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スノーサーフィンの世界に魅了されたプロサーファー・間屋口香のライフスタイル【CUTE GIRLS Vol.10】
2022.03.03
女性ライダーたちの血が滲むような努力の末に発展したトリックたちは、ハーフパイプでは1080、ビッグエアでは1260が繰り出されるまでに至った。リスクを顧みることなく己の限界と格闘し続けている「CUTE GIRLS」たちのリアルな姿を本連載では紐解いていく。
Vol.10では、プロサーファーとして活動しながら、北海道・ニセコを拠点としたスノーボードライフを送る間屋口香にインタビュー取材を行った。そこには、季節や天候がもたらすコンディションに合わせて遊ぶという彼女のライフスタイルを彩る、スノーサーフィンの世界が広がっていた。
ライフスタイルが大きく変わるきっかけとなったスノーサーフィンとの出会い
──プロサーファーとして活動しながらも、スノーボードの滑走日数がとても多いと思います。どのようなライフスタイルを送っているのでしょうか?
海部(徳島)というサーフポイントをベースに活動をしていたので、今も徳島県に家はあるのですが、ここ2年半は年間を通してニセコ (北海道) に住んでいるんです。夏は波のある場所を転々としながらサーフィンをして、12月から4月頃までは雪山を滑っています。スノーシーズン中でも波のある日は、北海道の海でサーフィンをしていますね。今はコロナ禍でニセコが空いているのでゆったりと雪山を堪能できていますが、違うエリアにも足を延ばそうと考えています。
──10代の頃はハワイで過ごし、その後も国内外の海をベースに長年活動してきたと思いますが、スノーボードを始めたきっかけを教えてください。
スノーボードとの出会いは7年ほど前、30歳を過ぎてからでした。サーフィン仲間と一緒にグランデコ(福島)に行ったのですが、温泉がメインでゲレンデはおまけという感じだったので、初めてのスノーボードは全身レンタル(笑)。 その後はシーズン中に4、5回行く程度だったんですが、4年ほど前に初めて北海道でスノーボードをしてから、どっぷりハマってしまいました。
──どっぷりハマってしまうきっかけとなった初めての北海道では、どんなスノーボードを楽しみましたか?
北海道のゲレンデもパウダーも初めてだったんですが、ニセコにあるバックカントリーガイド「POWDER COMPANY」の方たちと出会い、一緒に滑ることになりました。みなさんサーフィンもスノーボードもやっている方たちで、サーファーのラインで滑ってくれたんです。それを見たとき今まで私のなかにあった、飛んだり・跳ねたりするアクロバティックなスノーボードのイメージが一変したんです。「これでいいんだ!」って何かが吹っ切れて、どんどん魅了されていきましたね。
──自分がいちばん楽しめるライディングスタイルと出会えたんですね!
そうなんです。最初は全然滑れなかったし、もちろん今でも全然滑れていないと思うけど、サーフィンとスノーボードのラインどりがリンクする瞬間は、すごく面白いですね。ギア選びに関しても、「この板だから、こんな風に滑らないといけない」と少し頭でっかちになっていたんですが、愛用させてもらっているGENTEMSTICK(ゲンテンスティック)の代表である玉井太朗さんから、「サーフィンと一緒で波が大きかったら大きめのボードを選んだり、ツインフィンでファンに遊びたいときは、そういうボードを選べばいい」というアドバイスをいただき、それが私にはすごくわかりやすくて、さらに気軽に楽しめるようになりました。
──スノーボードの滑りがサーフィンに活かされると感じることはありますか?
地形を波に見立てた反復練習はできると思います。「さっきはここがダメだったから次はこうしよう」ということが、波乗りでは難しいですからね。それと、私がすごくサーフィンにつながると思っているのが「細かいスタイルの修正」なんです。腕でリードすることを意識的にやるようにしていて、撮影してもらったビデオを見ながら修正できるので、よりストイックに滑りと向き合えます。海だと2時間入っても4、5本乗れるかどうかで、その1本も10秒とか……。それに比べて雪山は1本で3kmぐらいを繰り返し滑り下りてこれるので練習になるし、自分のなかでサーフィンの乗り方がいい方向に変わってきたと感じています。
雪がよければ雪山、波が上がればサーフィン。自然に身を任せる生き方
──ニセコではどんな毎日を過ごしていますか?
ニセコ全山のシーズン券を購入しているので、ほぼ毎日、空いていてコンディションがよさそうなゲレンデで滑っていますね。その日のコンディションによって楽しめる、ベストなことをやっているつもりです。朝から滑って午前中にあがり友人とランチをして、午後もよさそうな日はもう一度山に上がることもあるし、そのまま温泉へ行ったり、自宅に戻って仕事をする日もあります。
──海ばかりだった生活から雪山での活動が増え、変化したことや違いを感じることはありますか?
海での経験は豊富なので危険なことやルールはわかっているつもりですが、雪山の知識はまだ全然足りないので、とても謙虚な気持ちになります。自分ひとりでは死んでしまうという恐怖はいつもあって、人に頼るということも覚えましたし、南国の暮らしとは違った生活の厳しさや楽しさも知ることができました。滑りという部分では地形を読むことがとても難しくて、山自体は同じなのに(雪の)降り方や風向きによって雪のつき方が違うので、面ツルのきれいなパウダーなら滑れるけどコンディションが変わると対応ができません。そこにずっと苦戦していますね。
──スノーボードで感動した瞬間があれば教えてください。
私がもっとも達成感を感じられるのは、バックカントリーでのライディングなんです。自分の力で山を登り、滑りきって無事に下山するのって、なんだかサーフィンのアウターリーフに行くときの感じと似ていて、上手く滑れなかったとしても「無事に帰れた!」という感動があります。標高が上がるにつれて見える樹氷の景色も、暖かい場所ばかりにいた私にとってはすごく感動的なものです。
──スノーボードとサーフィンのどちらも楽しめる現在の生活の魅力はずばり、どんなところですか?
季節を感じながら流れるように遊べる、ということですね。冬はスノーボード、夏はサーフィンというこだわりは特になくて、「雪がいいときは雪山、波がよければ海」という感じで、自分がいちばんやりたいことができている今の環境はありがたいです。
──最後に現在のライフスタイルを通して、発信していきたいことや挑戦したいことを教えてください。
私は30歳を過ぎてからスノーボードと出会い、「スノーボードは若い世代の遊び」というイメージが変わりました。サーフィンは私自身のライフワークでもあり、何歳になっても楽しめるスポーツですが、スノーボードもそういう遊びだと気づきました。それがわかったから、「スノーボードも波乗りも、何歳になってからでもトライできる」ということは伝えていきたいと考えています。来シーズンはニセコを離れて、あまり拠点を作らず過ごしてみようと思っているので、北海道の富良野や旭川の山にも行きたいし、いつかは海外の山も見てみたいです。特にカナダは行ったこともないし波乗りもできるので、すごく興味がありますね。
間屋口 香(まやぐち・かおり)
出身地: 京都府舞鶴市
スポンサー: ROXY、ほか
text: Rie Watanabe
photos: Osamu Usami