
INTERVIEW
スノーボードを本気で楽しむために決意した「競技×表現」の生き方。19歳 山田悠翔に迫る
2023.05.22
2021年2月、こちらの記事で紹介したように、W杯の一戦にも数えられる「LAAX OPEN」開催期間中に撮影されたフッテージで制作されたNITRO(ナイトロ)のチームムービー『LAAX LAPS』に主演として大抜擢された、当時17歳の山田悠翔。2018年の「WORLD ROOKIE FINALS」グロム部門での優勝や、2020年の「US REVOLUTION TOUR(13〜19歳までが出場資格を持つアメリカのシリーズ戦)」ビッグエアでの優勝など、輝かしい戦績を残す期待のルーキーは20-21シーズン、自身のスノーボーディングについて悩んでいたという。
昨今のスノーボードはオリンピック種目という側面があるため、その競技化が加速し続けている。いっぽうで、自身の滑りを写真や映像を通して世に発信し続ける表現者たちがシーンの中心に存在する。しかしながら、異なるふたつの側面を高次元で両立させることは非常に難しい。振り返れば、コンペティションで好成績を収めながらグローバルレベルで撮影活動もこなしていたライダーは、日本人では國母和宏以来、現れていないと言えるだろう。
その二面性に悩まされた悠翔は、世界で活躍するライダーたちを前にして「競技」と「表現」を両立することを決意したという。それは、どちらのスノーボードも好きだから。若きフリースタイラー、山田悠翔のこれまでとこれからに迫る。
「自分のやりたいスノーボードはこれだ、って見つけることができました」
──WORLD ROOKIE FINALSやUS REVOLUTION TOURでの優勝など、さまざまな戦績を残している悠翔。まず、これまでどのようにして競技の道を歩んできたのか教えてください。
もともと(角野)友基くんと一緒に滑ることが多かったんです。大会で結果を出しながら、それだけではない道を進んでいたその背中を見て、当時から憧れていました。とはいえ、刺激を受けつつも、20-21シーズンまでは競技一本という感じでした。でもそのシーズン、大会に向けた練習に全然身が入らなくて……楽しくなかった。やらなきゃいけないと思いつつも、「オレのやりたいスノーボードはこれだけじゃない」っていう気持ちがずっとあって。そのままW杯に行って2戦出場したんですけど、2戦とも予選で落ちてしまったんです。LAAX OPENのときは本当に落ち込んで、その後2日間くらい、ベッドの上で病んでいました。気持ちを自分の中でうまく消化できない状況になっていたんです。
──スノーボーディングの「競技」と「表現」を両立させると決意したキッカケは?
その病んでいるときに、(平野)海祝が「滑ろうよ」って声をかけに来てくれて。その日はLAAX OPENの決勝で、天気もあまりよくなかったんですが、山に上がってみたらたまたまNITROのフィルマーがいたんです。そこで撮ってもらったときに、「自分のやりたいスノーボードはこれだ!」ってなって。大会に加えて、こういう表現する滑りもやりたい。競技者としても表現者としても、両方をやろうと思ったタイミングでした。
どっちもやるぞ、という思いのまま、その年(20221年)の夏に(米オレゴン州マウント)フッドに行ったんです。これもまた奇跡で、最初ハイクアップで回していたんですが、疲れたからひとりでリフト行ったら、NITROグローバルのサム(タックスウッド)ってヤツがいて。僕は見た瞬間にわかったんで一緒にリフトに乗って、そこからサムとかセージ(コッツェンバーグ)と一緒に滑るようになったんです。その人たちと滑ってみて、「この人たちはこうやってスノーボードしているんだ」っていう衝撃がありました。楽しくないと感じていたスノーボードが、また楽しくなったんです。
LAAXもフッドもそうなんですけど、みんなリアクションとかでめっちゃモチベーションを上げてくれるんです。やっぱり落ち込んでいた時期だったので、そこでかなり自信がついて「競技と表現の両方をやろう」というスイッチが入った瞬間でした。
「両立することによって、スノーボードがより楽しくなりました」
──2021年夏のマウントフッドをキッカケに、競技に向けたトレーニングの考え方は変わりましたか?
変わりました。楽しくなかった練習が楽しくなったんです。切り分けられるようになったってことだと思うんですけど、もともと“どっちも”やろうとして中途半端になって、「これはオレのやりたいスノーボードじゃない」って感覚になる、みたいな状態だったんです。それを、ちゃんと切り分けて考えて結果を出せるようにしよう、って思えるようになりました。大会は大会で頑張るし、いろいろなライダーたちとセッションする機会があれば、その場で自分の滑りを最大限に表現する。そこで残ったフッテージをInstagramに投稿すれば、いろいろな人に観てもらえる。こういう考え方ができるようになって、またスノーボードが楽しくなりました。あとは(相澤)亮くんの映像がどんどんあがっていくのを見て、「こういう道があるんだ」って教えられたりもしましたね。自分の道は間違っていない、そう信じられるキッカケになりました。
──21-22シーズンのSAJ(全日本スキー連盟)の全日本選手権大会ではスロープスタイルで2位、ビッグエアで3位という結果を残し、Instagramにアップしているバックカントリーやストリートの映像もアグレッシブで、まさに急成長中だと思います。競技と表現を両立することによる相乗効果などはありますか?
かなりあると思います。21-22シーズンは初めて大会と撮影を両立しようとしたシーズンだったんですが、めっちゃ大変で(笑)。前日には撮影があって次の日すぐ大会、みたいなスケジュールがよくありました。でも「この日は撮影」「この日は練習」って切り分けることによって、競技一本でやっていたときよりも集中できるようになったと思います。練習できる日が今シーズンは少なかったんですが、だからこそ、その中で「いかに時間を有効活用していくか」って考えることができて。そうすることで一日集中できるようになったし、練習も楽しくなりました。
こういう「集中するときは集中する」時間を、自分で作れるようになったのが大きいと思います。例えばバックカントリーって、一日に多く滑れたとしても4本くらいじゃないですか。一本一本集中して滑るための気持ちの作り方は、絶対大会にも活かせるなと思いました。
「大会で名前を知ってもらって、未来のムービーをたくさんの人に届けたいです」
──大会と撮影の両立にチャレンジし始めてから2年目を迎えた、22-23シーズンの振り返りを教えてください。
21-22シーズンはずっとフィルマーがついてくれていたのでいつでも撮影にギアを入れることができたんですが、22-23シーズンはひとりだったので撮影のタイミングが難しくて……。加えて、大会に向けての練習でけっこう時間も限られていたんですが、そんな中でも年末年始に(新潟)かぐらで撮影してもらう形で、ゲレンデ内での撮影を何回か行うことができました。かぐらのときは2、3時間しか時間がない中でもフィルマーの方が連絡してきてくれて、結果的に映像を残すことができてよかったです。
──22-23シーズンの後半に「FIS(国際スキー連盟) BIG AIR JAPAN CUP 2023」で優勝を飾りました。時間が足りない中でも撮影を続けたことは、大会のリザルトに好影響を与えたと感じていますか?
「大会のための練習」以外の、自由に山を滑るスノーボードを続けてきたことによって、板をうまく動かせるようになったと思っています。ゲレンデだけでなくパイプも滑り込んでいたので、身体が思いどおりに動いてくれる感じです。トーションの使い方とか、リップを上っているときの膝の位置とか、さらに繊細に動かせるように少しずつなってきていると感じていました。
さらに言えば、21-22シーズンにバックカントリーでの撮影を経験できていたからこそ気づくことができた新しい課題に取り組んだり、そういう部分が全部つながった結果、メイク率が高い技ではなかったんですがストンプできて、BIG AIR JAPAN CUPで優勝することができたんだと思っています。
──気づくことができた新しい課題とは?
撮影のときは心身ともに調子がよくて集中できているのに、大会になるとなんでその状態に持っていけないんだろう……という部分です。撮影のときと違って、なんか気持ちだけが空回りしてしまって硬くなっていたというか。ここを変えるためにはしっかり練習して、繊細な動きを身体に染み込ませないといけないなって気づきました。
──今感じている、両立することの難しさについて教えてください。
間違いなく時間が足りないです。日本にいるだけだと難しい。なので、ヨーロッパとか雪があるところに渡れば時間を作ることができるかもしれないけど、それでも限られた時間の中でどうやるか。そこが課題だと思っています。
──今後の目標は?
まずはスノーボードシーンにしっかり名前を残せるように、大会でいい成績を残すことを考えています。その中でもブレずにゲレンデ内やバックカントリーでの撮影は続けていきたいですね。大会の後は、自分のムービーを出したいです。もちろん大会が嫌いな訳ではなくて、勝つのはうれしいし、勝つためにやるんですけど、それだけだとちょっともったいないじゃないですか(笑)。ちゃんと自分の名前をいろいろな人に届けて、たくさんの人に未来のムービーを観てほしいので、やっぱり目指しているのはオリンピックです。最終的なゴールとしてムービースターを目指して、これからも頑張っていきます。日本はスノーボードを練習する環境がすごく整っているのに、スノーボードの「競技」の側面だけ取り組んで辞めてしまう人がいるのを見ると、すごく悲しくて……。やっぱりスノーボードの原点は「楽しむこと」だと思うんです。だから、自分の滑りを観てくれた人に、スノーボードの楽しさを届けられるようなスノーボーダーでありたいと思っています。自分にとっての友基くんの存在のようになって、日本のシーンを盛り上げていきたいです。
今年は6月の頭にSLUSH(THE MAGAZINE)主催のクォーターパイプの大会(THE 2023 WORLD QUARTERPIPE CHAMPIONSHIPS)に行く予定です。アメリカに渡ってプロとしてやっている友基くんと合流するのもひさびさなので、本場仕込みの滑りから改めて刺激を受けたいと思っています。
おわりに
大舞台での挫折を経験したものの、仲間に助けられ、自身でチャンスを掴みとった山田悠翔。大会で勝つことも大切だが、それだけでは測ることのできないフリースタイルスノーボーディングの普遍的な価値が、彼の言葉から改めて感じられるインタビューだった。「競技」と「表現」の両立によって、足し算ではなく掛け算として成長を続けるであろう悠翔のこれからの活躍から、目が離せない。
山田悠翔(やまだ・ゆうと)
▷出身地: 新潟県新潟市
▷生年月日: 2003年9月8日
▷スポンサー: NITRO、AUTUMN、HOWL、POLER、SLAB、SNOWCASE、さの整形外科
text: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)
photo: Yamato Asahi
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