BACKSIDE (バックサイド)

BACKSIDE (バックサイド)

https://backside.jp/kawaba_article11/
33479

SPECIAL

フリーライド女王 佐藤亜耶の滑りと言葉から見えてきた川場スキー場の底力【KAWABA LIFE Vol.1】

2023.12.02

  • facebook
  • twitter
  • google

2シーズンに渡り、「FREESTYLE PARADISE」「FREESTYLE MOUNTAIN」と銘打ち、内陸ならではのドライスノーや豊富な自然地形について詳細に言及した連載記事をお送りしてきた川場スキー場は、今シーズン、“滑り手”にフォーカスする。川場とゆかりのあるトッププロから一般スノーボーダーまでが“それぞれの川場ライフ”を語る連載企画がスタート。
 
Vol.1に登場するのは、幼少期から川場でのライディング経験を持ち、現在は世界が認めるバックカントリーフリースタイル界の女王に君臨する佐藤亜耶。練習に明け暮れていた幼少期を振り返りながら、トッププロとして川場が有するポテンシャルの高さについて語る。

コンペティター時代を支えたサイドヒット天国

「一日中パイプやパークで練習するのがすごく苦手で、すぐにイヤになってしまっていました。だから、パイプやパークを抜け出しても、コースが面白いゲレンデを選んで滑っていましたね」
 
バックカントリーフリースタイルの世界で最前線を走る亜耶を知っている人ならば、この彼女の言葉に合点がいくだろう。現在28歳の亜耶は多くのライダーが通ってきたように、大学を卒業するまでオリンピック出場を目指し、競技者として生きてきた。それが前提にあったうえでの冒頭の言葉になる。
 
新潟・津南で生まれ育った亜耶は3歳でスノーボードを始めると、13歳のときにPSA ASIA(プロスノーボーダーズ・アソシエイション・アジア)のハーフパイプ大会でプロ昇格を果たし、その後、中学3年からSAJ(全日本スキー連盟)のジュニアチームに所属して大会を転戦するようになる。大学進学のタイミングでスロープスタイルチームが発足し、競技転向。あと一歩のところでオリンピック出場を果たすことはできなかったが、プロ昇格してから10年近くに渡って競技生活を過ごしてきたのだ。

 

コンペティターとして培った技術をもってして川場の自然地形にアジャストさせる

 

「父が東京出身だったので、幼少期から峠を越えて南魚沼エリアで滑ることが多かったですね。パークのイメージが強いエリアですけど、フリーライディングが面白い山もあります。ナショナルチームの活動などでほかのゲレンデに行ったとき、朝イチからパイプやパークに直行する人が多かったですけど、私は山全体を滑ってからパイプやパークに行きます。なので、フリーライディングが面白いゲレンデが昔から好きでしたね」
 
トリックに磨きをかける傍らで、当たり前のように山全体を滑り倒してきたのだ。だからこそ、競技引退後にバックカントリーの世界へ身を投じると瞬く間に急成長。K2 SNOWBOARDING(ケイツー スノーボーディング)のグローバルチームマネージャーの目に留まり、直々にオファーが来るほどのバックカントリーでの滑走力と表現力を身につけたのだ。
 
そんな亜耶は幼き頃から、関越トンネルを越えて川場スキー場に足を運んでいる。

 

川場特有のウォールに吹き溜まったパウダーに当て込む

 

「やはりサイドヒットが川場の名所ですよね。みなさんも大好きだと思いますけど、クリスタルコース両サイドの壁です。特にレギュラーのバックサイドになりますが、小さいときからよく遊んでいました。パイプをやっていたからああいうサイドヒットで遊ぶのが大好きだったし、もしかすると当時はパイプの形が悪いときのほうが強かったのも、川場で滑っていたおかげかも(笑)」
 
さらに亜耶はこう続ける。
 
「クリスタルコースのトップから3コースくらい選べますけど、どこを滑っても最終的に、あそこのサイドヒットに当て込めるのがうれしいですね。このコースに行きたいんだけど、そうするとあそこのヒットポイントに行けないっていうような状況って、けっこうな確率であるじゃないですか。それが川場の場合は、ピークに向かうクワッドリフト(クリスタルエクスプレス)に乗れば、いろいろなコースを滑りながらも最後にはあの壁に当て込むことができるから、繰り返し楽しめるんです。それが、川場の魅力のひとつですね」


フリーライド女王が絶賛する雪質とツリーラン

大学4年時、一度は就職を考えリクルートスーツを身にまとうも、フリーライディングの道へ進むことを決意した亜耶。スイッチを切り替えると、彼女の快進撃はとまらなかった。
 
「何もわからない状況だったんですけど、シゲくん(藤田一茂)がニュージーランドへ行こうよって誘ってくれたんです。ビーコンなどのバックカントリーギアの扱い方もよくわからない状態で、初めてボードをかつぎながら山を登りました。何もわからないから理解するためにフリーライドの大会に出るようになり、シゲくんが交渉してくれてHEART FILMSの撮影に参加させてもらったりして経験を積むことに。すると、THE NORTH FACE(ザ ノースフェイス)がフリーライドの女性ライダーを探しているということで、サポートしてくれることになりました。わずか1シーズンの間でトントン拍子に進み、そのすべてがとてもいいめぐり合わせでした」
 
本格的にバックカントリーフリースタイルの道を歩み始めてから、亜耶はこの冬で5シーズン目を迎える。昨シーズン、記録的な大雪に見舞われた米ユタ州ブライトンで滑り込むなど、国内外問わず幾多のバックカントリーで経験を積んできた。そんな亜耶は、川場の雪質をどう評価するのか。
 
「この記事で使っていただいている写真の撮影日は、ものすごく寒くて、超サラサラのパウダースノーでした。北海道でもニセコあたりは雪質がちょっとクリーミーな感じがしますけど、川場の雪は擬音語で言うと『シャラシャラシャラ~』みたいな感じ(笑)。スプレーを上げたときも新潟だとまとまった雪が舞っていくんですけど、川場の場合は、ひと粒ひと粒がキメの細かいパウダースノーというか、雪の結晶がひとつずつ巻き上がるようなイメージです。
 
撮影のときは、雪がそこまで積もっていなくて、斜度もあまりない状況でも、軽く滑っただけでスプレーが上がりました。なので、仮にあまり降らなかった日でも、パウダーを巻き上げながら楽しめると感じました。積雪量が多くなくても、広範囲に渡ってパウダーランを楽しめるところがいいですね」

 

亜耶が言うように軽くターンを切っただけでスプレーが舞い踊る

 

さらに、川場が解放しているツリーエリア「OFF THE PISTE」については、「いい意味で探検感がすごい」と語る。
 
「用意されたコースなんですけど、コース感が全然ない(笑)。本当にリアルなツリーを解放してくれているという印象を受けました。私たちも撮影しながらそうだったんですけど、仲間同士で話し合いながら、『あそこ行けるかな?』とか『うわー、今のところ行けたわ!』ってなってもう1本滑ったり、ということを想像させるエリアでした。急斜面じゃないからこそ、どこを当て込むのが気持ちいいかを探りながら滑るには、素晴らしいロケーションだと思います。ほかの人だったらどう滑るんだろう?ってイメージしながら滑るのが、とても面白かったですね」

 

斜度がキツくないからこそ一般スノーボーダーが楽しめる。斜度がなくても世界に誇るフリーライドの女王が滑れば豪快にスプレーが巻き上がる。この写真はアイキャッチ画像のヒトコマ前だ。それを踏まえてアイキャッチ画像を見直してほしい。斜度がないにもかかわらず、そのスピード感が伝わってくるはずだ

 

筆者もOFF THE PISTEを滑ったことがあるのだが、亜耶の話を聞いていると妙に納得させられた。あなただけのラインをこの冬、OFF THE PISTEに刻んでいただきたい。


雪山だけでなくトッププロも納得のホスピタリティ

「今もそうですけど、昔から川場に行くと都会的な印象を受けます。昨シーズンからきれいなラウンジができたじゃないですか。だからこそより都会の人によさそうだな、って(笑)」

新潟エリアで滑っているときは、午前中だけ滑って昼に帰るローカルスノーボーダーがいたり、ゲレンデで一日中過ごすという地元の人はあまりいなかった。幼少期からそうした環境に身を置いていたからこそ、川場を訪れるとある種の違和感を覚えるのだろう。

「地元のほうで滑っているときは休憩場所をあまり考えたことがなくて、仮に困ったとしても家に帰ればいいじゃないですか。首都圏から来る人は一日中リゾートにいることが多いから、パウダーラウンジのような空間は快適だろうし、私もゆったり滑るのが意外と好きだから(笑)、また利用したいと思います。朝イチから滑って、パウダーが落ち着いたくらいのタイミングでゆっくりご飯を食べながらまったりして、午後からまた滑るみたいな一日を過ごせる環境が整っているのは、とてもいいですね」
 

専用ラウンジやクロークなどプレミアムなサービスが受けられる「パウダーラウンジ」

 
また、新潟エリアにはない環境として「駐車場最高(笑)」と亜耶は笑う。

「雪が降っている日でも滑り終わってからクルマの除雪をしなくていいし、ドロドロにもならないし、降雪を気にすることなく準備できるところが大好きです。川場に行くと、『うわー、快適♡』ってなります(笑)。あと、ランチの選択肢が多いところも気に入っています。テナントで入っているお店も美味しいですが、ゲレンデから上に上がると大きいレストラン(ティンバーライン)がありますよね。あそこだけでもいろいろと選べて、特にグリーンカレーとガパオは美味しかったです。何日も連続して食べました(笑)」
 

豊富なメニューを取り揃えるカワバシティ8階の総合レストラン「ティンバーライン」の中でも亜耶のお気に入りがこちら

 
トッププロでありながら、現在は首都圏に住む亜耶にとって、川場は雪の上質さや豊富なナチュラルテレインだけでなく、トータルバランスに優れたゲレンデなのだ。

 

佐藤亜耶(さとう・あや)
 

 
生年月日: 1995年4月9日
出身地: 新潟県津南町
スポンサー: K2 SNOWBOARDING、THE NORTH FACE、VANS、DRAGON、HYDRO FLASK、HIGHPUSH、TUNE UP KEM’S

interview + text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: kuwaphoto

KAWABA RESORT | 公式ページはこちら

RECOMMENDED POSTS