BACKSIDE (バックサイド)

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SPECIAL

ストリートもフリーライドも高次元にこなす小川凌稀の礎を築き上げたオールラウンドな雪山・川場【KAWABA LIFE Vol.9】

2025.03.14

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世界一過激と言って過言ではないストリートコンテスト「DIYX STRT JAM」に招待されるなど、ジバーとしてのスキルは折り紙付き。日本のストリートシーンを世界レベルへと押し上げた第一人者である。さらに、カナダ・ウィスラーで鍛え上げたフリーライドスキルを武器に、ストリート×パウダーという新境地を開拓中。KIYO FILM作『U』でおよそ4分のビデオパートを獲得したのだが、その片鱗がうかがえるだろう。東京で生まれ育ち、現在は北海道に拠点を置く小川凌稀だ。
 
凌稀は今年1月、ひさしぶりに撮影で群馬・川場スキー場を訪れた。北海道に移り住んで5年ほどが経過し、ストリートやバックカントリーだけでなく数々のゲレンデも滑り込んだうえで、「オレ、やっぱここ好きですね」とつぶやく。幼少期に滑り込んだ雪山にプロとして戻ってきた凌稀は、川場をどう感じたのか。

北海道やウィスラーで滑り込んだ男が太鼓判を捺す地形と雪質

小学生の頃からプロスノーボーダーを目指していた凌稀は卒業式のスピーチで、「海外で活躍できるライダーになりたい」と言い切ったそうだ。ちょうどその前後、小・中学時代にかけて、父とともに川場に足繁く通っていた。
 
「はじめてスポンサーがついたのが小6か中1くらいのときだったんですけど、その前から川場にはよく行ってました。壁やサイドヒットで遊んだり、コースとコースのつなぎ目の起伏を活かしてトリックをしたり。パークのキッカーにも入っていましたけど、壁でバターっぽい動きをしてみたり、自然地形のサイドヒットで飛んだりしていたことが、今の自分の滑りにつながっているのかなって思いますね」
 
そんな思い出のゲレンデに、プロスノーボーダーとして撮影に訪れた。
 
「北海道に引っ越して5年くらい経つんですけど、向こうのゲレンデはパウダーはめっちゃいいじゃないですか。でも、スノーボードで遊べるような地形が少ないんですよね。そう考えると、北海道だとパウダーがないとちょっと飽きてくるんですけど、川場には壁がたくさんあるからトップ・トゥ・ボトムで当て込みながらパークに入って、最後まで壁で遊べる。そして、フラットバーンも調子いい。パウダーがなくても、壁で遊びながらパークに入れる流れが、改めて滑ってみてもすげぇ楽しかったですね」

 

少年時代を思い出しながら壁遊びに興ずる

 

今回はビールのプロモーション動画の撮影だったため、凌稀はビールケースを抱えながら滑っていた。ハイスピードから豪快なエアや自由度の高いトリックを繰り出せたわけではないものの、その楽しさに太鼓判を捺す。今シーズンはRIDE SNOWBOARDS(ライド スノーボード)のグローバルチームとともに撮影に明け暮れているトッププロだが、ビールケースを抱えながら滑っていたうえでの彼の言葉は、より一般目線に近い意見として受け止めていいだろう。
 
本連載「KAWABA LIFE」ではこれまで、多くのライダーたちが川場の雪質を高く評価している。北海道をベースに滑り込んでいる凌稀は、その雪をどう感じたのか。
 
「ビールのケースを持ちながらの撮影がメインだったからグルームのところを中心に滑っていたんですが、『OFF THE PISTE Ⅳ』は滑りました。群馬や(新潟)湯沢あたりの雪質はけっこう湿っているイメージを小さい頃から持っていたんですが、川場の雪は本当に軽かったですね。朝イチはビールの乾杯ショットを撮りまくっていたから少し出遅れたタイミングでツリーエリアに入って、気温もちょっと高めだったけど、雪は全然よかったです。斜度はそこまでないんですが、スタックするほどでもない。右のほうに落としていくと沢があって、すぐにコースに合流できるので、一般の人たちにとっては安心感もあると思います。ゆるーくクルージングできる感じが、オレはすごく気持ちよかったですね」
 
ビールケースを抱えながら滑るという仕事をしながらも、当時の思い出を噛み締めながら、凌稀は川場でクルージングを楽しんだ。

 

ビールケースを抱えながら、背後に写る久保田空也とともに高速クルージング

 


豊富な地形に恵まれながらも多様なパークを常設する懐の深さ

「めちゃくちゃいいときのパウダーを滑ったことはないんですが、降ったらここヤバいんでしょうね。バックカントリーもいけるって聞きました。小さいときに川場を滑っている頃は、埋まっちゃうからパウダーが大嫌いでしたけど(笑)。当時は東京に住んでいたからアクセスがめちゃくちゃいいので手軽にパッと行けて、山も小さくない。降雪があった日はパウダーを滑って、パウダーがなくても壁で遊べて、どこもダメだねってときでもパークを滑れる。川場はオールマウンテンだと思いますね。コンディションがよければトップ・トゥ・ボトムでこの距離(3.3km)を滑れて、パウダーも壁もパークも滑れるのはめちゃくちゃいいですよね。次はハイシーズンに行きたいと思っています」
 
雪質と地形については前章で語ってもらったので、本章ではパークについて話を聞いてみた。川場には複数のパークがあるので、まずはメインの「FLUX PARK」について、凌稀は次のように語る。
 
「撮影のときにひさしぶりに川場のパークに入りましたけど、やっぱ面白いなって感じました。最近のパークって一本のラインで滑りたくても、左右に振らさせるアイテムのレイアウトが多いと思うんですけど、川場は縦のラインで遊べた。オレの場合、パークアイテムは一本のラインで置いてくれたほうが面白いのになぁっていう考えだから。ジャンプラインからヒップを飛んでランディングしてからレールラインに入れるレイアウトが、スケートパークっぽいと思いました」

 

スケートパークのようなレイアウトのFLUX PARKで、スケートライクに当て込む凌稀

 

今シーズンは3月に入っても十分な積雪量があるため、大型のアイテムもハイクオリティのままキープされている。本格的なパークシーズンが始まるだけに、凌稀が言うようにスケートライクに遊んでみてはいかがだろう。
 
また、自然地形を活かした「THE FREE RIDE PARK」を凌稀はどう遊んだのか。
 
「大きく使える壁があって楽しかったですね。デカいバンクドスラロームは言い過ぎかもしれないですけど、そんな感じのイメージで遊べました。でも、スピードをつけていけば縦のラインで上って下りてくるようなアクションもできるので、創造力次第でいろいろな遊び方ができると思いました」

 

ただオーリーをするだけで画になる男

 

凌稀が撮影時に滑ったのは1月なのだが、2月中旬に大規模なリメイクが施された。凌稀が話してくれたことに加えて、クォーター・トゥ・ヒップやウェーブ、エンドボウルなどが加えられているので、例年のTHE FREE RIDE PARKよりも、さらにクリエイティビティに楽しむことができる。
 
本章の冒頭で凌稀がオールマウンテンと語っているように、パウダースノーや自然地形でフリーライディングスキルを高めながら、パークを利用してフリースタイルスキルも鍛えられる。その逆も然り。川場を滑り込めば、凌稀のようなオールラウンドな滑りが体得できるのかもしれない。


ハンドレール撮影の前後に感じた川場のホスピタリティ

凌稀が川場を訪れた理由は、こちらの記事「川場を知る人なら必ず上り下りしたことがある階段で小川凌稀と久保田空也がまさかのセッション」で紹介しているムービーの撮影だった。ご覧になったという方はおわかりだろうが、ラストを飾っているシーンはセンターハウス「カワバシティ」を出てすぐにある階段のハンドレールだ。
 
「昼間の撮影は順調に終わって、自分のアイデアをキヨくん(KIYO FILMの川崎清正氏)に相談したら『めっちゃいいじゃん!」ってことになって、階段の手すりで撮影することになったんです。発射台もピステンで盛ってくれて、オレたちは最後にリップを手直しするくらいだったので、ラウンジでゆっくりさせてもらっていました。センターハウスにはムラサキスポーツがあったり飲食店もいろいろあって、ビレッジっぽい雰囲気がよかったですね。ラウンジもコーヒーを飲めたり寝っ転がれたりするので、ゆっくりさせてもらいました」

 

「POWDER LOUNGE」でくつろぐ凌稀(左)

 

準備が整い、最後のシューティングがスタート。川場を訪れたことがある人なら絶対に上り下りしたことがある、あの階段のハンドレールが舞台だ。
 
「昔のビデオなんですけど、シモン(チェンバレン)とかJP(ウォーカー)があのハンドレールをコスっているのを映像で観ていたから、いつかコスりたいと思っていました。だから、あのハンドレールをコスれて、それが仕事になったことがうれしかったですね。いわゆるよくあるゲレンデのPR映像とかよりも、オレっぽいなって(笑)」

 

凌稀の生業であるストリート撮影さならがの雰囲気

 

センターハウスの機能を持つカワバシティを出てゲレンデに直結する階段なので、レールオフした直後すぐに出入り口があるという厳しい条件。しかし、凌稀の主戦場はストリートなだけに、バックサイド・リップスライドやバックサイド5-O・トゥ・フロントサイド180オフなどで巧みに攻略した。ビールは浴びるほど飲んでいたようだが(笑)、無事にシューティングは終了。朝イチの「FIRST TRACK CAT SERVICE」から始まった長い一日は終わりを告げた。
 
もちろん運転はしないものの、帰りの立体駐車場で改めて、雪解け水で濡れることなく着替えられる快適さを痛感させられた凌稀。足繁く通っていた幼少期がフラッシュバックした。
 
「小さいとき、『ここ立体駐車場があるのすげぇじゃん、父ちゃん!』って言ってたのを思い出しました(笑)」

 

小川凌稀(おがわ・りょうき)
 

 
生年月日: 1994年3月6日
出身地: 東京都足立区
スポンサー: VOLCOM、RIDE SNOWBOARDS、HOWL、STANCE

interview + text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Yutaro “DP” Hirakami

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