BACKSIDE (バックサイド)

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FEATURE

星野リゾート ネコマ マウンテン誕生秘話【後編】粉雪と会津文化のかけ算で世界レベルへ

2023.11.20

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アルツ磐梯と猫魔スキー場が連結する──以前からあった噂だけにローカルはもちろん、耳にしたことがあるというスノーボーダーも少なくなかったのではないか。今年10月12日、双方をつなぐ連結リフトが12月22日(金)の開通を予定していると、両施設を運営する星野リゾートが発表。「星野リゾート ネコマ マウンテン」と命名され、189haのゲレンデ面積を誇る巨大スノーリゾートと化したのだ。ゲレンデの広さランキングでは一気に、国内トップ10入りを果たした。
 
今般の連結に向けて2009年から始動、14年という歳月を要した一大プロジェクトである。その間、東日本大震災が引き起こした原発事故による風評被害をこうむり、コロナ禍の影響による大打撃を受けた。それでも諦めなかった、アルツ磐梯と猫魔スキー場を支えてきた“雪バカ”たちが掲げた夢。その指揮者である星野リゾート代表、星野佳路さんに話を聞いた。ネコマ マウンテンが誕生するまでの裏話を語っていただいた前編に続いて後編は、世界レベルへ羽ばたくネコマ マウンテンの未来について。

 

旧アルツ磐梯と旧猫魔スキー場が連結したネコマ マウンテンは、引き続き“スノーボーダーの聖地”である

 

標高1,000m以上のフィールドがネコマ マウンテンの真骨頂

──アルツ磐梯と猫魔スキー場が連結したことは、日本最大級のスノーリゾートとして世界と戦うためのスタート地点だとされています。ネコマ マウンテンとして今シーズン、ずばりどのように生まれ変わりますか?
 
南エリア(旧アルツ磐梯)から入ってきた人たちが、最初のクワッドリフトであるアルツエクスプレスで上がっていただくと山頂駅の標高は1,135mあるのですが、北エリア(旧猫魔スキー場)を合わせると標高1,000m以上のエリアが相当な面積になります。そこでの楽しみをもっと充実させたいと思っており、上だけで一日過ごせるようにすることが、私の中でネコマ マウンテンの魅力を引き出すことになると考えています。
 
まずは、南エリアのブラックバレーエクスプレス山麓に位置する「The Rider’s」に、ネコマ マウンテンの中心機能を移していくことが必要です。雪が少ないシーズンやスタートが遅いシーズン、さらにスプリングシーズンまで楽しんでいただくためにも、標高1,000m以上の広大なエリアを充実させることにより、北と南を行き来していただく楽しみ方をオススメしたいですね。

 

 

 

ネコマ マウンテンのベース基地となるThe Rider’sの看板(上)。1Fのエントランス(中)と2Fのダイニング(下)

 

──昔、旧アルツ磐梯にあたる南エリア上部の残雪を利用してスノーボードのイベントが行われていました。残雪は豊富にあれどアルツ磐梯がクローズしてしまうと上部へはアクセスできませんでしたが、これからは北エリアから入れるということですよね?
 
もちろんそうです。南エリアのアルツエクスプレスは人を下ろすことができるクワッドリフトです。そのため、ベースの雪がなくなったとしても、南エリアの上部や北エリアへアクセスできるようにしていきたいと思っています。
 
これからいろいろな関係者と議論していかなければなりませんが、ネコマ マウンテン周辺の雪はとても素晴らしいので、インバウンド向けには、磐梯山・猫魔岳周辺のバックカントリーフィールドなどのアクティビティを提供できるようにしていくことも、私たちの将来的な目標です。

 

写真はイメージになるが、これからネコマ マウンテン周辺のバックカントリーフィールドが開拓されていく


極上パウダースノー×日本文化=世界的価値

──どのようなバックカントリーのサービスをイメージされていますか?
 
ヨーロッパなどの諸外国でもツアーガイドが一日お連れするコースができあがっていますが、リフト乗車とライディングとハイクアップを組み合わせるだけでも、とても面白いフィールドが広がる可能性を秘めています。インバウンドは日本のパウダースノーが旅の目的という人が多いので、そういった方々にアピールできる要素が豊富にあるエリアです。ひとつの大きなスキーフィールドができあがったあとは、どうやって安全を担保したうえでバックカントリーエリアへご案内できる体制を整えるか、これが非常に大事だと思っています。
 
私たちは世界8カ国でプレス発表会をやっており、星野リゾート全体の発信力を活かして海外からいらしていただけるところまでは持っていけます。そのうえで、私たちのホテルだけでなく裏磐梯エリアのホテルさんとも連携しているので、そこにガイドの方々にも入ってきていただいてみなさんの情報を発信しつつ、オンラインでも予約できるような状態にしたいですね。

 

旧猫魔スキー場にあたる北エリアは、ミクロファインスノーと呼ばれる上質なパウダースノーに覆われる

 

──おっしゃっていただいたように、インバウンド誘客を強めることで福島の復興を牽引されていく立場かと思います。世界に点在する数々のスノーリゾートを視察されていると思いますが、ネコマ マウンテンと会津の文化を掛け合わせたブランディングにより生まれるグローバル的な価値について、どのようにお考えでしょうか?
 
インバウンドのスキーヤーやスノーボーダーたちは、先ほどもお話したように日本のパウダースノーが目的ではありますが、実はそれだけではありません。私は「なぜ雪は同じ白なのに日本に滑りに来るのか?」という質問を世界中で聞いています。出てきた答えは、文化体験とのミックスでした。志賀高原にある多くの外国人スキーヤーやスノーボーダーたちが泊まる宿に行ったことがあるのですが、そのときに彼らにいろいろと聞いてみました。すると、彼らの考え方がとても面白くて。1週間くらい滞在しているようなのですが、志賀高原で滑るのは吹雪いている日だそうです。視界が悪すぎて私だったら休んでいるような日が、彼らにとっては日本っぽくて価値があるそうです。逆に、青空で景色がいい日に恵まれたら、彼らは善光寺に行きます。1週間の滞在だから、晴れている日は善光寺、次に晴れた日は飯山から新幹線に乗って金沢まで行き、兼六園などを観光していることを知りました。
 
そうしたことを踏まえると、会津若松には城があり、いまだに武士道の精神が残っていたり、大内宿のような江戸時代からの宿場町があったり、日本酒も美味しい。さらに今、世界では寿司の次にラーメンですので、北エリアから20分ほど車を走らせれば、日本の三代ラーメンのひとつである喜多方ラーメンも味わっていただけます。会津には日本文化がそろっています。正しくコミュニケーションを図っていけば、このエリアのポテンシャルの高さをわかっていただけると考えています。そのため、会津若松のDMO(観光地域づくり法人)と組んで、一緒になって魅力を発信していく活動をしています。
 
会津若松の観光は冬に落ちます。そのため、街観光にとっての閑散期が私たちのオンシーズンですので、協力関係が成立します。実は、カナダのバンフもニュージーランドのクイーンズタウンも同じです。バンフはもともと夏の別荘地で、それが冬になると落ち込むことから、近隣のサンシャインビレッジやレイクルイーズと組んだことで活性化しました。クイーンズタウンも同様に、近郊のスキー場と組んだことで成功しています。会津若松もロジックは同じですね。短期的に見ると震災や原発事故がありましたけれど、この地のポテンシャルはものすごく大きいと以前から思っており、いずれ結果がついてくるはずだと信じています。

 

分刻みの多忙なスケジュールだったにもかかわらず、終了予定時刻が迫っても笑顔を絶やさずに最後まで熱く語っていただいた


ネコマ マウンテンは星野佳路のライフワーク

──事業ドメインを運営に置く星野リゾートですが、ネコマ マウンテンは土地建物を所有する唯一のリゾートかと思います。これまで長きに渡りアルツ磐梯と猫魔スキー場に関わってこられた中で、経営判断とスキー愛とが絶妙なバランスで保たれていたのではないかと感じます。ネコマ マウンテンを“ライフワーク”と公言して取り組まれている胸中についてお聞かせください。
 
2003年にアルツ磐梯という素材に、その後、猫魔スキー場という素材に出会うわけですけれども、あれだけ大きなフィールドが秘めるポテンシャルの高さがあったうえで、原発事故というネガティブな要素もあります。だからこそ、私たちの力が必要とされている感覚です。ほかの案件であればもっと早く、結果も利益も出せます。ただし、今回のケースもそうですが、スノーリゾートのブランディングというのは世界的に見ても長期戦です。カナダのウィスラーも、コロラドのベイルもそうです。長期的に世界へ向けて羽ばたくような場所にしていくには、星野リゾートの持っている力が頼られているのであって、そのようなところで仕事をすることが、私たちを成長させてくれたと思っています。だからこそ、ギブアップしてはいけないという覚悟があります。ということなのですが、あまりにも長期戦なのでライフワークになりつつある、ということなんですね(笑)
 
私はよく「正しい戦略を結果が出るまでやり続ける」と言っているのですが、この考え方はものすごく大事だと思います。磐梯や会津のケースは、私の年齢を考えると次の世代までやり続けないと本当の意味では結果が出ないかもしれません。この夏、ニュージーランドに行ったときにコロネットピークやカードローナの歴史を見てきましたが、かなり古いですよね。巨額な投資や破綻を繰り返して、何十年もかけて素晴らしい場所になる。ですから、私たちは磐梯や会津エリアでしつこくやっていきたいと思っています。私たちが規模が小さい時期にアルツ磐梯と出会い、2011年の東日本大震災を経験したことも、ある意味運命的なものです。天から与えられた使命だと思って取り組んでいます。

 

アルツ磐梯と猫魔スキー場が持つポンテシャルを信じ続けたからこそ、ネコマ マウンテンが生まれたのだ

 

──最後に、ネコマ マウンテンの今後のビジョンについてお聞かせください。
 
これだけ大きなフィールドになるので、幅広いターゲットに対して満足していただけるよう、毎年進化していきたいと思っています。その中でも、地元の顧客をものすごく大事に考えています。原発事故以降もコロナ禍もそうです。震災以降、地元の方々がサポートしてくださったからこそ、私たちはここまで生き残ることができました。今後も、福島はもちろん、茨城や栃木といった周辺の方々にとって満足いただけるスキー場でなければいけません。インバウンドが増えたからといってリフト券の値段を急激に上げたりすることなく、地元の方々がいつでも遊びに来られる環境を用意できるよう努めます。

 

星野佳路(ほしの・よしはる)
星野リゾート代表。1960年、長野県軽井沢町生まれ。1983年、慶應義塾大学経済学部卒業。米・コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年、星野温泉(現在の星野リゾート)社長(現在の代表)に就任。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。現在、運営拠点は、独創的なテーマが紡ぐ圧倒的非日常「星のや」、ご当地の魅力を発信する温泉旅館「界」、想像を超えて、記憶に残るリゾートホテル「リゾナーレ」、テンション上がる「街ナカ」ホテル「OMO(おも)」、みんなでルーズに過ごすホテル「BEB(ベブ)」の5ブランドを中心に、国内外68カ所に及ぶ。

interview + text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
eye catch photo: Yuto Nishimura(HANGOUT COMPANY)

Hoshino Resorts NEKOMA MOUNTAIN | 公式ページはこちら

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