
SPECIAL
無限に表現できるスノーボードに乗ってたどり着いた世界【CUTE GIRLS Vol.11 最終回】
2022.03.11
女性ライダーたちの血が滲むような努力の末に発展したトリックたちは、ハーフパイプでは1080、ビッグエアでは1260が繰り出されるまでに至った。リスクを顧みることなく己の限界と格闘し続けている「CUTE GIRLS」たちのリアルな姿を本連載では紐解いていく。
最終回となるVol.11は、競技の先に広がるフリーライディングの世界や、新時代を迎えているスノーボードの動画配信、女性がライフワークとして楽しめる横乗り文化について掘り下げるため、それぞれのシーンの第一線で活躍する佐藤亜耶、星野文香、降旗由紀の3名にコメントを寄せてもらった。彼女たちの言葉から、スノーボードのさらなる魅力や可能性を感じてもらいたい。
滑りですべてを表現する素晴らしさ
滑りですべてを表現する素晴らしさ
トラ・ブライトとクロエ・キムが立ち向かうジェンダーの壁や人種差別についての記事を皮切りに、幅広く女性のスノーボードシーンにフォーカスしてきた「CUTE GIRLS」。今シーズンは北京五輪での日本人選手の活躍もあり、スノーボードが大きな注目を浴びるシーズンとなったが、本連載の最終回は競技の先に広がるスノーボードの世界について触れたい。
フリーライディングのシーンでは、2013年にアラスカで開催された「FLOW WORLD FREERIDE CHAMPIONSHIPS」で中村陽子が優勝したことで、日本が世界中から注目されるキッカケとなった。彼女は現在も変わることなく、豊富な経験と知識、高い技術を兼ね備え、作品を残し続けている。
競技者としてオリンピック4大会を経て、バックカントリーフリースタイルのシーンで活躍する藤森由香。惜しくも出場とはならなかったが、地球最強スノーボーダー決定戦と名高い「NATURAL SELECTION TOUR」に日本人として唯一ノミネートされたのは素晴らしい功績だ。
そして、確実に成長を続けている佐藤亜耶。彼女の特筆すべき点は、洗練されたライディングだけでなく、フリーライドシーンでもコンペティターとして常に挑戦し、高い実力を証明し続けていることだ。
彼女たちがコンペティターとして培ってきた技術や経験、メンタルは、競技生活を終えてもなお、フリーライディングの世界を通して輝きを放っている。そのうえで作品が完成するまで血の滲むような努力を絶やさない。それは、過去の作品を観ていただければ伝わるはずだ。

自分自身を表現するために指先まで魂を込めたステイルフィッシュで宙を舞う
rider: Aya Sato
photo: Keiji Tajima
「昨今の女性ライダーの活躍はコンペシーンや女性にとってだけでなく、すべてのスノーボードシーンが前進することにおいて大きな役割を果たしていると感じます。海外では男女間の賞金の格差がなくなってきていることや、プロとして性別にかかわらず評価されているライダーたちの姿には、私もたくさんの勇気をもらっています。
私が現在熱中しているフリーライドの世界では、技や競技の枠を越え、自分の思いどおりのラインを大自然の中に描けることに、大きな魅力があると感じています。これまでのスノーボーディングを通して培ってきたものも含め、自分のすべてを滑りで表現できる、表現していいということの素晴らしさを教えてくれました。
この先、私たちが伝えることができるスノーボードの素晴らしさ、女性たちのパフォーマンスの素晴らしさはまだまだたくさんあると思っています。そして、私たちは今までもこれからもずっとここにいます。あとは、みんなでそれに気づき、視線を向け、知り、さらに楽しんでもらうだけです。そのために私はパワフルな活動を止めることなく突き進んでいきます!」──佐藤亜耶
セルフプロデュースで唯一無二の表現をする
セルフプロデュースで唯一無二の表現をする
雪山や海へトリップして、スノーボードやサーフィンを楽しんでいるようなライフスタイルを題材としたYouTubeのコンテンツそのものが、アクティブな女性たちを刺激している。TikTokやInstagramのストーリーズ、リール機能を使った15秒の短い動画では、マネをしたくなるようなおしゃれトリックや美しい雪山を臨みながらのゲレンデクルージングが人気だ。
たとえパウダーに埋もれたり派手に転んでいる動画だったとしても、雪山が舞台のスノーボードはそのすべてが観ている人たちにとって非日常の世界に映るのだろう。だからこそ広がりを見せている。スノーボードは動画コンテンツと非常に相性がいいといえる。
そんなスノーボード動画のシーンで活躍するライダーが、星野文香だ。プロダクションごとにファンがつき、試写会はいつだって超満員だったスノーボードムービー全盛期を過ごしてきたひとりでもある。
ガールズムービーの先駆けは、上田ユキエが立ち上げた「LiL」だろう。その後は「BRIGHTA」「CANDY」「TOMBOY」といった映像プロダクションが続いた。そんな動画の世界に魅了され、誰よりも早くYouTubeでスノーボード動画の配信を開始した文香は、コツコツと努力を重ね、自身のチャンネルの登録者数は現在3万人を超えており、YouTuberとしての仕事も多い。
さらにSNSを駆使し、一般スノーボーダーたちとの距離のとり方が非常に上手く、ライブ配信や個人で発信するコンテンツの多さは抜きん出ている。彼女が築き上げたつながりは、シーズンを重ねるごとに大きくなっていく。

パウダーライディングの気持ちよさに思わず口元が緩む
rider: Fumika Hoshino
「一人ひとりがプロデューサーであり表現者である“SNS時代”と言われる今、セルフプロデュースで唯一無二の表現をすることが大切なように思います。昔よりはるかにスノーボードの魅力を手軽に多くの人へアプローチできるようになり、今シーズンに関してはオリンピック効果も絶大で、ゲレンデやSNSを見ても盛り上がりを猛烈に感じています。
私はSNSとYouTubeでスノーボードやライフスタイル、動物愛護などについて発信していますが、それ自体がライフスタイルの一部になるほど身近なもので、趣味でもあり仕事でもあるので大切にしています。そのいっぽうで、SNSでは手の届かないようなプロスノーボーダーたちをいつでも見ることができ、身近に感じすぎてしまうことが、いいことでもあり悪い面もあるような気がしています。
これからは今やっている発信と表現がもっと評価され、価値を生み、ウィンタースポーツ業界にかぎらず大きな社会貢献と世界平和に少しでもリンクさせていきたいです」──星野文香
3Sの垣根を越えて融合する横乗りカルチャー
3Sの垣根を越えて融合する横乗りカルチャー
東京から北京へと続いたオリンピックでの日本人ライダーたちの飛躍により、“横乗り文化” が注目された。北京五輪ビッグエアで岩渕麗楽がトリプルアンダーフリップにトライした直後、その勇気とスキルを称えるために駆け寄ってきた多くのライダーたちに囲まれている瞬間、東京五輪スケートボード・パークで岡本碧優選手が最後まで攻め続けた姿勢にライダーたちから称賛されていたときの感動を思い出した。
スノーボードやスケートボード、サーフィンという競技の特性だけで判断すると、若者のスポーツであり高難度トリックばかりが目に入ってくるかもしれない。しかし本来は、年齢を問わずトライできる遊びであり、ファミリーで一緒に楽しむことができるのも横乗りの魅力だ。
最近は、サーフィンをするかのように雪上で滑るスノーサーフィンや、サーフィンやスノーボードのターンをするような感覚でスケートボードが楽しめるサーフスケートをライフスタイルに取り入れている女性も多く、年齢を重ねても横乗りを融合させて遊んでいる。高難度なトリックはなくとも、どれもターンやラインを追求する楽しさに溢れており、奥が深い。
今も昔もフィールドは変わらないが、遊び方の選択肢やギアが進化したことで、子供から大人までファミリーでも気軽に楽しめるようになった横乗りライフ。そうしたファミリーたちと常にコミュニケーションをとりながら、自身もスノーボード、スケートボード、サーフィンにどっぷり浸かったライフスタイルを送っているのが、ショップ「VOLCOM SENDAI」を切り盛りする降旗由紀だ。彼女が実際に肌で感じている横乗りカルチャーについて語ってくれた。

サーフ&スケートが融合したライディングから放たれる美スプレー
rider: Yuki Furihata
photo: SEI
「ひと昔前は、スノーボーダーやスケーター、サーファーとそれぞれにカルチャーがあり、壁を作っていた時代もありましたが、今はそれぞれのカルチャーが融合し、お互いを尊敬していると感じています。
子供と大人が一緒のフィールドで遊べる時代になり、同じ大会に出て、親子で高め合うこともできます。私のまわりにいる横乗りを楽しんでいるファミリーには、昔みたいな反抗期なんて存在していないし、横乗りをライフスタイルに取り入れることで、家族がいつも仲良くいられる傾向があるように思います。
季節に合わせて遊べるのが横乗りカルチャーの魅力であり、自然と向き合うことで日々のネガティブな感情はすべて流され、“大自然の偉大さに比べたら自分の力なんてちっぽけなもの”なんて思い知らされます。私は、仕事もプライベートもどっぷり横乗りに浸かっているライフスタイルがあるからこそ、毎日が最高に楽しく、一年中元気でいられます!」──降旗由紀
text: Rie Watanabe
photos: ROXY
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