BACKSIDE (バックサイド)

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INTERVIEW

スノーボードを通じた社会貢献で若者を動かす「東京雪祭SNOWBANK PAY IT FORWARD」

2022.12.27

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シーズンに向けてスノーボーダーたちが浮き足立つ11月、東京・渋谷に位置する代々木公園には雪が降る。「楽しいから始まる社会貢献」をテーマに掲げ、今年で通算12回目の開催となったイベント「東京雪祭SNOWBANK PAY IT FORWARD」が開催された。
 
同イベント内で行われる「JIB STYLE BATTLE」はジバーにとっての登竜門とも呼べるコンテストで、一般参加のスノーボーダーたちも初日を勝ち抜くことができれば、2日目のインビテーションライダーたちとのジャムセッションに参加できる。下剋上を狙うには絶好の機会だ。その盛り上がりは年々増しており、今年はエントリーが殺到し、受付開始から1週間も経たずに定員に達したようだ。セッション前のライダーズミーティングではスタイルと難易度の両方が重視されるとのアナウンスがあったそうだが、結果セッションは、スノーボードに明るくないであろう一般の観客まで巻き込んでヒートアップ。個々のライダーたちの個性が光った、まるでムービーを観ているかのような20分間となった。
 
女子決勝はジャムセッションならではの光景となり、ライダー同士がプッシュし合い、トリックの難易度と会場のボルテージが上がっていく様子が見られた。終始安定感のあるランで次々とボードスライドやリップスライドをメイクする大石智代に対し、スイッチでのトリックに果敢に挑む藤川桃華。藤川はセッション前半にスイッチ・フロントサイド・ノーズスライドをクリーンメイクし、最前列で応援していた仲間たちから歓声を浴びていた。SUICAの愛称で知られ海外でのレールセッションでも爪痕を残す石原晴菜も、フロントサイド・ボードスライド270オフなどをスタイリッシュにメイク。全体的に完成度の高いトリックを数多くメイクした大石に軍杯が上がったものの、最後まで見応えのあるセッションだった。
 

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絞り切ったボードスライドやリップスライドを多くクリーンメイクしていた大石智代。女子優勝は彼女の手に

 
本イベントの舞台は、代々木公園に特設されたジブセクション。中央にダウンレールが配置され、フロント/バックサイド両側のダブルダウンレールへとドロップする形となっている。中央のダウンレールとダブルダウンレールはほとんど高さが変わらない。にもかかわらず、男子決勝では“8931”こと松下大知が、彼の代名詞でもあるトランスファートリックを果敢に仕掛けていた。また、アプローチ途中の柵にオーリーで乗り上げ、そこからダブルダウンを抜きにかかるようなクリエイティブなラインも繰り出していた。日本が誇るトップジバー、戸田真人はベーシックながらもスタイルに溢れたボードスライドやブラントを披露。レールからのオフ時にスタイリッシュにシフトしてタップを決めるなど、彼の滑りが終始会場を盛り上げていた印象だ。開幕からノーズがカチ上がったテールマニュアル180オフを決めた小川凌稀もダブルダウンレールで、身体がコース外に飛び出す形になるフロントサイドリップスライドを270オフして魅せた。オリンピアンの濵田海人は複雑な乗せ替えトリックを披露。バックサイドリップスライド270オフなど高難度トリックを決め、技術力を光らせていた。
 

 
新進気鋭の長澤颯飛はスイッチでの高難度トリックを連発。ダウンレールにて十八番のスイッチ・フロントサイド・ノーズスライドをクリーンメイク。その後、同じトリックを今度はプレッツェル270オフで決めた。さらに、ダメ押しとばかりにダブルダウンレールにてスイッチ・バックサイド・ボードスライド・フェイキーアウトを決めるなどの大立ち回りを見せ、男子優勝を見事に決めたのだ。
 

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東京のド真ん中でスタイリッシュなライディングを披露し男子優勝をもぎ取った、長澤颯飛

 
「2007年、僕が28歳のときに慢性活動性EBウイルス感染症っていう稀な病気を患ってしまって。一時余命宣告を受けました。そのとき、スノーボードでつながった仲間たちが献血に協力してくれたり、骨髄バンクに登録してくれたり、募金してくれたりしたおかげで、骨髄移植を受けることができて命を救われたんです。あのとき、骨髄バンクに登録してくれた人にPay It Back(ペイイットバック: お返しの意)することはできないけど、Pay It Forward(ペイイットフォーワード: 受けた親切をまた別の人に新しい親切としてつないでいくこと)していくことはできる。そう思って、このイベントを2011年から開催しています」
 
同イベント主催者のDAZEこと荒井善正はイベント当日、過密なスケジュールを縫ってその想いを語ってくれた。

 

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「雪を知らない人たちにもスノーボードのカッコよさを伝えながら、献血や骨髄バンクのことを知ってもらって、行動に移してもらうような活動にしたいと思っています。だから、まず来場者のみんなに楽しんでもらう。楽しくて自分から行動するときの力って、人にお願いされて行動するときより全然パワフルなんです」
 
このDAZEの想いは、今年も代々木公園に集まった多くの人々に十分伝わったようだ。2日間で献血実施数471名、骨髄ドナー登録102名という結果で、これまでの記録を塗り替えた。来場者層も多様で、この日はジブバトルを観戦しにきたと教えてくれたスノーボード好きのカップルは、献血や骨髄バンクへの登録ができることを来場するまで知らなかったと言う。「これまで献血とかに協力したことはなかったんですが、このような機会があるなら、ぜひ協力したいなって思いました」と笑顔で話してくれた。
 
DAZEは「『献血お願いします』と言ってしまうと、興味ない人だとやっぱり少し身構えてしまうんです。だから僕たちは『お願いします』って言わない。あちらから積極的に向かってきてくれる仕組みを作ったうえで知ってもらって、今年でも来年でもいいから、いつか行動に移してもらえたらと思います」と語ってくれたのだが、まさにこのカップルのような若者が増えることこそ、DAZEの願いなのだろう。インビテーションライダーとしてジブバトルに出場していたレジナ遼太キルアもまた、献血に協力していた。

 

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ジブバトルの観戦を楽しみながら自然と献血や骨髄バンクの存在を知る

 

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「今まで献血との接点はなかったんですけど、SNOWBANKに出場する以上は、こういう東京でスノーボードできる機会を作ってくれている人にも協力したい、そう思いました。」──レジナ遼太キルア

 
全力で楽しんでいるヤツほどカッコいい。この“楽しむ”文化は、世界中のスノーボーダーたちに通じる共通言語だろう。今回のJIB STYLE BATTLEに出場していたライダーたちもみな、シーズン前の一大イベントを心から楽しんでいた。
 
過去にはX-TRAIL JAMやTOYOTA BIG AIRなど、スノーボードを知らない層へ向けて、この文化を伝える場が数多く存在した。しかし、ストリートカルチャーに対する理解はまだまだ乏しいと言わざるを得ない日本において、雪を知らない多くの人へ、ライダーたちが身を粉にしながらも“楽しんで”ハンドレールと格闘する様子を届けられるような場は、今はもう少ない。
 
次世代を担う若者たちにスノーボードの楽しさを広く伝え、そのうえで社会貢献にもつながっている本イベント。ストリートカルチャーの未来の形を見せてもらったような気がする。
 

text + photos: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)

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