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【雪を愛する人と、雪国の未来】秋田・東成瀬村 備前博和村長が語る「人口を増やすのではなく、『小さくても楽しく、強い村』へ」
2026.08.12
村の人口は約2,100人。人口は減り続け、冬の暮らしを支えてきた世代も少しずつ高齢化している。世界有数の豪雪地帯で暮らしを維持していくためには、道路や家屋の除雪だけでなく、地域の産業やコミュニティを担う人材も欠かせない。
その東成瀬村には、雪を愛する一部の滑り手たちが通い続けるゲレンデ「ジュネス栗駒」がある。まだ広く知られてはいないが、その豊かな雪と地形を大切に思うローカルがいる。
雪を求めてこの村を訪れる人が、雪国の未来にも関わることはできるのだろうか。
滑るために村を訪れ、気に入れば冬を過ごす。地域の人たちと交流し、自らの仕事や経験を生かしながら、その土地と継続的な関係を築いていく。
それは単なる観光でも、従来型の移住でもない。雪を楽しむ人と、雪とともに暮らしてきた人たちが互いに支え合う、新しい関係である。
その可能性について、東成瀬村の備前博和村長に話を聞いた。
人口を増やすのではなく、「小さくても楽しく、強い村」へ
──まず、東成瀬村が現在抱えている課題について聞かせてください。
中山間地域に共通していることですが、人口減少と少子高齢化です。こうした過疎地域にとって最大の課題ですね。
目下の課題としては、現在建設が進む成瀬ダムの完成後に、どのような地域づくりをしていくのかということです。中長期的には、今後も村を運営していくために、持続可能な財政基盤をしっかり固めていかなければいけません。
この地域に合った産業を振興し、それに見合った所得を生み出していくことも必要です。このふたつがセットでなければ、なかなか若者は地域に残りません。
農業をブランド化していくこともひとつですが、それだけで地域経済を支えていくのは難しい面もあります。ITを活用したソフト事業に加え、ジュネス栗駒や完成後の成瀬ダムを生かした観光産業も、これから重要になってくると思っています。
人口減少に伴って、人材も不足します。人がいないということは、地域を担う人もいなくなるということです。また、ほかの地域の中に埋没しないよう、東成瀬村の魅力を発信していくことも重要な課題だと感じています。

東成瀬村が抱える課題について語る備前村長
photo: YUI
──やはり、最大の課題は人口減少なのでしょうか。
そうですね。ただ、人口減少を止めるというのは基本的には無理だと思っています。だからこそ人口が減っていく中で、どうやって村を維持していくのかを考えなければいけません。
仮に人口が1,500人、1,000人になったとしても、人数が少ないだけで、みんなが楽しく生きている。活気があって、夏になると違う人たちが増え、冬になるとまた別の人たちがやって来る。
「なぜ、あの村はあれだけ小さいのに、楽しくて、強い村なのだろう」
私の理想ですけどね。そういう村を目指すべきではないかと思っています。
スノーボーダーは「観光客」ではなく、「関係人口」になれるか
──移住者だけでなく、二拠点生活者や冬の数ヶ月だけ村で暮らす人も含め、外部の人材にどのようなことを期待していますか。
村としては、ただ移住してもらえばいいという考え方ではないです。少し贅沢な話かもしれませんが、できればこの村に合った人に来てもらいたい。
それも、1年中ずっと住む必要はなくて、半年だけでも構いません。いわゆる関係人口を増やしていきたいということです。専門的な知識や技術を持つ人材も必要としています。
ただ村に住むだけではなく、この村に関わり、魅力を発信したり、地域にある資源を活用して新しい産業を起こしたりする人に来てもらえたら、すごくうれしいですね。例えば、小水力発電に詳しいエンジニアで、スノーボーダーでもある人がいたら、ものすごく助かりますけどね(笑)。理想ですけど。
もちろん冬だけでも村に入り、地域の人たちと交流する。その人が夏にはいなくなっても、冬になれば「また帰ってきました」と言えるような関係を築くことは、とても重要だと思います。

東成瀬村の冬を支えるゲレンデ「ジュネス栗駒」
photo: Hiroyuki Numakunai
──雪山を中心に暮らすスノーボーダーが、村で滑り、働き、生活することに、どのような可能性を感じますか。
スノーボーダーに限らず、スキーヤーでもそうですが、冬を楽しみたいという人が村の中にいるだけで、地域の人たちは安心すると思うんですよね。高齢者の方の中には、「この冬を本当に越せるだろうか」と、現実的な不安を抱えている人もいると思います。そうした地域に若い人がいる。そのこと自体が、ひとつの大きな安心感につながると思います。
もちろん労働力という面もあります。スノーボードやスキーを楽しみながら、それ以外の時間に地域へ貢献してもらえれば、それは理想的です。
いずれにしても、ただ村に来るのではなく、この村と関わり合うこと。そうした新しい地域との関係を築くことができれば、とてもいいと思いますね。
──ジュネス栗駒を訪れて滑るだけでなく、地域の暮らしにも関わることで、より深い関係を築けるのではないでしょうか。
地域と関わり合うことは、すごくいいことだと思います。新しい雪国の形として、ひとつの可能性にもなりますよね。もしかしたら、東成瀬村がそのモデルになるかもしれない。観光客として訪れるだけではなく、シーズン中だけでも実際に暮らし、地域の人たちと一緒に活動する。そういう事例は、全国的に見てもまだ少ないのではないでしょうか。
これまでは、雪を消す方法や、雪をエネルギーに変える方法といった技術的な取り組みが、雪国のモデルとして語られることが多かったと思います。でも、雪を求める人に実際に住んでもらい、その地域と一緒に暮らしてもらう。それもまた、雪国の新しい可能性になると思います。
雪を避けたい人と、雪を待ち望む人
──村で生まれ育った人にとって、雪は必ずしも楽しいものではありませんよね。若い世代も、暮らしの中で雪を避けたいと感じるようになるのでしょうか。
小学生くらいまでは、雪も楽しいと思いながら育つんじゃないでしょうか(笑)。でも、中学生、高校生になると、この村には高校がありませんから、周辺の横手市や湯沢市まで通うようになります。そうすると、雪の厳しさを実感するようになると思うんですよね。
「この雪の中で、将来も暮らし続けるのは大変だな」と感じて、雪の降らないところへ行きたいという気持ちが、だんだん強くなるのではないでしょうか。雪がまったく苦にならないという人は、なかなかいないと思います。私自身もそうでしたからね。

東成瀬村の日常。豪雪地帯ならではの冬の暮らし
photo: Hiroyuki Numakunai
──いっぽう、スノーボーダーは雪が降ることを歓迎します。ゲレンデ以外の斜面や地形にも遊びの可能性を見いだすなど、雪に対する見方そのものが違うのかもしれません。
そういう発想はいろいろあると思いますよ。村の高齢者の方が歩いているような場所を見て、「ここはクロスカントリーで遊べる」と考える人もいるでしょう。地域の人からすると、「いったい何を楽しんでいるんだ」と思うかもしれませんけどね(笑)
でも、私は逆に、そういう人こそ、この村に関わってもらうのが合っていると思うんです。
雪の降らない地域から来た人は、最初は「きれいだな」「すごいな」と思うでしょう。でも、実際に暮らしてみれば、「ここは住むところではないかもしれない」となる可能性がある。
地域おこし協力隊を見ていても、雪のある生活に耐えられず、1年ほどで辞めていく人がいます。雪かきをする文化もないでしょうから、それが負担になるのはわかります。
その点、スノーボーダーやスキーヤーは、むしろ雪を歓迎する人たちです。そういう人に来てもらうのが、この村には一番合っていると私は思います。
──ただ、雪が好きだからといって、滑っているだけでは地域の理解を得られません。村の一員として受け入れられるためには、何が必要でしょうか。
村の人は、活動の一部分しか見えないこともありますからね。地域おこし協力隊は、それぞれに与えられた地域課題に取り組む制度ですが、村民からは地域全般のお手伝いをする人だと思われていることもあります。そのため、「何をしているんだ」「ここにいるけれど、何もしていないじゃないか」と見られることがあるんです。
でも、実際には別の課題を解決するために活動している。そのことを村民にきちんと説明するのは、行政の仕事だと思っています。
季節ごとに村へ来たスノーボーダー本人だけに任せるのではなく、行政と本人が話し合いながら、「こういうことに取り組んでもらっています」と地域へ伝えていく。コミュニケーションを取りながら進めることが、一番いいと思います。
──昨冬には、若いスノーボーダーを招いた雪下ろしの体験モニターも実施しました。今後につながる可能性は感じられましたか。
みなさん、すごく楽しそうでしたからね(笑)。ただ、1日だけの体験と、シーズンを通して暮らすことは違います。必ずしも長期間でなくても、例えば1週間ずつ交代して来てもらう形でもいいと思うんです。
村での活動ばかりが多くなれば大変ですから、滑ることとのバランスを上手く取る必要があります。その形であれば、可能性はあるのではないかと感じました。

昨シーズンに実施した雪下ろし体験モニター
photo: Hiroyuki Numakunai
また、雪下ろしのような危険な作業まで求めていいのかという問題もあります。もっと簡単にできることや、冬の地域活動に参加してもらうだけでもいい。地域のお祭りや、高齢者の方が集まるサロンで一緒に過ごすことも、関わり方のひとつです。地域の人たちとの飲み会に来てもらうのもいいと思いますよ。そのほうがいいかもしれないですね(笑)
ジュネス栗駒を、村とともに変えていく
──村長にとって、ジュネス栗駒はどのような存在ですか。
開業から30年以上が経っています。東成瀬村は豪雪地帯ですから、雪はある意味で村の自慢のひとつでもあります。その雪を生かそうとして、前村長がつくった施設だと思っています。
最初の頃は年間16万人ほどのお客さんが訪れましたが、バブル崩壊などもあり、現在は1万5,000人から1万6,000人ほどにまで減っています。人口減少や少子高齢化の影響もあると思います。
ただ、村における冬の産業を考えたときに、この雪を生かさない手はありません。
ジュネス栗駒は、村を代表する冬の施設です。そして、関係人口を育てる拠点でもある。雪を地域資源として捉えるうえで、象徴的な施設だと思っています。
──近年は、海外から訪れる人も少しずつ増えているそうですね。
インバウンドのお客さんも徐々に増えていると聞いています。今年2月、「なぜ、うちのゲレンデに来たんですか」と聞いたら、「安いから」と言われまして(笑)。喜んでいいのか、悲しんでいいのかわかりませんけどね。
でも、それがきっかけでもいいと思うんです。そこから少しずつ広がって、いずれは話題になるような場所になってほしいですね。
──ジュネス栗駒を愛するローカルには、広く知られてほしい気持ちと、今の環境を守りたい気持ちの両方があると思います。そのバランスをどう考えていますか。
そのふたつを両立できれば一番いいと思います。私は、ジュネス栗駒には、そろそろある程度の投資をして、ゲレンデを変えていく必要があると考えています。そのときには、実際に滑っているさまざまな人の意見を聞かなければいけません。
現在はスキーヤーよりスノーボーダーのほうが多くなっていると思いますから、スノーボーダーが集うような施設にしていくことも、ひとつの方向ではないでしょうか。非圧雪エリアを含めた滑走環境をさらに充実させることや、比較的長い距離を滑り下りられるコースも必要だと思っています。

その雪を知る滑り手たちは、この場所へ何度も帰ってくる
rider: Yuki Furihata
photo: Hiroyuki Numakunai
──現在動いていないリフトを、再び稼働させる可能性もあるのでしょうか。
動いていないリフトを改築するのは、財政的に難しいと思います。以前は10億円ほどという話もありましたが、今では40億円、50億円かかるとも言われています。それでは、現実的には難しいでしょう。
だから、リフトを増やすのではなく、ゲレンデそのものを変えていく。例えば、山頂から麓までノンストップでつながるコースをつくり、その中で圧雪する場所と新雪を残す場所を分ける。そうすれば、一本のランの中でも、いろいろな楽しみ方ができるのではないかと思っています。
──一本のランで、圧雪と新雪の両方を楽しめる。滑り手にとっては理想的ですね。
そういうものを、みなさんの意見を聞きながら考えたいですね。最終的には、ひとつの計画としてまとめてみたいと思っています。
──これから村へ来る移住者や、季節的に関わる人たちが、ジュネス栗駒を村とともに変えていく人材になる可能性もありますか。
そういう人材は、すごく必要だと思います。スノーボーダーの聖地とまでは言わなくても、多くの人が集う施設にしていくのであれば、専門的な知識を持ち、アドバイスできる人が必要です。
──ジュネス栗駒を訪れたことがきっかけとなり、やがて村で暮らしたり、地域に関わったりする人が現れる。さらに、その人の知識や経験がジュネス栗駒の未来にも還元される。そんな循環をつくることが理想でしょうか。
そうですね。ジュネス栗駒が、そうした人たちと村をつなぐ場所になればいいと思っています。
ただ滑りに来てもらうだけではなく、村に関心を持ち、何らかの形で関わってもらう。その人たちの経験や知識も取り入れながら、ジュネス栗駒をより魅力的な場所にしていく。そうした関係をつくることができれば、ゲレンデにとっても、村にとっても、とてもいいことだと思います。
雪文化を受け継ぐのは、雪国の人だけではない
──僕たちは「スノーカルチャー」という言葉をよく使いますが、「雪と暮らす文化」と「雪で遊ぶ文化」は、本来まったく別のものだと思っています。そのふたつがつながることで、雪国の未来も変わるのではないでしょうか。
すごく重要で、私にとっても難しい課題です。私は雪国で育ちましたが、今はウィンタースポーツができない子供たちがどんどん増えている。それは少し悲しいことだと思っています。
だからこそ、ジュネス栗駒だけは、ある程度お金がかかっても続けていかなければならないという使命感があります。この地域には、雪国だからこそ育まれてきた文化があり、それが今も東成瀬村を支えている。
その文化を大切にしながら、外から来たスノーボーダーの新しい視点も加わり、お互いに学び合える関係になればいいと思っています。
──雪を愛しているスノーボーダーだからこそ、地域の子供たちへ伝えられることもあるのではないでしょうか。
そう思います。本来であれば、雪国に暮らす私たちが、その楽しさを伝えなければいけないんです。でも今は、それができる人が少なくなってきています。
だから逆に、雪を楽しめる人たちに来てもらって、その楽しさを教えてもらうことも必要なんじゃないでしょうか。そうすることで、この地域に暮らす文化も受け継がれていくし、雪国で暮らす喜びも継承されていくような気がします。

雪文化を未来へ受け継ぐビジョンを語る備前村長
photo: YUI
──学校教育の中でも、その役割を担える可能性はありますか。
あると思います。例えば、スノーボード教室のような形で子供たちと触れ合う機会をつくることもできますよね。本当は学校教育の中でも取り入れられればいいのですが、今は先生方の負担を減らす方向へ進んでいて、スキー授業も少なくなっています。
だったら、スノーボーダーやスキーヤーといった地域の外の人たちが、その役割を担ってくれる。そういう形も、これからはあっていいと思います。
東成瀬村から、雪を愛する人へ
──最後に、BACKSIDEの読者へメッセージをお願いします。
東成瀬村は豪雪地帯ですが、その雪は今でも、この村を象徴する魅力のひとつだと思っています。
昔は厄介者だと思っていました。
でも今は、雪とともに暮らし、雪を楽しみ、雪に支えられながら生きる人たちの営みがあります。
まずはジュネス栗駒の雪を楽しみに来てください。
そして、この村を気に入ってもらえたなら、今度は東成瀬村と関わり、この村で少し暮らしてみてください。
私たちの未来につながる仲間になってもらえたら、本当にうれしく思います。
冬になると帰ってくる人がいる。地域の暮らしに顔を出し、自分の仕事や知識を生かしながら雪を楽しむ。その姿を見た子供たちが、自分たちの村に降る雪の価値をあらためて知る。
雪国の文化は、雪国で生まれ育った人だけが守るものではないのかもしれない。
雪を愛し、この地を訪れる人もまた、その文化を受け継ぎ、次の時代へ手渡すことができる。
スノーボーダーは、雪国の不足を埋めるための人手ではない。雪を負担ではなく喜びとして受け止め、村の人たちとともに未来をつくる仲間になり得る。
東成瀬村で始まろうとしているのは、雪を愛する人と雪国の未来を結び直す試みだ。
その答えは、この村で暮らす人たち、そして関わる人たちの声を通して、これから少しずつ見えてくる。
interview + text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)
top photo: YUI




