
FEATURE
仲間やブランドと裏山で磨き上げた吉田啓介のオリジナリティ『BACKYARD』
2022.11.16
BACKYARDとは、2018年にTJ BRAND(ティージェイ ブランド)とのコラボレーションによりMHWのコレクションとして名を連ねていたラインナップと同タイトルになる。バックカントリーを滑るために開発されたライダーズプロダクトだったわけだが、今年2月にMHWに加入し、今後のバックカントリーフリースタイル界を牽引していく啓介に敬意を込めて、そのように銘打たれたのかもしれない。
今シーズンは日本のムービーシーンが熱い。先述したSHUTIMEにはじまり、工藤洸平率いるNOMADIK(ノマディック)初のチームムービー『GYPSY』が注目を集め、そして、このBACKYARDが締めを飾る格好だ。啓介自ら、「フルパートムービーを作らせてくれ」と懇願して実現した、そのバックヤードに迫る。
地元の仲間とともに生み出された傑作たち
地元の仲間とともに生み出された傑作たち
「8割……いや、9割は秀平くんと一緒でした」
フリースタイルスノーボーディングの映像制作において、撮影地となるロケーションの豊富さや鮮度が作品に与える影響は大きい。視聴者を飽きさせないことはもちろん、そのためにもトリックやラインのバリエーションを多彩に表現することが求められるからだ。だからこそ、撮影ポイントの選定には慎重を期さなければならない。
チームムービーであれば、役割分担という意味でもクルーが一堂に会して同じポイントで撮影し、その中でよりよいフッテージを残した者が選ばれるわけだが、啓介と秀平はともにフルパート作品を作るために行動していた。時間も限られているわけだから、一つひとつのロケーションが重要になってくることは言うまでもない。そのうえでBACKYARDの撮影中、どれくらい秀平と一緒に行動していたのか尋ねた際の答えが冒頭の言葉だった。
「なんか面白いエピソードがあったほうがいいのかもしれないですけど(笑)、めちゃくちゃスムースに撮影は進みました。秀平くんは特に気を遣ってくれるタイプなんですよ。オレが(撮影を)やりたがっていることを察知したら譲ってくれるし、秀平くんが撮影したそうな雰囲気を察したときは『秀平くん、あれいったほうがいいっしょ』みたいな感じで」
啓介と秀平は、ともに北海道・旭川で生まれ育った。秀平がひとつ年上ということになるが、カズこと國母和宏率いるSTONPの映像作品などで共演を果たしてきた盟友である。そのカズや前出の洸平も含め、プライベートを通じて一年中行動をともにしている同志だ。
「シーズン前半は(長野)白馬に集まって撮影して、北海道に戻ってからも洸平と一緒に撮影していました。途中からNOMADIKの映像を撮るためにカズのいる白馬に戻って、(大久保)勇利も追いかけるように白馬に行ったので、最終的には秀平くんとずっと北海道で動いていましたね。
キヨ(川崎清正)くんが毎日撮れた映像を送ってくれていたので、日々イメージしながら秀平くんと話し合って自分たちのパートを作っていく感じでした。道中も含めてめちゃくちゃ楽しかったですね」

「パウダーを滑っているときの気持ちよさをムービーから感じとってほしい」と語る啓介
BACKYARDを観る前にすでにSHUTIMEを観たという人がいるならば、わかるだろう。先述した話が信じられないほど、ロケーションがかぶっていない。そのうえで、両名ともに日本でのフッテージは1ヶ月程度という限られた期間で撮影されているにもかかわらず、それぞれが5分超に渡るフッテージを残しているのだ。その分、啓介と秀平は歩いては登り、滑っては飛んでを繰り返し、そして、言葉を重ねてきた。
「北海道はロードサイドにたくさんポイントがあって撮影できるんですけど、本当に1箇所しか(映像が)残せないスポットのときは、お互いにどちらかがサポートする感じでした。一緒にキッカーを作ったりして、そのポイントが終わったら次にいくような流れだったので、意外と(ロケーションが)かぶるような感じにはならなかったですね。
とにかく(秀平くんと)プッシュし合えたのがよかった。もしもひとりで撮影していたら、まったく別物になっていたと思うし、お互いに意見を出し合ったからこそできた作品なんだと思います」
バックカントリーで最高の画を残すための必需品
バックカントリーで最高の画を残すための必需品
先述したように、タイトなスケジュールで撮影は行われた。啓介はガイドの仕事を並行して行っていたため、それも要因のひとつだが、そのうえで秀平とロケーションを分け合いながら撮影しているのだから、1本1本の滑りに対して相当な体力と集中力を要したはずだ。
「これまでだったら4ヶ月くらいかけてひっきりなしに撮影している感じだったんですけど、みんなそれぞれ違う動きをしている中で、凝縮された1ヶ月でした。撮影中は天気や雪の状態が変わりやすいので、急いでハイクアップして滑って、また登り返して……という感じで運動量がものすごく多いんですけど、昨シーズンはエアメッシュのファーストレイヤー(エアメッシュロングスリーブクルー)がめちゃくちゃ調子よくて。裏起毛があって暖かいんですけど、ハイクアップしているときの通気性がすごくよくて、いつものシーズンよりもかなり調子よかったですね。洗濯してみたら15分くらいで乾くし」
シーズン途中にMHWへの移籍を発表しているように、昨シーズンから身にまとうプロダクトが変わった。当然ながら、直接身体に触れるファーストレイヤーが、レイヤリングの際にもっとも重要なアイテムといって間違いない。
「北海道は寒い日が多いから、基本的にミッドレイヤーは厚手のものを着るんですけど、仮に気温が上がったとしてもファーストレイヤーの透湿性がめちゃくちゃいいので(蒸れることなく)調子よく滑れました」
また、バックカントリーフリースタイルを生業としている啓介にとって、バックパックは必需品である。ガイド業も行っているため、なおさらだ。

雪深い裏山を何度も何度も登り返す。華やかなバックカントリーフリースタイルのバックヤードはハードだ
「バックパックを背負ったままトリックをするから、どうしても背中が振られてしまうんですよね。でも、MHWのバックパック(POWABUNGA 32 PACK)は限界まで絞れば、32Lあるけど違和感なく滑れました。あとは、ガイドをやっているときって道具が増えるじゃないですか。でも、32Lで十分まかなえたんです。32Lって聞くとちょっと大きい感じがするかもしれませんが、かなりコンパクトに収納できるので、20Lちょっとのバックパックを背負っているような感覚でした。
ファーストレイヤーやバックパックなど、アウトドアブランドの多くは機能性が高いと思います。でも、オレは登山家ではないから、やはりスノーボーダーらしくいたいんです。MHWのBOUNDARY RIDGEシリーズを着ているんですが、シルエットがけっこうルーズなので、そういうところがスノーボーダー心をくすぐっていいな、と思っています」
8,000m超の山でも使える、高品質で耐久性に優れたプロダクトを展開するMHW。同ブランドの詳細について気になるという方は、こちらのページをご覧いただきたい。MHWの機能性を有するスタイリッシュなアイテムを身にまとい、快適かつ効率的に滑れたことで、短期間にもかかわらず数々のフッテージを生み出すことができたのかもしれない。
能動的かつ積極的に動き続けて見つけた“自分らしさ”
能動的かつ積極的に動き続けて見つけた“自分らしさ”
「何年後かに観たとき、このときのストーリーを思い返したくなるようなフルパートになったと思います。自分の中でも節目となるシーズンでしたね」
同い年にあたるカズに本ムービーを見せたところ、「今の啓介の感じが出ていていいね」という感想を漏らしていたそうだ。自分らしさを表現することがフルパートムービーの醍醐味であるわけだから、最高の褒め言葉にほかならない。
「(フルパートムービーとは)自分がやりたいことのすべてだと思っています。もちろん、キヨくんと話し合ってチームワークでやっていくんですけど、自分が今考えているスノーボードを表現できるという部分では、とても価値があることです」

「そこでこんなことをするの?という驚きを観ている人に与えたい」とは啓介の言葉
こうした“自分らしさ”を最大限に表現するため、サウンドにもこだわった。
「旭川で路上ライブがあって、トンコリというアイヌの伝統的な弦楽器を使っている『OKI DUB AINU BAND』のライブを観に行ったら、めちゃくちゃカッコよくて。その中心人物のOKIさんに楽曲を使わせてほしいとSNSを通じてコンタクトをとったところ、許可してもらえたんですよ。ロケーションのほとんどが北海道だったこともあったから、話が上手く進んでよかったですね」
今回のフルムービーに群馬・谷川岳で撮影されたフッテージは使用されていないのだが、冒頭に登場するTJ BRANDのボス、西田洋介との出会いが大きかったと啓介は語る。
「BACKYARDには使われていないんですけど、谷川岳で出会った先輩たちから受けた刺激は大きかったですね。西田さんや(真木)蔵人さんたちの雪山に対する向き合い方というか、これまで自分がスノーボードで悩んでいたことが吹っ飛んだ感じでした」
さらに啓介はこう続ける。
「カズが白馬にいるから1週間くらい滞在して雪にも恵まれて、そのあと谷川岳にお邪魔して、北海道に戻ってからも行ったことがなかったポイントに(スノー)モービルで向かって撮影したり、自分の中で新しい流れがあったシーズンでした。撮影を重ねていく中で段々と足りないものが見えてきて、『オレだったらこういうのがあったほうがいいよね』っていう話にもなったりしながら、自分らしさを探し求める感じでした。
もっとデカいラインを狙いたいと思っていたところ、キヨくんに声をかけたら4月頭のラストパウダーに合わせてドンピシャで3日間来てくれたんです。それが、エンドロール前の最終カットになりました。撮り終えたとき、これでなんとかいけそうだ!という感じがして」
同郷である秀平とともに歩みながら、カズや洸平からインスパイアを受け、これまで知らなかった谷川岳の先輩たちからも大きな刺激をもらった。そして、「中井(孝治)くんと一緒に滑り続けてきて思っていたことでもある」と強調するように、多くの仲間や先輩たちと滑り続けてきたことで啓介らしさが育まれ、そして、磨き上げられてきた。
さらに、冒頭で述べたように自らチャンスを手繰り寄せ、結果を残したわけだ。日本が世界に誇る北海道の雪とともに、啓介のオリジナリティがグローバルに向けて発信される。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Tsutomu Nakata
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