BACKSIDE (バックサイド)

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SPECIAL

日本の女子スロープ&ビッグエアを牽引した藤森由香が語る【CUTE GIRLS Vol.5】

2022.01.13

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“Cute”と聞いてかわいらしさを連想するのは間違いないが、本企画のそれは色に例えるならピンクではなく濃いレッド。“New Cute”という価値観をガールズシーンに提唱する。
 
女性ライダーたちの血が滲むような努力の末に発展したトリックたちは、ハーフパイプでは1080、ビッグエアでは1260が繰り出されるまでに至った。リスクを顧みることなく己の限界と格闘し続けている「CUTE GIRLS」たちのリアルな姿を本連載では紐解いていく。
 
Vol.5では、2018年の平昌五輪に向けてスノーボードクロスから競技転向し、持ち前のフリースタイルセンスとクロスで鍛え上げられた滑走力を武器にスロープスタイル&ビッグエアで日本チームを牽引した藤森由香にインタビューを行った。

加速度的に高まっていくフリースタイルのレベルに異なる競技からの挑戦

加速度的に高まっていくフリースタイルのレベルに異なる競技からの挑戦

──2014年のソチ五輪からスロープスタイルがオリンピックの正式種目となり、2018年の平昌五輪からビッグエアが同様に正式種目となりました。ソチ五輪まではスノーボードクロスに集中していて、その後に競技転向をするわけですが、どのようにフリースタイルシーンを見ていましたか?
 

バンクーバー五輪を終えると4年後のソチ五輪からスロープスタイルがオリンピック種目になるという話を聞いて、クロスとスロープの2種目に挑戦したいと考えるようになりました。この頃からX GAMESやBURTON US OPENなどのプロ大会もチェックしていて、2011年のX GAMESスロープスタイルではシリエ・ノレンダルがフロントサイド・ロデオ720を繰り出したんです。すごいな!と感じたことを覚えています。
 

しかし、スロープに挑戦するアクションを起こすことができずにソチ五輪を迎えると、トラ・ブライトが3種目(ハーフパイプ、スロープスタイル、スノーボードクロス)に出場していたんです。彼女からかなりの刺激を受けました。そして、平昌五輪ではクロスとフリースタイルの両方に挑戦したいと思いナショナルチームのコーチに相談したんですが、それが許されることはありませんでした。なので、クロスを諦めてスロープとビッグエアに腹をくくって転向したんです。シェリル・マースがキャブ・ダブルアンダーフリップ900をバックカントリーで決めたり(2012年)、(鬼塚)雅がキャブ900をパークで成功(2013年)させたりしていましたが、私が競技転向をした2014年の時点では、いかに720をクリーンに成功させることが女子の競技シーンではカギを握っていました。
 

2018年の平昌五輪からビッグエアがオリンピック種目になるとアナウンスされ、ジャンプのレベルが上がっていきました。ケイティ・オームロッドが世界で初めてバックサイド・ダブルコーク1080に成功(2015年)したんです。ビッグエアに関しては女子の種目として存在しなかったので、当時はどのように進化していくのか想像することができていませんでしたね。

YukaFujimori

現在はフィールドをバックカントリーに移して、競技で培った技術を活かしてフリースタイルに雪山を駆け抜けている
location: Asahidake, Hokkaido

 

──28歳のときに競技を転向したわけですが、苦労したことや努力したことがあれば教えてください。
 
クロスでの滑りのクセが抜けなくて苦労しました。クロスの場合は鋭いカービングターンで入っていきますが、そうした動きがフリースタイル競技にはありません。ジャンプでスピンをするときはカービングターンの延長線上にありますけど、そのターンをクロスのように強いエッジングではなく、薄っすらと浅くエッジングしながら行う動きが難しくて苦戦しました。
 
また、スイッチのスピンをあまりやったことがなかったので覚えるのに時間がかかったり、ハイスピードでジブアイテムに入ることが最初は全然できなくて、そうした部分の恐怖心と戦っていました。さらに、このように山積した課題のどこから手をつけていけばいいのかがわからなかった。若い時分は先のことを考えすぎずに、目の前のことに集中できる強さみたいなものを多くの人が持っていると思うんですけど、そうした攻めの姿勢で取り組むことができなかったので、どこかでもどかしさを感じていました。


藤森由香が解説する北京五輪スロープスタイル&ビッグエアの展望

藤森由香が解説する北京五輪スロープスタイル&ビッグエアの展望

──ジャンプ施設が充実している日本はビッグエアを得意とするライダーが多いですが、スロープスタイルは世界との差があるように感じます。
 
昨シーズンのW杯スロープスタイル最終戦で(岩渕)麗楽と(村瀬)心椛がワンツーフィニッシュを飾ったときの滑りを見て、これなら北京五輪の表彰台もいけると感じました。ジブトリックの精度が上がっていて、それらの難易度も高かったですよ。しかし、麗楽も心椛も体重が軽い。北京五輪の会場は風が強いと聞いているので、強風で順延となってしまった平昌五輪のスロープスタイルのようになった場合、どういった技を出せるかが課題になると思います。
 
──ビッグエアについてはどのように見ていますか?
 
今シーズンのW杯は初戦で心椛が、2戦目で麗楽が優勝しました。世界大会で優勝するためには1260が必要になります。それを決めたうえで、もうひとつの大技を出せるかどうかが明暗を分けると思いますが、麗楽も心椛もまだ100%の仕上がりには至っていません。そこをどう伸ばせるかが重要ですね。心椛を例に出すと、バックサイド・ダブルコーク1260とフロントサイド900では勝てなくなってきている。北京五輪までにバックサイド・ダブルコーク1260以外の大技をいかに修得できるかがキーポイントとなります。
 
──藤森さんと言えば平昌五輪ビッグエアで繰り出したバックサイド900など、ライディングスタイルに対して強いこだわりがあると思います。技の高難度化といわゆるスタイル(トリックの形)の相関関係についてどのように捉えていますか?
 
グラブする位置やポークなど、あえてその動きをやっているかどうかが重要ですよね。そこにボードがあったからつかんだ、という単調な動きは見ていてわかります。心椛の滑りはとてもスタイリッシュ。スノーボードのカッコよさを常に研究していて、普段からこだわりが感じられます。
 
アンナ(ガッサー)はバックサイド・ダブルコーク1080のときにつかみやすいウェドルグラブではなくて、メロングラブをします。バックサイドスピン時にこのグラブが珍しいことと、彼女のスピンには合っていると言っていましたが、スタイルには強いこだわりを持っていますね。スタイルと言ったらヘイリー(ラングランド)に勝る選手はいません。とにかくカッコいい滑りをします。あと、アニカ(モーガン)のバックサイド720のメロングラブもカッコいいですね。

YukaFujimori_HikeUp

バックカントリーで撮影活動を行う傍らで、競技の解説者としても活躍している
location: Somewhere in Hokkaido

 

──競技から引退された平昌五輪からの4年で、競技シーンはどのように変化したと感じていますか?

スロープスタイルはコースの難易度が上がったことと、それに伴ってスピントリックのレベルが一気に上がりました。アンナはキャブ・ダブルアンダーフリップ900とバックサイド・ダブルコーク1080のふたつの大技を組み込みますし、ジェイミー(アンダーソン)もキャブ・ダブルアンダーフリップ900などの大技を操ります。ゾーイ(サドウスキー・シノット)はバックサイド900とスイッチ・バックサイド900をルーティンに入れてくることから、かなり高難度な技を出すことができないと勝てません。レールでも270オン270オフをさらっとやってくるライダーが増えてきていて、この4年で格段にレベルが上ったと感じています。

ビッグエアに関しては、予選を通過するための技の難易度が上がっているように感じています。720しか持ち技がないとしたら、かなりスタイリッシュに繰り出さないと(決勝には)残れない。予選から900や1080が飛び出す状況は、選手たちのメンタルにもかなり大きな影響が出ると思います。世界トップレベルの回転数を操る実力者である雅がW杯の2戦とも予選落ちしてしまったのは、そうした要因もあるのかもしれません。とにかく厳しくなってきていると感じます。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: KentaRAWmatsuda

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