になるところだ。
 
表彰台は逃してしまったものの、岩渕麗楽と先出のミアについては触れておかなければならない。麗楽は北京五輪と同じ舞台で、1年半前に世界中を興奮の渦に巻き込んだ超大技、FSトリプルアンダーフリップ1260インディを再び繰り出したのだ。北京五輪では惜しくも失敗してしまい、その後、昨シーズンのX GAMESビッグエアで大会としては初成功。大きな期待が寄せられていたが、今大会は2、3本目でトライするも着地に嫌われてしまった。北京の地でこの超大技が成功する瞬間を見届けたいと、心の底から思った。
 
またミアが1本目に繰り出したCAB1080ステイルフィッシュに注目したい。ハイライト動画には収録されていないので想像していただきたいが、グラブ時間は短かった。しかし、推測になるがわざとグラブを解除してあえてのノーグラブで、スピン後半の動きをコントロールしているように筆者の目には映っていた。セオリーで考えれば、グラブ時間が長いほうが得点が高くなるのはいわずもがな。そのうえで、85.25ポイントと高得点を叩き出したのだ。これまで以上に表現力を重視したジャッジングに、スノーボード競技の新たなる未来が感じられた。
 
最後に。北京五輪ではFSとBSの1800を揃えてシャオミンは金メダルを獲得していた。わずか1年半の間に、さらにスピントリックは大きく進化したわけだ。これまでもそうだが、特に2018年の平昌五輪からビッグエア競技がオリンピックの正式種目となり、加速度的に進化を続けているうえで、さらにそのスピードがとまらない。ミラノ・コルティナ五輪に向けて、その進化スピードはさらに早まるのかもしれない。
 
30年前には誰もが想像できなかったレベルにスピントリックは達しているが、例を出すと、今大会で帝勝が繰り出したFS1800はインディグラブをつかみながら前足を思い切りポークしているのだ。スノーボードのクールさを表現しながら5回転以上のトリックを操るライダーたちに対するリスペクトを、決して忘れてはならない。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)

 
男子結果
1位 スー・イーミン(中国)
2位 木俣椋真(日本)
3位 木村葵来(日本)
4位 長谷川帝勝(日本)
10位 荻原大翔(日本)
11位 宮村結斗(日本)
12位 國武大晃(日本)
43位 大塚 健(日本)
全結果はこちら
 
女子結果
1位 アンナ・ガッサー(オーストリア)
2位 テス・コーディー(オーストラリア)
3位 鬼塚 雅(日本)
6位 深田茉莉(日本)
7位 岩渕麗楽(日本)
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