BACKSIDE (バックサイド)

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SPECIAL

NZの山で培った滑走力を武器に五輪切符をつかんだ超新星! 涌嶋弓流【CUTE GIRLS Vol.7】

2022.01.26

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“Cute”と聞いてかわいらしさを連想するのは間違いないが、本企画のそれは色に例えるならピンクではなく濃いレッド。“New Cute”という価値観をガールズシーンに提唱する。
 
女性ライダーたちの血が滲むような努力の末に発展したトリックたちは、ハーフパイプでは1080、ビッグエアでは1260が繰り出されるまでに至った。リスクを顧みることなく己の限界と格闘し続けている「CUTE GIRLS」たちのリアルな姿を本連載では紐解いていく。
 
Vol.7では、ニュージーランド(以下NZ)国籍を持ち、ナショナルチームに入りわずか1年で北京五輪代表に内定した期待の19歳、涌嶋弓流(くうる)にインタビュー取材を行った。そこに見えたのは、幼少期からとにかく自由自在にNZの山を滑り培ったという、高い滑走力だった。

ワールドカップに集中することで突然見えてきた北京五輪

ワールドカップに集中することで突然見えてきた北京五輪

スノーボードを始めたキッカケを教えてください。
 

幼い頃からスノーボードが大好きな両親に連れられて、家族で日本のゲレンデを滑っていたみたいです。NZに移住してからは、自宅と山との距離が近くなり行く機会が増えましたね。私の記憶だと、気づいたらNZの雪山でスノーボードを履いていました(笑)
 

──どのようにのめり込んでいき、選手として世界を目指そうと意識するようになりましたか?
 

16歳のときにNZで開催されたジュニアの世界選手権大会に出場する機会があって、それが初めて経験した大きな大会でした。ずっとファミリーで土日に滑っているようなスノーボードライフを送っていて、兄と一緒に草大会などに出たことはあったのですが、大きな舞台に立ったことで「大会が楽しい、また出たい!」という気持ちが強くなり、 “選手としてやっていきたい” というスイッチがオンになりました。
 

──2021年からNZのスロープスタイル&ビッグエアのナショナルチームに入り、国際大会を転戦。さらには北京五輪(NZ)代表内定も決まりました。わずか1年という期間で、オリンピックに向けてどんな意識をもって準備してきましたか?
 

(NZの)ナショナルチームに入ってワールドカップ(以下W杯)に出場できることは、自分が世界でどれくらい通用するのかをテストしているように感じられて楽しいです。北京五輪に関してはW杯をまわっている途中から、突然視野に入ってきたので驚きもありました。目指していたというよりは、大会に集中し、リザルトを残せるように努力していたら、その先に北京五輪があったという感じですね。私はナショナルチームに入るのが遅かったこともあり、食事のことやメンタルトレーニングなど初めて習うことも多いけど、憧れのゾーイ(サドウスキー・シノット)たちと一緒に大好きな大会に出られて、世界を旅できる今の環境はとても充実しています。
 

──先日開催されたLAAX OPENでの滑りも印象的でした。どんなライディングをしようと考えていましたか?
 

興味深いアイテムがたくさんあって、ふたつのジャンプでは新しいトリックにトライしたいと思っていました。レールはきれいに最後まで乗り切ることを意識して、全体の流れとしては観てくれている人たちに楽しんでもらえる滑りをすることを一番に考えていました。すごく自分らしく滑ることができたので楽しかったです。

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高い滑走力で力強く宙を舞いながら確実にランディングをとらえにいく
location: Cardrona Alpine Resort, New Zealand
photo: ROXY

 


シーンに名を残すことがスノーボード人生での大きな目標

シーンに名を残すことがスノーボード人生での大きな目標

──コロナ禍の前は毎年日本で滑ることが生活のルーティンだったと聞いています。NZと日本の環境で違いを感じていることはありますか?
 
コロナの影響で日本へは2年くらい行けていないですが、NZの夏休みを利用して、毎年ファミリーで(新潟)湯沢に滞在して滑っていました。もちろん山がメインですが、一度だけ東北クエストに行って、初めて雪のない環境での練習も体験しました。NZにはエアマットはあるけど、雪がない状態では練習できません。一年中練習ができる日本の環境は、新しい技の習得にいいなと思いました。でもまぁ……、雪の上で成功しなければ意味がないので、新しい技を完成させるのにちょっと時間はかかってしまうけど、ランディングでしっかり立つために私はNZの山を滑りまくっています(笑)
 
──滑りまくっているというNZでは、どんなスノーボードをしていますか?
 
ナショナルチームに入るまではカードローナをベースにして、とにかく自由に滑り込んでいました。NZのゲレンデって木がなくて風が強いことも多く、天候に左右されやすいんです。コンディションが難しいことも多いですが、どんな天候でもパークのジャンプとレールのコンディションはバッチリなので、アイテムを流して遊ぶことも多いです。国際大会に出たり、大きなキッカーにトライし始めたのは年齢的にはちょっと遅かったけど、それまで難しいコンディションの山を滑りまくって、滑走力を磨いてきたことは、今の自分のライディングにすごく活きていると感じています。
 
──滑りやスタイルへのこだわりは?
 
滑りに関しては、同じNZのチームメイトのゾーイやティアーン(コリンズ)にプッシュされています。スタイルはもちろんですが、ただランディングするのではなく、自ら着地しにいくような滑りが大好きで、私も取り入れたいって思っています。スノーボードやスケートボードのストリートムービーを観ることが大好きなので、映像からインスピレーションを得て、自分のスタイルに落とし込むことも多いです。常に自分のスタイルをもっていたいので、レールでは意識して足を曲げたり、着地は力を入れてランディングをするといった、ちょっとした変化を大切にしています。
 
──最後にオリンピックでの目標と今後の展望について教えてください。
 
北京五輪ではファイナルに残ってたくさんの人たちに滑りを見てもらいたいです。ポディウム(表彰台)に立つことももちろん目標としてはありますが、LAAX OPENで初めてトライしたフロントサイド・ダブルコーク1080をオリンピックできれいに着地して、PB(パーソナルベスト) のランをしたいと思っています。オリンピック後は、自分のライディングにさらにフォーカスして、次のミラノ五輪までの4年間でレベルを上げてポディウムに立ちたいです。大会でも映像でも自分の滑りやスタイルを見てもらってシーンに名を残すことが、私のスノーボード人生での大きな目標ですね。

 
涌嶋弓流(わくしま・くうる)
生年月日: 2002年5月10日
出身地: 埼玉県蕨市
スポンサー: ROXY、ほか
 

text: Rie Watanabe
photos: ROXY

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