FEATURE
布施忠、國母和宏、平野歩夢。世界を切り拓いた3人の軌跡を記録し続けた写真家・ブロットの物語
2025.12.01
SNSが日常に溶け込み、スマートフォンの小さな画面でコンテンツが消費される時代。だが、ブロットが残してきた写真は、その瞬間を超えて「作品」として息づき続ける。彼の眼差しを通して見えてくるのは、ライディングの強烈な一瞬だけではなく、150cmあまりの板に乗り己を表現し続ける、人間そのものの存在感だ。ここでは、3人の日本人ライダーたちの軌跡と、彼らを見つめ続けたブロットの視線を重ね合わせながら、フリースタイルスノーボーディングの奥行きを探っていく。
布施 忠──“FUN”な姿勢とド根性で世界との扉をこじ開けた先駆者

Methven, New Zealand, 2006
90年代後半、日本人スノーボーダーがまだ世界の檜舞台で十分な存在感を示せていなかった時代。タダシは単身でカナダ・ウィスラーへと渡り、世界屈指のバックカントリーフリースタイルの現場に身を投じた。伝説的クルー「WILDCATS」と肩を並べるように撮影を重ね、やがて「MACK DAWG PRODUCTIONS」という最高峰のフィルムにその名を刻むまでに至る。
Whistler, B.C., Canada, 2006
日本人として初めてBURTON(バートン)からシグネチャーボードをリリースし、コンテストではなくスタイルを武器に世界を驚嘆させた最初の存在でもあった。
Valle Nevado, Chile, 2005
ブロットが彼を表す言葉は“FUN”。
「タダシは、日本人ライダーがカナダの山で撮影やライディングを行うための道を切り拓いた存在。努力を惜しむことなく、同時にユーモアも忘れない。数々のビデオパートを残し続けたその姿は、当時の多くのライダーたちにインスピレーションを与えていたよ。ストイックさ以上に、彼の滑りには“楽しさ”が宿っているんだ」
Valle Nevado, Chile, 2005
2006年、ニュージーランドでの撮影は特に記憶に残っているとブロットは振り返る。バックカントリーではなく、あえてリゾートとその周辺だけで撮影するという制限を設けたセッション。限られた環境の中でタダシは遊び心を全開にし、仲間たちと笑いながらも唯一無二の写真を残した。
「バックカントリーフリースタイルという領域で、タダシの存在は歴史の一部として語り継がれるべきだよ。いっぽうで、トレバー・アンドリューやマルコ・グリックらと、あえてゲレンデで撮影したときのタダシは新鮮だった。とても生産的な撮影になり、どのロケーションでもいい画を残すことができた。スノーボードを楽しむことが滲み出ている一枚となったね」

Coronet Peak, New Zealand, 2006
タダシの歩みは、すさまじい努力はもちろんのこと、フリースタイルスノーボーディングを“楽しむこと”を貫き続け、世界を切り拓いた先駆者の物語だった。

Cardrona, New Zealand、 2006
國母和宏──“ATTACK”で世界を切り拓いたサムライ

Mammoth Mountain, California, USA, 2011
カズは14歳のときに「BURTON US OPEN」で2位となり表彰台を獲得し、10代で名門「STANDARD FILMS」の撮影に単身飛び込んだ。英語を話せなくとも、ライディングで周囲を黙らせた。
トリノ、バンクーバーと2度のオリンピック出場を果たし、惜しくもメダルは逃したが、2011、12年とUS OPENを2連覇。さらにBURTONの映像作品『STANDING SIDEWAYS』や、UNION BINDING COMPANY(ユニオンバインディングカンパニー)からリリースされた『STRONGER.』といった今なお語り継がれる伝説のパートを残すなど、コンテストとフィルミングの両面で世界を震わせた唯一無二の存在だ。

Burton US Open / Stratton Mountain, Vermont, USA, 2004
ブロットが彼を表す言葉は“ATTACK”。
Hemsedal, Norway, 2006
「カズは常に攻めていたよ。ハーフパイプのコンテストで名を馳せ、自然地形でのフィルミングへと移行し、その才能をバックカントリーでも開花させた。アラスカで撮影した翌週に、巨大パークでブッ飛ぶ姿を目の当たりにして、彼が常に攻めながら成長していく過程を間近で見られたことは、とても光栄なこと。今も挑戦し続ける姿勢に刺激を受けているよ」

Mammoth Mountain, California, USA, 2011
2008年、アラスカ・ヘインズでのセッションは特に印象に残っていると、ブロットは語る。完璧な雪と安定した天候に恵まれた数少ない理想的な条件下で、カズは同じくコンテストとフィルミングを両立させていたフレデリック・カルバーマッテンとともに巨大なジャンプを築き、技術と胆力、そして精神力をぶつけ合った。
「キッカーを作る際、周囲の雪面が写真全体の美しさに関わるので、足跡を最小限に抑えながら作業したんだ。5時間かけて準備し、翌日にシューティング。結果、カズは4方向すべてで900を成功させたよ。フレデリックも素晴らしいトリックを決めたんだ。チーム全員の努力の結晶であり、今も自分のベストセッションのひとつだね。あのときのカズは、すでに世界の頂点と対等だった。攻撃的で、妥協がなく、そして何よりも本能的に雪山と対話していた」
Haines, Alaska, USA, 2008
カズは、ただ勝つためにコンテストに出ていたわけではない。ライディングでしか表現できない世界観を貫き、そのすべてをATTACKで体現してきた。やがて彼は、世界頂点のライダーである証、もっとも権威あるライダー授賞式「RIDERS’ POLL」で最優秀ライダー賞を受賞することになる。
平野歩夢──“SMOOTH”なスタイルで頂点へ

Snow Park, New Zealand, 2012
14歳で「X GAMES」の銀メダルを獲得し、史上最年少の快挙で世界を驚かせたアユム。15歳で初出場したソチ五輪では銀メダル。平昌五輪でも再び銀を手にし、そして北京でついに悲願の金メダルを掴んだ。ハーフパイプという極限の舞台で、世界中の期待を背負いながら結果を出し続けた存在は、スノーボードの歴史の中でも稀有だ。

Vail, Colorado, USA, 2013
ブロットが彼を表す言葉は“SMOOTH”。
The Snow League / Aspen, Colorado, USA, 2025
「アユムのライディングには流れるような滑らかさがある。技術の高さを意識させず、自然の延長線上に存在するかのように見える。そこに彼の特別さがあるんだ」
Laax Open / Laax, Switzerland, 2025
2018年、BURTONの創設者ジェイク・バートン夫妻がオリンピックに出場したライダーたちを招いた、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のマイクウィグリー(ヘリオペレーション会社)でのセッション。そこに歩夢も参加していた。仲間たちとただライディングを楽しみ、笑い合いながら滑る姿に、ブロットは強く惹かれたという。
「彼は競技者でありながら、山にいるときはただの少年のように楽しんでいた。そのギャップがアユムの魅力だね」

Mike Wiegele Heli-Skiing Resort, B.C., Canada, 2018
アユムは誰よりもシビアな道を歩んできた。仲間が次々とバックカントリーに活動の場を広げるなか、彼だけはコンテストに専念し続けている。それは苦難の道だが、世界最高峰の舞台で“SMOOTH”を体現するための必然でもあった。
The Snow League / Aspen, Colorado, USA, 2025
写真家としての眼差しと、サングラスに宿る美学
3人の共通点は、ただ強かったり、上手かったりしただけではない。タダシは“FUN”な気持ちで世界の扉を開き、カズは“ATTACK”で世界との境界を突破し、アユムは“SMOOTH”なスタイルで世界一のハーフパイプライダーになった。そして彼らを記録し続けたブロットの眼差しが、その軌跡を色あせない作品として昇華させる。
「一度しか訪れない瞬間を逃さないこと。そのために僕は常に準備を怠らない。アパーチャー(絞り)、シャッタースピード、ISO感度……すべてを何度も確認する。そこからやっと“アート”が生まれる可能性が出てくるんだ」
この「妥協なき姿勢」は、今回のDANG SHADES × Blotto × BACKSIDEコラボレーションのサングラスにも宿っている。ブロットの美学を反映したシンプルでクリーンなデザイン。そのサイドには彼のサインが刻まれ、写真家としての哲学が日常に落とし込まれている。

ディーン“ブロット”グレー
「自分の名前が刻まれたサングラスを誰かが身につけてくれるのは、本当に光栄だよ。僕の写真に触れたときと同じように、プロダクトを通じてもインスピレーションを感じてもらえたらうれしい」
最後にブロットはこう語る。
「僕は情熱のままに雪の世界へ飛び込み、カメラを通してその魅力を伝えてきた。タダシ、カズ、アユムという3人は、その旅の中で出会った特別な存在だ。彼らとともに残した作品が、未来のスノーボーダーにとってのインスピレーションになってくれることを願っているよ」
10年にひとり現れる逸材たち。その瞬間を切り取る写真家。そして、その先に続いていくスノーボードカルチャー。すべてはつながり、未来を描いていく。
DANG SHADES × Blotto × BACKSIDE トリプルネーム限定サングラス
ブロットの美学を反映したシンプルでクリーンなデザイン。アジアンフィットで日本人に最適なフィット感を実現。偏光レンズ搭載で、雪上でもクリアな視界を約束する。



▷フレームモデル: LOCO
▷フレームカラー: ブラック・ソフト
▷レンズカラー: ブラック(偏光レンズ)
▷UVカット率: 99.9%
▷可視光線透過率: 15%
▷価格: 5,500円(オリジナルネオプレン製ケース + マガジン付属)
※DANG SHADESでは有償での修理対応(詳細はこちら)を行っておりますが、今般のコラボサングラスは限定生産のため、スペアパーツがございません。通常モデルのフレームパーツでの交換対応は可能ですが、同フレームでの修理交換はできません
https://dangshades.jp
特別付録──今シーズン読みたい2冊のマガジン
このコラボサングラスには、特別な付録が付いてくる。以下、BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINEのバックナンバー2冊のうち、お好きな1冊を選べるのだ。
ひとつは、ブロットの写真がもっとも多く誌面を飾るISSUE 8「THE GRAB ──自分らしく、カッコよく──」。オリンピックイヤーだけに、今シーズンは高回転スピンがより主流となるだろう。そんな時代にあっても変わることのない、フリースタイルスノーボーディングの本質である“グラブ”を徹底的に掘り下げた一冊だ。
そしてもうひとつが、ISSUE 11「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」。全国津々浦々の雪山の特徴や、その地で育まれるカルチャーについて掘り下げた一冊である。今シーズンは降雪に恵まれる予報が出ており、まさにこの時期に読みたい内容が詰まっている。ニセコ、白馬、妙高、北信……日本が誇る豪雪地帯の魅力を再発見し、世界中のスノーボーダーが憧れる“JAPOW”の本質を知ることができる。
紙媒体の手触り感を忘れずにいてほしい。そして、まだ知らない世代にも届けたい──そのような想いを込めて、これまでとは逆転の発想をした。サングラスをご購入いただくと、弊誌が無料で付いてくる。

BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 8「THE GRAB ──自分らしく、カッコよく──」(画像左)
(1,500円→無料! / A4サイズ / フルカラー / 日本語・英語 / 144ページ)
BACKSIDE SNOWBOARDING MAGAZINE ISSUE 11「JAPOW PRIDE ──ニッポンの雪と山と文化を知る──」(画像右)
(1,800円→無料! / A4サイズ / フルカラー / 日本語・英語 / 150ページ)
コラボサングラス + ISSUE 8「THE GRAB」 | ご購入はこちらから
コラボサングラス + ISSUE 11「JAPOW PRIDE」 | ご購入はこちらから
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Blotto




