BACKSIDE (バックサイド)

BACKSIDE (バックサイド)

https://backside.jp/interview-079/
31990

INTERVIEW

編集長が人生でもっとも再生した映像作品『R.P.M.』を現役大学生が初視聴【Vol.2 スタイル編】

2023.09.13

  • facebook
  • twitter
  • google

等身大の目線でトリック習得までの道のりをレクチャーしてくれるハウツー系動画から、息を呑むようなビッグマウンテンライディングの映像に至るまで、スノーボードのムービーは今やSNSで気軽に、無料で視聴できるものとなった。しかし、DVD全盛期もそうだが、スノーボードがオリンピック種目となり市民権を得るよりも前のVHS時代は、もちろんそうはいかない。競技ではなく自由に滑ることに重きが置かれていた当時、動画に飢えていたスノーボーダーたちは、限られた感度の高いプロダクションが制作した何千円もするVHSテープを買うしか術はなかったのだ。でもそこには、まだマイノリティだったフリースタイルスノーボーディングの“すべて”が収録されていた。
そこで、時代は変われど現代のフリースタイルスノーボーディングを形作ったと言っても過言ではない90年代前半のムービーが、今の若者にどのような影響を与えるのか、検証してみることに。弊メディアでインターンを務める大学生・近藤碧音が初視聴した、FALL LINE FILMS(以下、FLF)制作『R.P.M.(以下、RPM)』が題材だ。本作が発表された1994年当時に雪上を駆けていた者ならば、必ず一度は観たであろう名作である。当時大学生の頃、この映像の中で躍動するジェイミー・リンに心奪われ、スノーボードに人生を捧げることになった編集長・野上大介に、初視聴の現役大学生が抱いた疑問をぶつけてみた。現代の若者に、当時の最先端はどう映ったのだろうか。

『R.P.M.』視聴はこちらから

 
 

FSスピンってヒール抜きが当たり前じゃないの?

インターン・近藤碧音(以下、アオト): FSスピンに関して、トウ抜きをするライダーが多かったんですけど、当時流行っていたんですか?

編集長・野上大介(以下、野上): あー、当時ヒール抜きっていう概念がそもそもなかったんだよ。基本トウ抜き。

アオト: 流行りじゃなくて、ヒール抜きが存在しなかったんですか(笑)。それめっちゃ面白いですね!

野上: みんなツマ先側のエッジで踏み切って抜いてたね。当時のフリースタイルな動きはハーフパイプや壁地形などトランジションでの遊びがベースにあった。その動きを想像してもらえればわかると思うけど、フロントサイドの壁でFSスピンを回そうとするとトウ抜きになる。だから、当時はFSスピンをトウで抜くのは当たり前だったんだよね。この時代の日本人スノーボーダーはみんなトウ抜きでFSスピンを回していたんじゃないかなぁ。でも、当時からジェイミー・リンはヒール抜きでFSスピンを回していたんだよな。これ(18:11~)なんだけど、あの頃の感覚で考えるとありえないスタイルだったよね。

アオト: この映像で世界中にヒール抜きのアイデアが芽生える、って感じですか?

野上: そうなのかもしれないけど、ぶっちゃけ当時のオレはよくわかってなかったな……。あの時代としては高回転スピンだった720以上を回しているシーンで身体が伸びきっちゃっているのは、今と比べてボードの反発力やスキルが足りなかったこともあるけど、FSスピンをトウで抜いて回転数を稼ごうとすることに無理があった。トウ抜きだと身体を引きつけるのが難しいし。

アオト: めちゃくちゃ面白いですね! FSスピンはヒールで踏み込むのが普通だと思っていたので、衝撃です。

野上: だからこそFSコーク(スクリュー)よりも前に、トウ抜きじゃないと不可能なロデオフリップが生まれたんだろうな。

 
 

現役大学生が選ぶ、90年代前半に繰り出された気になるトリック

アオト: ブライアン・イグチがBS360のジャパンっぽい反り方をするトリック(8:42~)があったんですけど、それがRPMのなかで一番カッコいいなと思いました。個人的にはこのボードの引きつけ具合にシビれますね!
 

IMG_3678

RPM内でブライアン・イグチが魅せたBS360は、色褪せることのないスタイルを誇る。今シーズン試してみてはいかがだろうか

 

野上: なんかアオトらしい、玄人好みのチョイスだな(笑)。これジャパンでいいのかな。なんかまた、独特だよね。タックニー・スイッチインディって感じか……これ右脚どうなってるんだ?

アオト: なんか右脚だけめっちゃ内股ですよね。

野上: 右脚だけ曲げているのか。これは今のバインディングじゃ再現できないかもな。右脚だけ曲げて、左脚をそこまでボーンアウトさせずに残すっていうことでしょ。

アオト: 今、無理にやろうとしたらバインディングの部品が吹き飛びそう。マネはしてみたいですけどね(笑)。こういうノーズを抱え込んでテールを少し刺す形がめちゃくちゃ好きなので、レパートリーにぜひ加えたいです!

 
 

編集長が当時衝撃を受けたトリックは?

野上: ここまでのやりとりでもわかると思うけど、オレはジェイミー・リンが好きで。彼とジェイソン・ブラウンとのパート(22:20~)なんかは、何回観たかもうわからないね。映像内でジェイミーが着ていたVOLCOM(ボルコム)のTシャツをすげぇ探してゲットした思い出があるよ(笑)。オレが当時一番カッコいいと思ったのは、ジェイミーのFS360(24:02~)。グラブしてからワンテンポ置いて、もう1回ポークするみたいなアクション。
 

DSC8810-3

フリースタイルスノーボーディングに「スタイル」という価値観を吹き込んだのは、間違いなくジェイミー・リン。今はなき「TRANSWORLD SNOWBOARDING JAPAN」の誌面より

 
アオト: 野上さんはこれに影響を受けてFS360を練習したりしてたんですか?

野上: もちろん練習はしたんだけど、実はオレFSスピンが苦手でさ。媒体名はBACKSIDEだから問題ないんだけど(笑)。全然カッコよく回せなかったから憧れ、っていう感じだったね。アオトの好きなトリックを聞いても思ったけど、ボーンアウトする動きだったりメソッドだったりっていうのは、いつの時代もカッコいいんだな。

アオト: この時代の人はみんな、そういう動きでスタイルを出しているように見えました! 今の時代でもマネできる動きはたくさんあると思うので、自分の滑りにも取り入れていきたいです。

野上: さっきのイグチのところで話した内容とは多少矛盾するけど、あの時代から30年近くが経過してプロダクトは格段に進化した。技術的にも当時とは比にならないノウハウがいくらでもある。だからこそ、今の若い子たちに当時のトッププロの滑りをハウツー的な視点で観てもらうのは面白いと思うんだよね。

Vol.3につづく

『R.P.M.』視聴はこちらから

 

DSC_2246

 
野上大介(左): 1974年生まれ。BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE 編集長。日本でフリースタイルスノーボーディングが形成され始めた92-93シーズンにスノーボードと出会う。
近藤碧音(右): 2001年生まれ。2022年度よりBACKSIDEにてインターンとして活動中。20-21シーズンにスノーボードを始める。スノーボードの歴史やライダーの生き方に興味津々な大学生。

photos: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)

RECOMMENDED POSTS