BACKSIDE (バックサイド)

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SPECIAL

谷川岳のパイオニア 西田洋介がフリーライド力を高めるベストゲレンデだと太鼓判を捺す川場の実力【KAWABA LIFE Vol.3】

2024.02.01

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2シーズンに渡り、「FREESTYLE PARADISE」「FREESTYLE MOUNTAIN」と銘打ち、内陸ならではのドライスノーや豊富な自然地形について言及した連載記事をお送りしてきた川場スキー場は、今シーズン、“滑り手”にフォーカスする。川場とゆかりのあるトッププロから一般スノーボーダーまでが“それぞれの川場ライフ”を語る連載企画がスタート。
 
Vol.3に登場するのは、同じく群馬……いや、日本を代表する名山・谷川岳を開拓したことで知られるバックカントリー界の草分けだ。その入り口である天神平で行われている「TENJIN BANKED SLALOM」をプロデュースし、さらに、T.J BRANDやTWELVE SNOWBOARDSのディレクターを務める西田洋介。現在はフリーライディングシーンを牽引する立場として新たなボードシェイプを生み出す傍らで、その奥深いシーンへと誘うべくフィールドの提案も行っている。その舞台が川場なのだ。

首都圏からもっとも近いフリースタイルマウンテン

東京生まれフリーライド育ち、悪そうなヤツはだいたい友達……だったかどうかはさておき。サーファーであり、スノーボーダー。現在も東京をベースとしてライディング活動に明け暮れている西田は、自身が開拓した“世界一危険な山”と言われている谷川岳のイメージが強い。そのせいか以外の山、ましてやスノーリゾートのニオイがしないのだが、「毎シーズン、川場で20日以上滑っている」そうだ。

 

世界中の山々を滑り込んできた西田が絶賛する川場のパウダースノー

 

「90年代初頭、当時のメインストリームだったハーフパイプを自分たちで手掘りして作り出したのが谷川岳天神平でした。それをキッカケとしてのちに谷川岳を開拓していくわけですが、当時も今も同じ群馬県内の水上や片品エリアのいろいろなゲレンデで滑っています。もちろん、北海道や新潟、長野などほかのエリアにも行きますが、群馬は雪質がドライで軽い。その中でも特に川場は雪質も地形もよくて、群馬の中では首都圏から一番近いですよね。入り口のビーチというか、川場はみんなが集まりやすいオープンブレイクで、谷川岳まで行くとリーフ(海底がサンゴ礁や岩盤のサーフスポット)だから危ない。そうしたことを踏まえて、昔から川場の重要性を理解していました」

谷川岳はもちろん、世界中のビッグマウンテンを滑り倒してきた西田。1997年にアメリカのノースウエストにあった工場で仲間とともにTWELVE SNOWBOARDSを立ち上げると、12年の時を経て、2009年には新たなコンセプトを掲げたT.J BRANDをローンチ。若さと情熱でスノーボードのすべてをインプットしてきた時代から、それらをアウトプットするフェーズに入ったタイミングだった。

そして2010年、スノーボードとサーフィン、さらに音楽を融合させた類まれなるイベント「THE SNOWSURFERS」を主催。2回目の2011年は東京五輪の会場となったサーファーの聖地、千葉・一宮海岸でサーフィン部門が行われ、スノーボード部門を川場で開催した。

「サーファーとスノーボーダーのプロをミックスした大会を行いました。川場はパウダースノーの質も斜面の向きも素晴らしいですが、何よりもクリスタルコースを中心とした壁地形が魅力です。スノーボーダーはもちろん、サーファーも楽しめる条件がそろっているので開催地として選びました。群馬エリアは全体的に谷が多く、特に川場はゲレンデ内にも渓流や沢が数多く存在します。壁で遊ぶ文化は群馬から派生していって、バブルス(丸山隼人)らが手掛けるボウル文化につながり、そしてバンクド(スラローム)に結びついている。現在は(山形)湯殿山のように人工的に地形を造るようになり一般スノーボーダーも楽しめますが、川場は天然地形でそうした遊び方ができます。トップからボトムまで壁で遊びながら3km近く滑ることができるゲレンデは、日本ではなかなかありませんよ」


スノーボードの“すべて”が上達できるゲレンデ

冒頭で川場の重要性を理解していたと語っているように、先出のイベント開催を契機として、西田はアドバイザーとして同リゾートに関わっている。

「雪質はお世辞抜きで本州エリアではダントツですね。だからこそ、『OFF THE PISTE』という名前をつけてツリーエリアを開放する動きを川場と一緒に行っています。何箇所かは雪崩のリスクがないエリアがあるので、沢が埋まったらコースとして開放したほうがいいという提案をしました。いきなり谷川岳のバックカントリーで滑ろうと思ってもそうひと筋縄にはいきませんので、そうしたバックカントリーの入り口として川場が機能してほしいという狙いがあります」

 

自ら開拓した「OFF THE PISTE」でハイスピードのバックサイドターンを刻む

 

川場のスローガンとなっている「ENJOY THE RIDE」を命名したのも西田である。ライディングを楽しんでもらったその先に、“一生涯スノーボーダー”たちをひとりでも多く輩出したいという想いが透けて見える。

「ジャンプも地形遊びもパウダーも、すべての滑りを楽しんでもらいたい。その中にOFF THE PISTEがあったり、パウダーがなかったとしてもトップから『SURF RIDE PARK』でバンクを流しながら、ウェーブでも遊べて、すり鉢状の地形を楽しめる『FREE RIDE PARK』につながって、ジャンプやジブが楽しめる『FLUX PARK』まで、トップ・トゥ・ボトムで楽しめます。ゲレンデはテーマパークと同じで、アトラクションが大事。だからこそしっかりとネーミングして、それぞれのアトラクションを売りにしながらも、一本のランにあらゆるライディングスタイルを凝縮しています。この連載企画に登場している(佐藤)亜耶や(久保田)空也のようなトップライダーたちも遊べて、エントリー層の練習にもなる。川場で多様なライディングスキルを身につけることで、いろいろなフィールドへ出ていってほしいですね」

 

西田が監修している「SURF RIDE PARK」は春先に出現する

 

プロスノーボーダーたちの世界を見てもそうだが、オリンピックを頂点とした競技はハーフパイプやスロープスタイルなど人工的に造成されたアイテムで争われ、それらを経てさらなる高みを目指したとき、「NATURAL SELECTION TOUR」といったバックカントリーで勝敗を決する大会が存在する。一般スノーボーダーに置き換えてもそうだ。圧雪バーンでカービングターンに磨きをかけ、パークでトリックを学び、自然地形にそれらをトレースし、最終的にはサイドカントリーやバックカントリーを目指す。川場は、こうしたステップアップにもっとも適したゲレンデであると、西田は断言する。

「亜耶と空也がそのことを証明してくれています。今、注目に値する男女のライダーを挙げるとすればこのふたりは名を連ねると思いますし、間違いなく、彼女たちはバンクドも速い。ライディングの基礎がしっかりできているから(ボードに)乗れているんです。あのふたりにはFREERIDE WORLD TOURやNATURAL SELECTION TOURに出てほしいと思いますね。

そうしたことを一般スノーボーダー目線で考えてみると、川場で滑り込めばあらゆるライディングスキルが磨けるはず。そして視野を広げながら、ウィスラーや(マウント)ベイカーに行こうとか、フィールドを広げていってもらいたいですね。そうすることで、スノーボードを永続的に楽しめるようになると思います」


新たな世界を広げてくれるボードとフィールド

西田は新たなコンセプトを掲げてT.J BRANDを立ち上げたと前述したが、それは、サーフィンの世界ではシェイパーたちが波質に合わせて丹精を込めて一本一本のボードを削るように、スノーボードにも魂が宿った物の価値を求めたかったから。スノーボードのルーツをたどることで当時のハンドクラフトで製作されていたビンテージボードに触れたとき、時代背景を鑑みるとその発想や世界観に圧倒的な物の価値を見出した。2011年の東日本大震災を契機として原点に立ち返り、自社工場を設立して独自の工法により、これまでになかった新たな息吹をプロダクトにもたらしている。

「海外製が悪いとかそういう話ではなく、日本人の板作りの発想や視点は外国人と違います。いまだにツインチップがベースのブランドが海外には多い中、フリーライドにフォーカスを当てていろいろな形状のボードが生み出されているという点において、日本は特化しているんです。その潮流はサーフィンから来ています。波のコンディションに合わせてボードを乗り替えるわけですが、パフォーマンス以上にフィーリングを求めるという価値がサーフィン文化には根づいていて。スノーボードの場合は何回転回せるとかカービングターンがどうとかテクニックの話になりやすかったわけですが、ここ15年くらいでフィーリングを求める動きが加速しています。プロダクトについて考え直すことで、スノーボードがまた面白くなる。でも、大金を払っていきなり形状の異なるボードに乗り替えるのはギャンブルなので、まずは乗って試すことができる場が必要だと考えました。それが、川場で行っている『POWDER SHAPE PREMIUM RENTALS』です」
 

パウダースノーを滑るために生み出されたボードたち。シーズン券所有者であれば1日1,000円(ボードのみ)で借りることができる

 
T.J BRANDはもちろん、DEATH LABELやGENTEMSTICKなど、あらゆる国産ブランドがラインナップ。WINTERSTICKやJONESといった海外ブランドも名を連ねている。「自分たちのブランドだけでやっても面白くもなんともありません。ブランドは何でもよくて、こうした機会を提供したかったから」とは西田の言葉。FLUXとNOWのパウダーライディングに適したバインディングのレンタルも行っている。

「道具を替えることもスノーボードの楽しみ方のひとつであるというメッセージです。雪がよくて地形も豊富な川場というフィールドだからこそ、いつもと違うボードやバインディングで滑った一日が特別に感じられると思います」
 

自ら手掛けるパウダーボードで特大のスプレーを巻き上げる西田

 
フリースタイルスノーボーディングのすべてが体得できるポテンシャルを秘めた雪山で、本州随一のドライパウダースノーを味わい、さらに、パウダースノーやフリーライドに特化したプロダクトにまたがって滑ることで、新たな世界が広がっていく。川場を滑り込むことで、スノーボードがもっと面白くなる。そして、スノーボードがよりライフスタイルに溶け込んでいく。

 

西田洋介(にしだ・ようすけ)
 

 
生年月日: 1970年12月1日
出身地: 東京都武蔵野市
スポンサー: T.J BRAND、MAVERIC FIGURES、AFDICEGEAR、HT-CRAFT、RAIN OR SHINE、AFTERGLOW、LADE、BJOH、MSR、BCA、KARMA PACK、HIMARAK GLOVE、LONER、SPARK R&D、CAPTAINS HELM、K2 BOOTS、DRAGON

interview + text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: kuwaphoto

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