BACKSIDE (バックサイド)

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INTERVIEW

編集長が人生でもっとも再生した映像作品『R.P.M.』を現役大学生が初視聴【Vol.1 トリック編】

2023.09.05

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等身大の目線でトリック習得までの道のりをレクチャーしてくれるハウツー系動画から、息を呑むようなビッグマウンテンライディングの映像に至るまで、スノーボードのムービーは今やSNSで気軽に、無料で視聴できるものとなった。しかし、DVD全盛期もそうだが、スノーボードがオリンピック種目となり市民権を得るよりも前のVHS時代は、もちろんそうはいかない。競技ではなく自由に滑ることに重きが置かれていた当時、動画に飢えていたスノーボーダーたちは、限られた感度の高いプロダクションが制作した何千円もするVHSテープを買うしか術はなかったのだ。でもそこには、まだマイノリティだったフリースタイルスノーボーディングの“すべて”が収録されていた。
そこで、時代は変われど現代のフリースタイルスノーボーディングを形作ったと言っても過言ではない90年代前半のムービーが、今の若者にどのような影響を与えるのか、検証してみることに。弊メディアでインターンを務める大学生・近藤碧音が初視聴した、FALL LINE FILMS(以下、FLF)制作『R.P.M.(以下、RPM)』が題材だ。本作が発表された1994年当時に雪上を駆けていた者ならば、必ず一度は観たであろう名作である。当時大学生の頃、この映像の中で躍動するジェイミー・リンに心奪われ、スノーボードに人生を捧げることになった編集長・野上大介に、初視聴の現役大学生が抱いた疑問をぶつけてみた。現代の若者に、当時の最先端はどう映ったのだろうか。

『R.P.M.』視聴はこちらから

 
 

“トゥイーク”というトリックは存在しない!?

インターン・近藤碧音(以下、アオト): RPM、最初のパートからカッコよかったっす。マイク・ランケットがめっちゃFSノーズプレスのグラトリをやっていたんですけど、ROADKILL(RPMより1シーズン前に発表されたFLF制作の映像作品。詳しくはこちら)ではプレス系のトリックって少なかった印象があるんです。テーブルみたいな地形で180オンしてバターする動きとかも出てきていて、最近の流行りと重なる部分があるなって感じました。

編集長・野上大介(以下、野上): ROADKILLの影響でスノーボードがだんだん市民権を得始めたわけなんだけど、こういうバター系のトリックは当時のスノーボーダーはみんなマネしていたと思う。フリースタイルスノーボーディングの一部として、スケートライクなグラトリも進化していたな。

アオト: そういえばこういうノーズプレスとかテールプレスみたいなトリックって、この頃から「バター」って呼ばれてたんですか?

野上: いや、当時はそんなことなかったかな。トリックの名前って和製英語で定着しがちなんだよね。例えば、日本人が「トゥイーク」って呼ぶアレは本当は、メソッドにひねり(英語で“tweak”)を加えたスタイルのことで、「メソッドをトゥイークする」っていう表現が適切だったりする。トリック名としては「メソッド」なんだよね。オレもこの事実を知ったのは、アメリカの編集者に指摘されたときなんだけど(笑)。バターとも言ったけど、当時はシンプルにグラトリって呼ばれていたと思うよ。

アオト: 僕もトゥイークの話は最近まで知らなかったです(笑)。ROADKILLのときにはスケートボードのトリックを雪上にトレースしているって話だったと思うんですが、テーブル地形に180オンしてマニュアル→180オフみたいなコンボの動きって、スケートボードだとめっちゃ難しいんですよね……。

野上: スケートボードの動きを雪上で再現するにあたって、スノーボードだからこそやりやすいトリックは積極的にやっていたんだと思う。もちろん、当時のライダーたちのほとんどがスケートボーダーなわけで、だからこそ、スノーボードで表現するとよりスタイリッシュでクールに見えるトリックを開発していた。そういうところから、スノーボードの可能性が一気に拡大していったんじゃないかな。グラトリ界隈で「ソネ」って呼ばれている動きは、それこそスノーボードオリジナルの動きだよね。ソネちん(プロスノーボーダー・曽根和広。BACKSIDE CREWのFRESHFISHメンバーのひとり)のアクションが由来で日本のグラトリ界ではそう呼ばれてるらしいけど、当時はまだ存在しなかった。オレも海外ライダーがやっていたソネに似たような動きをめっちゃ練習していたなぁ。

 
 

ハーフパイプの大技“マックツイスト”ってナンダ?

アオト: ブライアン・イグチがR地形で3D回転っぽい技をやっていたんですけど、これ(11:54〜)なんですか?

野上: これはマックツイストだね。マックツイストもスケートボード発祥のトリックだよ、マイク・マックギルっていうスケーターが開発したらしい。ハーフパイプの大会は80年代前半くらいからその歴史が始まっているんだけど、このムービーがリリースされた90年代前半、イグチはパイプの大会にも普通に出ている。当時のハーフパイプシーンでは大技として扱われていたね。今はダブルコークが当たり前だけど、この時代はクリップラーとマックツイストくらいしか縦回転の技もなかったし。

アオト: なるほど、ハーフパイプはやっぱりスケートボードのバーチカルから影響を受けているんですね。

野上: さっきのグラトリの話と近いね。このアーリーウープ・マックツイスト720(12:20〜)なんかはスケートボードではかなり難しいんじゃないかな……。ROADKILLの発表から多く見積もっても1年しか経っていないけど、シーンとしてはスノーボードオリジナルのトリックが見られるようになって、スケートボードとの差別化が少しずつ始まったんだよね。ちなみにこれは余談だけど、スノーボードシーンで初めて開発された3Dスピンはミスティフリップっていうトリック。いわゆるBSコークスピン。当時はコークスクリューって名前は存在しなくて、ストレートジャンプで初めて登場した頭が下に入る3Dスピンはあまりに謎すぎて、こういったネーミングになったんだろうね。
 

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このミスティフリップが3Dスピントリックの元祖と言っても過言ではないだろう。今はなき「TRANSWORLD SNOWBOARDING JAPAN」の誌面より。ライダーはピーター・ライン

 
アオト: 初めて聞きました!

野上: 1993年に発表された『TRANSWORLD SNOWBOARDING VIDEO MAGAZINE VOL.1』でピーター・ラインが放ったミスティフリップが収録されていて、それがスピントリックに革命を起こしたんだよね。初めてやったライダーについては、いろいろ諸説あるけど。今や荻原大翔がクイントコーク(縦5回・横6回を同時に回す技)をメイクする時代だけど、3Dスピンの起源はこの辺りにあるんだよ。

 
 

“スタイル”の概念をスノーボードに持ち込んだ男、ジェイミー・リン

アオト: ROADKILLのときはスピンというと、720以上になると身体も伸び切って無理やり回しているような、荒々しいジャンプが目立っていたと思います。でも、RPMでは技術がすごく上がっているように感じて、360なんかはグラブの形も含めてめっちゃカッコいいと思ったんです。1年でこれほど技術が進歩した背景には、何があったんでしょうか。

野上: そこはやっぱり、ジェイミー・リンがシーンに及ぼした影響が大きいと思う。広めのダックスタンスで板をガッツリ引きつけて、ノーグラブでスピンする動きが当時すごくフォーカスされていたんだけど、その中心にジェイミーがいて、やっぱり彼の動きが美しいとされていたんだよね。ティナ・バシッチっていう90年代活躍していたハーフパイプのライダー(241の創始者、マイク・バシッチの姉)がいるんだけど、ジェイミーがデビューほやほやのときに、彼女は“That boy has style”ってコメントを残しているし。スケートライクな滑りは進歩しつつも、ジャンプに関してはとりあえずグラブしてボーンアウトするとか、とりあえず回すっていう時代に、ジェイミーは“スタイル”っていう流儀をフリースタイルスノーボーディングに吹き込んだんだよね。

アオト: 当時RPMに出ていたレベルのスノーボーダーにも、ジェイミーは影響を与えていたんですか?

野上: そうだと思うよ。その時代を知っているスノーボーダーからしたら、ジェイミーの何がヤバいって、そのカッコよさの部分なのよ。スピンの回し方とかグラブ、あと象徴的なのはやっぱりメソッド・トゥイークかな。

 

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BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 6「THE ART OF METHOD ──美しき自己表現法──」より、ロードギャップでメソッドを繰り出すジェイミー・リン(1997年)

 

Vol.2につづく

『R.P.M.』視聴はこちらから

 

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野上大介(左): 1974年生まれ。BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE 編集長。日本でフリースタイルスノーボーディングが形成され始めた92-93シーズンにスノーボードと出会う。
近藤碧音(右): 2001年生まれ。2022年度よりBACKSIDEにてインターンとして活動中。20-21シーズンにスノーボードを始める。スノーボードの歴史やライダーの生き方に興味津々な大学生。

photos: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)

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