BACKSIDE (バックサイド)

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INTERVIEW

FREESTYLE FOR LIFESTYLE Vol.2 宮坂貴大(BONX) ✕ 野上大介
「起業家というフリースタイルな生き方」

2019.08.09

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能動的かつ自由にラインを描き、独自性あふれるトリックを繰り出すライディングスタイルを通じて、スノーボーダーでありいち個人としてのライフスタイルが育まれていくのではないか。こうしたフリースタイルスノーボーディングの根幹をひも解くべく、スノーボーダーにして各界で活躍する有識者を招いた対談企画を用意した。ふたり目のゲストは、スノーボーダー的な視点から発想を膨らませ、これまでにありそうでなかったウエアラブルトランシーバーを生み出した株式会社BONXのCEO、宮坂貴大氏。

 
 

スノーボードが人生を大きく変えた

 
宮坂貴大(以下TM): この前、西田(洋介)さんと話をする機会があって、どうしてスノーボードにハマったんですか?って聞いたら、「こんな自由なものはないでしょ。一枚の板に乗るだけで、あんなデカい自然のなかを、あんなスピードで、あんなにも自由に行けるものは!」って言われました。スノーボードにハマる理由っていろいろあると思うんですけど、僕にとっては自由っていうのが大きかった気がします。加えて、大学生のときにニュージーランドで出会ったスノーボーダーたちにも大きな影響を受けました。自由に生きている人が多く、とても魅力的に思えたんです。改めて振り返ると、その出会いが僕の人生を変えたと思いますね。あのとき、ニュージーランドに行っていなければ、就職活動をして受かった企業に入り、そこでそれなりに仕事してたような気がしますから。
 
BACKSIDE編集長・野上大介(以下DN): その時点では、まだ起業するイメージはなかったんですか?
 
TM: まったくなかったですね。大学3年生で「就活か……自己PRで何を言おう」なんて心配をしてたくらいですし(笑)。ニュージーランドに行ってなければ今の自分はない。それは断言できますね。野上さんは、どのようにスノーボードにどっぷりと?
 
DN: 僕も大学時代にスノーボードにハマったのは同じです。それに、もともとサラリーマンになりたくないっていう想いが強くて。周りと同じようにスーツを着て働きたくなかった。でも、何の仕事をしたいのかって言ったら、ぶっちゃけ何もなくて。
 
TM: それ、わかります。僕も一緒でした。
 
DN: ただ、そこでスノーボードをやめたら絶対に後悔すると思ったので、僕は就職せずに滑り続ける道を選びました。
 
TM: 僕もサラリーマンにはなりたくなかった。あれ? でも、パイロットになりたかったときがあったな……それってサラリーマンですよね? 服が違うだけで(笑)。ただ、パイロットになりたいっていうのも吹っ飛びました。スノーボードで。
 
DN: 起業したいって思ったのは、いつなんですか?
 
TM: サラリーマンになりたくないけどビジネスはしたい。いつしか漠然とそう思うようになりました。ビジネスができないと世の中に対して何もできないって気がしてたから、事業ができる人になりたかった。そうしたら、自分でやるしかないなって。起業って自由な響きがするじゃないですか?
 

Takahiro Miyasaka

 
DN: そうですね。より自由に自分らしく生きるための起業ってことですか?
 
TM: そういった面もありました。僕の場合、起業するアイデアはGoProから着想を得た感じなんです。だからGoProがなかったら、大学院のときに取り組んでいた畑のことだったり、今とは異なる領域で何かを考えていたと思います。ただ、スノーボードには手を出さなかったと思いますね。
 
DN: それはスノーボードが好きだから、あえて仕事にはせず趣味として楽しみたいってことですか?
 
TM: それもあります。でも、BONXの原点はスノーボードなので、それに関連したイベントに絡んだり、プロライダーをサポートするなど、結局はスノーボードとは切っても切れない縁があるんですけどね。
 
 

スノーボーダーの視点を持っていたからこそ生まれたBONX

 
TM: 滑ってる最中に仲間と話ができたら面白いし、新しい楽しみ方ができると思ったんです。それと同時に、スノーボードっていうタフな環境で使えるものだったらどこでも使えるな、とも。
 
DN: キッカケはGoProの創業エピソードだっていう話を過去のインタビュー記事などで拝読しました。そして、その直後に訪れた(長野)白馬でGoPro本社の社員と遭遇するなど、奇跡的な出会いがあった、とも。
 
TM: そうですね。それらがキッカケになったことは間違いありません。でも、BONXの構想が確信に変わったのは、自分で体験したときなんです。
 
DN: 試作品で?
 
TM: いえ、試作じゃなくてトランシーバーアプリにイヤホンを繋いだ程度です。言ったことが12秒くらい遅れて聞こえてくるなど、あまりイケてない体験だったけど何かを感じるのには十分でした。同じ斜面のすごい前を滑ってるヤツらと会話できるのは本当に面白かった。まぁ、電話ってそういうものでしょって言われたらそうなんですけどね(笑)
 
DN: でも、それが滑りながらハンズフリーでできるわけですもんね。
 
TM: 口で言うと特別なことじゃないかもしれないけど、体験するとすごく新しかった。そして、この新しさに気づいている人はいないだろうなって。自分もコンセプチャルにはわかっていたけど、それを初めて実感したんです。これはちゃんと作ればモノになるだろうって。春の(新潟)かぐらを滑りながらそう感じました。
 
DN: それがいつの話ですか?
 
TM: 2014年の5月下旬ですね。それで創業を決意したんです。
 
DN: その後は順調に?
 
TM: うーん。BACKSIDEは順調かって言われたらなんて答えます?
 

Daisuke Nogami_Takahiro Miyasaka

 
DN: まだ階段を登っている途中です、と。
 
TM: 僕らも一緒です。
 
DN: でも、今ではANAでもBONXを導入されていると聞きましたが?
 
TM: まだ(ハワイ)ホノルル便だけですけどね。2階建ての広い旅客機でCAさんの数も多いため試験的に導入されました。いずれは全便で使ってもらいたいですね。
 
DN: すごい話ですよね。夢があるっていうか。
 
TM: BONXを業務向けのソリューションとして使えるプロダクトも立ち上げたところ、ANAよりも前に某高級イタリアブランドが導入してくれました。興味を持っていただいた理由は、カッコいいから。それまでのインカムがダサいと海外から視察に来ていた方が日本サイドに注意したらしくて、それでウチに問い合わせが来たんです。スノーボーダーとしてデザインにこだわって作っていたから、それが受け入れられたのは嬉しかったですね。加えて品質の部分も認められて、導入店舗は順調に増えています。最初に感度の高い会社が採用してくれたのは大きかったです。
 
 

スノーボードがあるライフスタイル

 
DN: 現在、冬はどれくらい滑りに行かれていますか?
 
TM: 40~50日くらいですね。年末年始のような長い休みは必ず行きます。
 
DN: ちなみに、どんな滑りが好きですか?
 
TM: 今はバックカントリーもやるようになって、それが超面白いなって。でも、若いスタッフと滑りに行くとパークに入ることも多く、昨年はレールもガンガン攻めてました(笑)。スネをケガして痕が残ったりもしましたが、飛んだりコスったりも面白いですよね。個人的に身体が持つかぎりは、あらゆるライディングスタイルを楽しみたいです。最初に札幌にコモったときにアンディ(安藤健次)さんと何度も一緒に滑らせてもらって、そのライディングスタイルに憧れて、そう思うようになったのかもしれません。
 
DN: 自由すぎる人に憧れちゃったんですね。
 
TM: 滑りも自由で、ライフスタイルも自由。板に乗ること自体が本当に上手いし、何でもトライするし、何よりも楽しそうで……。アンディさんくらい何でも楽しめるとカッコいいなって。まぁ、一生追いつくことはできないでしょうけど(笑)
 
DN: 普段は、どのようなメンツで滑るんですか?
 
TM: 昔からの滑り仲間だったり、ウチの社員だったり、あと最近は仕事関連の人だったりですね。スノーボードやサーフィンをはじめアクションスポーツやアウトドアスポーツが好きな人が集まるコミュニティがあるんです。その中心がYahoo!の元社長だった宮坂さん。たまたま同姓なんですが、彼は熱量がものすごいスノーボーダーでありトレイルランナーで、それに引っ張られるような形でコミュニティができあがりました。
 
DN: スノーボーダーであり起業された方々のコミュニティなんですね。自身がスノーボーダーだからこそ、ベンチャー企業で活かされるところってあるんでしょうか?
 
TM: ひとつ思うのは、エクストリームスポーツをやっていると死ぬかもしれないアクションと隣り合わせなわけじゃないですか。ジャンプで大ケガするかもしれないし、雪崩に巻き込まれるかもしれない。そういった環境に身を置いているからか、リスクに対する許容範囲が広い気はします。何となくいい感じの人を取引先で見かけると、スノーボードやサーフィンをやってることが多いんですよ。
 
DN: なるほど。フリースタイルマインドを持った人間たちが社会で物申せる立場になってきているわけですね。
 
TM: 結局、僕がベンチャーをやっているのも、楽しけりゃいいって言うのは言い過ぎかもしれないけど、すごいことをやりつつ楽しみたいっていうのがあります。手堅くお金を得たいって考えるんだったらベンチャーじゃないですしね。でも、すごいことをやりたいとは思うんです。仕事ってそういった部分がないと面白くないというか……。BACKSIDEもそうじゃないですか。志は高く持たれてますよね?
 
DN: スノーボードに限った話ではないですが、フリースタイルスポーツを通じて育まれる人間力やアイデンティティは一般社会に通じると大真面目に信じていて。そういったフリースタイルマインドをスノーボードを介して、むしろスノーボードをやらない人にまで届けるつもりでやっています。志だけは高いかもしれないですね(笑)
 

Daisuke Nogami

 
TM: そういったマインドって、何か通じるところがあるのかなって。どういう方法であれ、面白いからすごいことやろうぜって。そういった順番で発想するのが大切なのかなって思います。そういった意味ではフリースタイルマインドっていうのはあるかもしれない。ビジネスでフリースタイルを貫こうとしたら、結局は起業するしかないと思うんですよね。
 
DN: なるほど。
 
TM: スノーボードも型にハマろうと思えばハマることができるじゃないですか? 起業も一緒でいろんな型はあるので、そこにハマろうと思えばそれもできると思います。あとはマインド次第。より自分らしく楽しめるのか、突き詰められるのかってところですよね。
 
DN: スタイルを出してナンボって世界にいたから、そのようにビジネスもとらえられているわけですね。
 
TM: そうだと思います。いかに成功しようがお金持ちになろうが、そこにスタイルがないとカッコよくないですもんね。
 
DN: 人とは違ったオリジナリティあふれる企業であり、ビジネススタイルでないと面白くない、と。
 
TM: 例えばですけど、僕らが上場するってなると、世間一般的には成功じゃないですか。でも、世の中的には上場企業が1社増えても何も変わらない。だからこそ自分たちがやる意義とか、世の中に与えたいものっていうのがないと意味がないって思うんです。それをスタイルと呼ぶのかわからないですけど、そこを忘れると意味がないなって。
 
DN: とてもいい話ができました。ありがとうございました。
 
 

GUEST

 

Takahiro Miyasaka

 
宮坂貴大
Takahiro Miyasaka

 
1984年生まれ。神奈川県出身。株式会社BONX代表取締役CEO。高校生でスノーボードに出会い、大学時代に没頭する。東京大学大学院を卒業後、コンサルタント業務に従事するも、ウエアラブルカメラ・GoProからウエアラブルトランシーバー・BONXの構想を実現するべく、2014年11月に起業。現在、BONXはビジネス向けソリューションとして多くの顧客を獲得している。3児の父でもある。

text: Haruaki Kanazawa photos: Nobuhiro Fukami

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