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世界中の山々を滑り倒すフリーライディングの達人 小西隆文が絶賛する川場の雪質と地形【KAWABA LIFE Vol.8】
2025.01.28
新潟・妙高をベースに活動する山滑り師・小西は昨シーズン、首都圏からおよそ2時間の距離に位置する群馬・川場スキー場を訪れた。数えるほどしか滑ったことがないというが、世界中の山々を滑り倒してきた彼が川場に魅せられた理由。それを知れば、今すぐにでも川場で滑りたくなる。
川場で滑るとパウダーライディングが上手くなる
「僕が滑っている妙高エリアの雪質は重いほうで、踏みごたえがあってスピードが出るパウダーなんですけど、川場は北海道の旭川を中心とした道北エリアのような、キメの細かい雪でした。内陸だから軽いとは思っていたけど、水分が少なくてドライだから、スプレーがずっと舞っているような印象ですね」
弊誌ISSUE 11「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」(カワバシティ7Fの「パウダーラウンジ」で読める!)の表紙を飾っている小西の滑りが示しているように、プロ随一のフリーライディング力を誇る。本記事の撮影が行われたのは、暖冬小雪に苦しめられていた昨年2月2日。写真を見ながら、「こんなにブッシュが出ているくらい雪が少ないのに、パウダー滑れたってすごくない?」と笑みを浮かべながら、川場の雪質について次のように分析する。
「妙高のパウダーは湿雪だからボコボコになりやすいし疲れやすいんですけど、川場のパウダーは荒れてきても潰していけるような軽い雪。雪の量はそこまで多くないのかもしれませんが、埋まって動けなくなるようなこともあまりなさそうだから、いい意味で構えることなくパウダーを楽しめると思います。雪質によってパウダースノーにもいろいろな種類がありますけど、川場のパウダーは滑りやすいですね」
道北エリアのパウダーは超ドライで深いから難しいとしたうえで、川場のそれはもう少し湿気を含んでいて、積雪量はそこまで深すぎない。だからこそ、パウダーライディングの練習にもってこいだと小西は語る。
さらに、北米のビッグマウンテンから関温泉に至るまで、あらゆるツリー内を滑り込んできた小西の眼力をもってして、川場が誇る開放エリア「OFF THE PISTE」についても太鼓判を捺す。
「雪不足だったのでブッシュはたくさん出ていましたが、それが埋まればツリーの間隔は広いですね。とても滑りやすいと思います。撮影したときは雪が少ないながら、ツリー内にはパウダーが溜まっていました。川場は風が強いとよく聞きますが、ツリー内にパウダーが吹き溜まりやすく、その日のコンディションに合わせていいポイントに案内してくれたんでしょう。あと、全体的に木が低いので、ツリー内が明るいのも特徴。ほかのエリアの林の中はもっと木が高いから、川場に比べると暗いですよ」
関東とは思えない超ドライなパウダースノーが溜まりやすく、しかも、明るいから視認性も高い。ツリーランの練習にも最適と言えるのではないか。
川場はフリーライディング力を高められる3Dな山
川場といえばクリスタルコースの両サイドにある、特にレギュラーのバックサイドに位置する壁地形を思い出す読者諸兄姉が多いだろう。ほかにも飛べるポイントが多いと小西は絶賛しているのでわかりやすい地形については後述するが、さすがは山滑り師。視点がまったく違うのだ。
「全体的にコースが真っ平らではなく、バーンがうねっているように感じました。特にクリスタルコース前半の左に折れていくところから、ライダーズライトに曲がっていくあたりはうっすらとうねっていて、そこをバンクのように見立ててカービングターンするのが気持ちよかったことを,めっちゃ覚えています。そこから下には壁があるじゃないですか。川場は全体的に3Dなゲレンデというイメージですね」
一般スノーボーダーにはフラットバーンにしか見えないかもしれないが、その若干のうねりを利用することで気持ちよく滑れるし上達するのだと、小西は語る。
「バンクがあったほうが加速させやすいじゃないですか。バンクっていうほどわかりやすくはもちろんないですけど、そういう凹凸を見極めてターンすることで気持ちよさが増します。ボードをできるだけズラさずに一本の線になるようなラインどりを意識して滑ると、スノーボードがすごく面白くなる」
その延長線上に、一般スノーボーダーでもわかりやすい壁地形にまでつながるラインをイメージしながら小西は滑っているのだ。
「壁地形に当て込むだけでも楽しめますが、リップになっている箇所がいくつかあったので飛べるのがさらに面白かったですね。(レギュラーの)バックサイドウォールが川場の特徴だと思いますが、FLUXパークにはヒップなど(レギュラーの)バックサイドで遊べるアイテムがいくつかあったから、同じバックサイドのトリックでも違いを楽しみながら上達できると思います。壁地形でリップまでいけなかったり飛べない人は、ラインどりを意識するといいですね。大体の人は壁に対して斜めに入っていくんですけど、そうならないように深めのターン弧で入っていき、飛びたいのであれば(ソールを雪面に対して)フラットになるようなラインどりを意識すること。壁でカッコよくターンしたいのであれば、ヒールサイドで上りながらもトウサイドに切り替えられるラインどりでいくといい。川場の壁はめちゃくちゃ練習になると思います」
ボーっと滑っていたら気づかないようなコース上に存在する3Dのうねり、そして、壁地形を利用して滑る。近年、バンクなどを造成して地形を再現するパークが人気を博してるが、そうした遊び方が川場は天然地形でできるのだと、小西は教えてくれた。さらに、川場を滑り込むことでフリーライディングスキルが高まるのだ、とも。
「3Dのうねりを利用してターンを加速させながら、飛べるポイントがあれば狙ってほしいですが、そのときにエッジをズラしてブレーキをかけるのではなく、一本の線でつないでいくラインどりを常に意識しながら滑ってほしい。そうした滑りが思いどおりにできるようになると、バックカントリーでもいいラインが残せるようになります」
施設も料理も雪山もハイクオリティな川場
「先日行ってきたオーストリアやスイスのリゾートは地下に駐車場があって、その上にゴンドラ乗り場があるから快適でした。地下ではないけど、川場の立体駐車場もまさにそうですよね。天候が荒れていても快適に準備できるのは、ものすごいアドバンテージ」
世界中の山々を滑ってきた小西隆文から見た川場は?という質問に対しての答えだ。雪山のポテンシャルの高さは先に述べたとおりだが、川場の立体駐車場もそれに引けをとらないということ。開口一番出てきた答えだからこそ、それ以上なのかもしれない。
「ゲレンデに出るまでにもいろいろなお店があって。ムラサキ(スポーツ)もあるしパウダーラウンジもあるから、たとえば滑らない奥さんや彼女と一緒だったとしても、ショッピングしたりご飯を食べたりしてもらっている間に旦那は滑りに行く、みたいなことが自然とやりやすそう」
川場の施設について、雪山以上に流暢に言葉を発する小西は、「ご飯もお美味しかったですね。本格的なタイ料理でした」と、話が止まらない。カワバシティ8階の総合レストラン「ティンバーライン」で提供しているグリーンカレーとガパオライスに舌鼓を打ったそう。本企画のVol.1に登場してくれた佐藤亜耶も絶賛していたタイ料理だ。さすがはHEART FILMSのチームメイト、滑りだけでなく味の好みも似ている(笑)
施設やレストランについても言及してもらったところで最後に、「KAWABA LIFE」を過ごすことでスノーボーダーとしてどう成長できそうか、聞いてみた。
「漠然とターンするのではなく、斜面のうねりを意識しながら、壁を利用して積極的にターンをしたり飛ぶことで、フリーライディングの能力が上がります。それは間違いないですね。こういう練習ができるゲレンデは意外と少ないんです。地形を再現したパークのようにターンするポイントがわかりやすく用意されているよりも、自分でラインを引くことが大事。川場にはそういう自然地形があるから、どういうラインで滑ればいいのかをイメージしながら滑ることで、スノーボードがより面白くなるし、上手くなると思います」
小西隆文(こにし・たかふみ)
生年月日: 1978年1月30日
出身地: 徳島県藍住町
スポンサー: ROME SNOWBOARDS、UNFUDGE、TSG
photo: ZIZO=KAZU
interview + text: Daisuke Nogami(Chief Editor)