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FEATURE
“ターンで語り合う” セッションの醍醐味『日本を滑ろう: 西日本で楽しむツリーラン』
2021.02.18
BURTON(バートン)が贈る連載ムービー『日本を滑ろう』は弊サイトでもおなじみだが、本記事では先日公開された「西日本で楽しむツリーラン」編の舞台裏をお届け。BURTONのチームライダー・中山悠也とともに、弊誌および弊サイト編集長の野上大介が登場する。その舞台は西日本最大級を誇るスノーリゾート、福井・スキージャム勝山。同ブランドのレジェンドライダー、デイブ・ダウニング監修のツリーランコースが今シーズン誕生するということで、そのオープン日に合わせて乗り込んだ。
トップブランドからまさかのオファーが
毎日、天気予報とにらめっこしていた。ツリーランの撮影なのに降雪がない。撮影を予定していた前日にロケハンのためツリーランコースを滑ったのだが、オープン前だったにも関わらずトラックが無数に入っていてボコボコ。まともに滑ることが許される状態ではなかった。
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リフトから見渡すかぎりでも厳しい状況は一目瞭然
今シーズンはラニーニャ現象の発生により多くの降雪が期待できたこと。さらに、コロナ禍で外国人が少ないことからJAPOWが余るため、日本人スノーボーダーにとって今世紀最初で最後の“奇跡のシーズン”になるかもしれないと弊サイトでも再三に渡って謳ってきたが、BURTONも同じ想いだったのかもしれない。
「日本を滑ろう」と題したキャンペーンを立ち上げ、全国津々浦々に点在する国内のスノーリゾートを滑り倒す連載ムービーを企画。9本用意された動画コンテンツのひとつ、「西日本で楽しむツリーラン」編への出演依頼がボク(野上大介)に舞い込んだ。BURTONチームライダーの中山悠也(ユウヤ)とのツリーランセッションという内容だ。
レジェンドが監修するツリーランコースとは
そのツリーランコースとは、かつてBURTONのライダーとしてフリースタイルシーンの第一線で活躍し、レジェンドスノーボーダーとして知られるデイブ・ダウニングが監修している。2シーズン前の2019年、スキージャム勝山にデモツアーで訪れた際、コースとしては設定されていなかったツリーエリアにひとめ惚れ(要するに入っちゃった?)。リゾート側にツリーランコースとしての開放を提案し、翌2020年、コース監修のため再び来日した。1週間ほど滞在したそうだが、昨シーズンの暖冬に加え最終日まで降雪がなく、コース設定に苦戦を強いられたようだが、さすがはレジェンドライダー。しっかり仕事をこなしたようだ。本記事内の映像を観れば、デイブの仕事ぶりがわかる。
西日本でパウダーを当てるのは至難の業?
そのデイブはコロナ禍ということで残念ながら来日できなかったが、ボクはユウヤと同日にスキージャム勝山入り。冒頭で述べたように、なかなか降雪に恵まれないどころか雨が降る始末。「コーンスノーみたいで板走るよねー」なんて無理矢理テンションを上げながらユウヤとライディングセッションし、夜は疲れているスタッフを尻目にアルコールセッション。もちろん面識はあったが、これまで以上に親交を深めながら撮影当日を迎えた。
撮影初日。降雪ゼロ。9本のムービーを制作するにあたり超タイトなスケジュールとなっていたため、最悪を想定して撮影を進めていくことに。木々に一切雪がついていない状態ながらも、ジャンプするユウヤとタイミングを合わせて画作りに挑むこと3本目。撮影慣れしていないエディターながらも前夜の酒セッションが功を奏してか(?)、息が合いカタチにすることができた。ユウヤのスタイリッシュなメソッドトゥイークを少しは演出できているだろうか?
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ますだおかだ・岡田圭右の「ワオ!」みたいになっているのは狙い通り(笑)
マザーネイチャーに合わせて動く大人たち
この日の深夜から豪雪との予報だったため撮影クルー一同、それに賭けていた。しかし、夜の時点ではそこまで降っておらず。ユウヤと飲み交わしながら、明朝どれだけ積もっているかに期待しながら寝床についた。
撮影2日目となるこの日が本トリップの最終日。しんしんと雪は降り続いていたものの、期待していたほどの積雪量ではなかった。コースサイドのパウダーに当て込むも、アイスバーンに底あたりしてしまう状態。暗雲が立ち込めてきた。前日にツリーランコースに入っていたからわかる。この状態での撮影は厳しい。全員が心の中でそうつぶやいたことだろう。
この日は金曜だったのだが、翌週から『日本を滑ろう』の東北トリップ後編の撮影を控えていたビデオグラファーを中心に、リフト上で緊急ミーティング。シーズン中につき多忙を極めるクルー一同、英断を下した。明朝にかけて一日中降雪の予報だったことが背中を強く押し、延泊決定。ツリーランコースがリセットされることを期待しながら早々にホテルへ戻り、みなリスケジュールのため忙しく動いた。
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BURTONの来季用プロダクト撮影のためユウヤを残して下山。いい感じに降り続けていた
自然の恵みにより整えられた極上の舞台
翌朝。スキージャム勝山の麓に架かるバラエティークワッドリフトの乗り場には、土曜日ということもあり営業開始前から長蛇の列が。降雪後、ローカルスノーボーダーたちが狙うのはスキージャム勝山のツリーランコースということなのだろうか。
軽く雪が舞う中、薄日が差し込んできた。いわゆる“THE DAY”の予感。春のような状況から一変して、一気に真冬の世界へ。否応なしに高まるテンションを抑えきれずにいた。
前日にオープンしていたツリーランコースは完全にリセットされていることだろう。撮影のためにパウダーを残しておいてくれるような甘い世界ではないので、撮影クルー一行、ファーストチェアとはいかなかったものの急いで目的地を目指した。
デイブ監修の「ツリーランBコース」へ行くためには、クワッドリフト3基とトリプルリフト1基を乗り継がなければならないのだが、そのアクセスのための移動ランで確信。サイドヒットしても底あたりしない。今日は間違いなくいける、と。
関東の人間なので5日ほど滞在していても慣れなかったが、西日本のスノーカルチャーのひとつなのだろう。スキージャム勝山にはDJブースが用意されており、ゲレンデ内にラジオが流れているのだ。岐阜のゲレンデもそうだが、そうしたポップな雰囲気から一転。ツリーランコースは開拓されているとはいえ、大自然そのもの。木々と対峙することで身が引き締まるのを感じた。
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圧雪されたオープンバーンでは決して味わえない緊張感と高揚感
経験豊富なプロに誘われた最高のライン
素晴らしいコンディションであることは間違いないものの、不安もつきまとっていた。ツリーランの経験はもちろんあるが、プロスノーボーダーと同じスピードで滑れるのかどうか。
しかし、そんな不安はすぐに一掃されることになる。不思議にも、経験豊富なユウヤの後ろを滑っていると、彼に誘われるようにしていいラインを描けていたような気がするのだ。
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ユウヤに導かれるように刻んだライン
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その結果として大自然と同調できた瞬間
「ツリーランはコミュニケーションをとれる」と本記事内のムービーでユウヤが語っているのだが、まさにそのとおり。三日三晩に渡り滑って飲んで語り合い、その集大成として迎えた最終日。僭越ながら、ユウヤのライディングとシンクロできた瞬間が何度かあったような気がする。
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突如エアを決めるユウヤが巻き上げたスプレーで視界を失うも、安心感からかオーリーして突っ込めた
気の合う仲間とともに、思い想いのラインを描きながら、大自然を感じてライディングできるツリーランという遊び。これまで28年スノーボーダーとして生きてきたが、人生最高のツリーランセッションとなった。
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この撮影中、カメラを意識することなく何度もハイファイブを交わした
コンディションさえ整えば、プロスノーボーダーの仕事は早い。ハーフパイプ競技でオリンピック出場を目指してナショナルチームに所属していた経験を持ち、現在は群馬・水上に拠点を構えバックカントリーフィールドでのライディングに精を出すユウヤにとって、開放されているツリーランコースは快適に違いない。今回の撮影では後ろを滑るボクのことを気遣いながらのライディングだっただろうが、単独になればご覧のとおり。
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来季ギアを身にまとい、美しすぎるスプレーに身を包まれる
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ハイスピードで突っ込みヒールサイドで豪快に当て込む
ターンで語り合うことができる贅沢な遊び
静寂に包まれた森の中、ユウヤが刻むトラックの音を耳にして、彼の動きを感じながら滑った数時間。ユウヤが言うように、「無言の会話」がそこにはあったような気がする。
圧雪されたオープンバーンでのセッションももちろん楽しいが、木々の合間を縫う緊張感を味わいながらフレッシュなパウダースノーを切り裂くツリーランでは、大自然に己をアジャストさせるターンという表現方法を用いて語り合うことができる。コロナ禍の今だからこそ、大自然に身を置いてコミュニケーションをとれる遊びが、改めて新鮮で魅力的に感じた。
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本記事が公開される頃、ボクはユウヤとともに再び、水上の木々の間で無言の会話を楽しんでいる。
riders: Yuya Nakayama and Daisuke Nogami(Chief Editor)
movies: Kiyomasa Kawasaki
photos: Akira Onozuka
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
special thanks: Burton, Ski Jam Katsuyama
BURTON「日本を滑ろう」特設サイト
Burton.com/SnowboardNihon