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ヤドカリくん(佐藤秀平・國母和宏・工藤洸平)たちがマンモスにやってきた!
2017.05.12
アメリカ・カリフォルニア州に位置するマンモスマウンテンには、世界トップレベルの完璧なパークやハーフパイプがある。上級レベルのキッカーやジブアイテムが並ぶメインパーク、子供と一緒に滑れるフォレストトレイルパーク、そして春になると最高に楽しめるサウスパークと、クオリティの高いパークを好みやレベルに応じて選んで遊べる。もちろん、パーフェクトなスーパーパイプや遊べるミニパイプも常設されている。特に積雪が多かった今シーズンの4月、シーズン中から見事なパークが維持されているだけでなく、スーパーパークセッションのためにさらに巨大なセクションも造られ始めていた。
そんな時期に、アラスカ帰りのカズ(國母和宏)と、日本から到着したコウヘイ(工藤洸平)とシュウヘイ(佐藤秀平)の3人はロサンゼルスで合流し、車を走らせてマンモスにやってきた。この3人には特別な空気感がある。今の日本のシーンを代表するライダーであり、カズにおいては周知のとおり世界のトッププロスノーボーダーだが、3人でつるんでいる姿を見ていると、そんな偉大な存在であることを忘れてしまいそうなくらい、ふざけてばかりいるやんちゃな男たちだ。
ズバ抜けたスノーボーディングの表現力、悪びれた態度や風貌、日本にとどまらず世界に向けて堂々と発信するスタイル。その自信や新たな革命を起こし突き進む原動力は、どこから生まれているのだろう。
超越した激しさや強さの裏側には、心温まる絆があった。仲間同士のつながりや20代の素顔が垣間見えた、そんなヤドカリくんたちのカリフォルニアライフを、私、上田ユキエがお伝えします。
クールではなく泥臭い。そこに魅力を感じた
仲間同士でいると、なぜこんなにも自然体な姿が浮かび上がってくるのだろう。寝食をともにしながらスノーボーディングに明け暮れる、彼らの毎日を見ていて思った。
スノーボードトリップに慣れている男たちの海外生活は、プロだろうがアマチュアだろうが大差ないのだと思う。彼らは部屋でラジコンヘリを飛ばし、夜更けまで大爆笑して「静かにしなさい」と私に怒られる。朝はなかなか起きない。準備はダラダラとあまり迅速ではない。くだらない冗談を言い合いながら笑ってばかりで、なかなか先に進まないのだ。恐らくこれらはほかでもよくあることだが、単独ならばもっとテキパキしているのに仲間と一緒で緩んでいるという状態なのだろう。シーズン中、極限まで攻める滑りをし続ける彼らにとって、こんな風に気を許せる仲間とのスノーボードトリップというのは、きっと大切な時間なのだ。
しかし、スノーボードを履いて山に上がっても、その雰囲気が変わらなくて少し心配になる。リフト上の会話などオフレコだらけだ(え……そんなこと話してるの?)。彼らの会話を録音してしまいたいくらいだった(笑)
けれど、滑り始めたら違う。撮影を始めればそれぞれが自分のできることを貪欲に追求し、彼らは自分だけではなく仲間同士でプッシュし合い、盛り上げることにも長けていた。カッコ悪ければ悪いという。「今のはナイでしょ」。上手くいけば本人よりも見ている仲間の方が盛り上がり、大声で叫ぶ声がパークに響き渡った。
決してクールな撮影現場ではない。でも、それがとてもいいと思った。カッコつけているのではなく、彼らは大爆笑したり息を切らして汗だくになりながら、「カッコイイもの」を残そうとしていた。
きっと周囲が想像しているよりも泥臭い。むしろそこに、彼らの新たな魅力を感じてしまうのは、おそらく私だけではないだろう。これが彼らのありのままの姿なのだろうなと、それぞれが自然体でいられる仲間なんだなと、スノーボードで大切なもののひとつが仲間であるということに改めて気づかされたのだった。
カッコよすぎるヤドカリくんたちの滑り
マンモスのサウスパーク。メインのビッグキッカーなどがあるパークではなく、気楽に遊べるサイズのアイテムが人気のパークだ。地形で遊べるかなり面白いセクションもでき上がっていて、彼らはそこに目をつけて一日中ハイクアップしながら滑っていた。
旅から生み出すスノーボーディング
彼らはマンモスからレイクタホのスコーバレーにショートトリップする計画を立てた。同じカリフォルニアとは言え、片道4時間という距離ではあるが、当たり前のように「日帰りする」そうだ。
レイクタホエリアといえば、STANDARD FILMSの拠点だった。16歳の頃のカズがひとりでこの町に住み、世界の頂点である撮影クルーと過ごした思い出の土地でもある。カズは町を通りながら懐かしそうに「この辺りに家があって、休みの日は買い物と食事をしにバックパック背負って歩いて行ったんだ」と説明してくれた。その食事をしに行ったレストランまでの距離といったら……「これはオフではないね」とみなが苦笑するほど遠かった。当時はまだ車の免許もなく英語もままならない日本人の男の子が、この町でどんな思いを抱きながら過ごしていたのだろう。アメリカという地でどんな環境にいても堂々としているカズを見ていると、その頃からの経験が今の彼の揺るぎない人格を作ったのだと思えてくる。
朝の湖は美しかった。シュウヘイもコウヘイも初めてのレイクタホ。「帰りはご飯買って湖で食べようよ!」、観光気分で盛り上がっている。旅の道中はほとんど喋りっぱなしだった。マンモスを出発してから、朝日を浴びるモノ湖の湖畔に感動しながら通り過ぎ、遠くに見える雪山を眺めながら走った。「旅っていいよね」、車の中では時折ケータイはチェックするものの、みなの持つ日本のケータイはほとんど電波を拾わないから、余計なものがないのだ。音楽を聴いたり話したり景色を見たりするだけのシンプルな時間は、この時代だからこそなおさら価値があるのだと思う。
スコーバレーに到着し、駐車場でウエアに着替えて身支度を整える。最高の青空に眩しい雪山がそびえていた。思っていたよりもずっと大きな山だ。ゴンドラ乗り場へ歩いていくところから、すでにローカルスノーボーダーが近寄り話しかけてくる。「カズだよな!」。サングラスをして私たちと歩くカズは「KAZU」だと一目で認識されているのだ。その後も、ゴンドラの中やゲレンデで多くのスノーボーダーに声をかけられる。コウヘイやシュウヘイもまた、知り合いのライダーがこの地に存在していた。彼らの知名度や行動範囲の広さを痛感させられた。なぜ彼らが日本という枠を飛び抜けていると感じるのかは、単純に海外へよく滑りに行っているからというわけではない。彼らは行く先々でその地のライダーたちとコミュニケーションを図り、認められているからなのだ。そこが、彼らがほかのライダーたちと何か違うところだったんだ。
この山はハイシーズンに来たらどれほどすごいかということが、その地形と斜度から感じとれた。スコーバレーもまた、例のごとく雪の多いシーズンを迎えていたから、4月末の時期でも十分に楽しめる雪質と広さを誇っていた。まずはパークをチェックしたが、ここでしかできない画を残そうと彼らは探検に向かった。その姿はまるで、小学生の男の子たちが裏山を登って宝探しをするかのようにも見えた。
彼らはあるポイントを見つけ、照準を定めた。さすがだなと意表を突かれるアイデアが、彼らからはポンポン出てくる(え、そこをそういくのか……)。スノーボーディングの可能性とかスノーボーダーの限界とかが、彼らによって簡単に壊されていく気がした。私たちが想像するものとは明らかに違うレベルにいることを思い知らされた。
ハイクアップする彼らはもちろん緊張するわけでもなく、雪の上を走るリスを見ながらやれ太り過ぎだの、猿みたいだの言いたい放題言ってる声が聞こえてくる。こんな緊張感のある斜面を登っているとは思えない雰囲気だった。そして、ドロップインした瞬間、彼らはすごいライディングを魅せつけてくれた。そのスタイルに、スピード感に、迫力に、鳥肌が立った。
滑り終わると興奮して、「今のスピードやばかったー!」「硬くてやばかったー!」など盛り上がっていた。その姿がまた、いきなり少年のようで微笑ましいのだ。旅の帰りは話していたとおり、バーガーを買って湖のほとりで食べた。メチャクチャ美味しかった。
たった1日という日帰りトリップだったけれど、車内で交わした会話や一緒に見た景色、共有した時間から生まれてくるものが確実にあったと思う。きっと後から笑いのネタにするのだろう。そして、またひとつ彼らの歴史となり、絆に繋がっていくのだろうな。
「あんときタホ行ったよね! ユキエちゃんもいたよね~」なんて思い出してもらえるのだろうか。ヤドカリライフを垣間見させてもらえた数日は、いちスノーボーダーとして貴重で刺激的な経験となった。
登場人物
國母和宏
佐藤秀平
工藤洸平
YADOKARI 情報
「10月に全国試写会ツアーを回る予定です。ライダーたちと一緒に、その空間を楽しみましょう。DVD、グッズ販売もあるので楽しみにしていてください(コウヘイ)」
text: Yukie Ueda special thanks: Mammoth Mountain, Squaw Valley