BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

競技を引退したスノーボーダーは、どこへ向かうのか。木俣椋真の決断が投げかけた問い

2026.07.16

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ミラノ・コルティナ五輪男子ビッグエア銀メダリストの木俣椋真が、スノーボード競技を離れ、ボートレースに挑戦することを自身のInstagramで発表した。
 
驚きの転身であることは間違いない。五輪メダリストが雪上を離れ、まったく異なる競技へ向かう。その事実だけを切り取れば、大きなニュースとして広がるのは当然だろう。
 
だが、スノーボード専門メディアとして注目すべきは、転身先の意外性だけではない。むしろ重要なのは、その決断に添えられた本人の言葉だ。
 
「この決断は決してスノーボードへの思いが薄れたからではなく、スノーボーダーが競技引退後に進む新たな道を自ら切り拓きたいと考えたからです」
 
この一文には、競技化が加速した現代のスノーボードが向き合うべき問いが含まれている。
 
スノーボーダーのキャリアは、ひとつではない。
 
コンペティターとして名を上げたあと、バックカントリーやストリートを舞台に、映像や写真を通じて自らの滑りを表現していく。そうした道は、今もスノーボード界における重要なキャリアのひとつである。世界には五輪メダリストでありながら、コンテストの枠を超えてバックカントリーで表現者としての存在感を示し続けるライダーもいる。
 
スノーボードは本来、競技だけに収まるものではない。自然地形を読み、ストリートで創造性を発揮し、映像や写真を通じて自分の滑りを残す。コンテストとは異なる価値基準の中で、自らのスタイルを磨き続ける道がある。
 
そのいっぽうで、現在の競技スノーボードはかつてないほど高度化している。スロープスタイルやビッグエア、ハーフパイプで五輪メダルを目指すには、年間を通じて競技に集中し、エアバッグや専用施設でトリックを磨き、世界中の大会を転戦しながらポイントを積み上げていく必要がある。回転数や回転軸は複雑化し、ミスの許されない完成度が求められる。世界のトップに立つためには、競技に特化せざるを得ない時間が確実に増えている。
 
だからこそ、競技者として突き詰めたスノーボーダーが、引退後にそのまま映像表現の世界へ自然に移行できるとは限らない。
 
もちろん、平野歩夢のようにスノーボードとスケートボードの双方で世界最高峰へ挑み、大手ナショナルクライアントからも支持されながらキャリアを築く道もある。村瀬心椛のように、競技で世界の頂点を争いながら、自らの表現領域を広げていくライダーもいる。
 
だが、それはごく限られた存在である。
 
競技としてのスノーボードが成熟し、日本人ライダーが世界で勝てる時代になったからこそ、その先のキャリアもまた多様化していく必要がある。五輪メダリストになったあと、スノーボーダーはどこへ向かうのか。競技人生の先に、どんな可能性を描くのか。
 
椋真の決断は、スノーボードを捨てるという話ではない。
 
ボートレースという選択は、スノーボード界から見れば異例に映る。だが、本人は「スノーボーダーとボートレーサーの親和性を先頭に立って作り上げていきたい」とも記している。そこには、単なる転職や競技変更ではなく、スノーボーダーとしての身体感覚や勝負勘、リスクと向き合う姿勢を新たなフィールドへ持ち込もうとする意思がある。
 
その挑戦がどのような結果を生むのかは、まだ誰にもわからない。
 
だが、五輪メダルというひとつの大きな目標を達成したあと、自らの意思で次の道を選んだことに意味がある。競技スノーボードが高度化し、トップアスリートとしてのキャリアがより専門化していく時代だからこそ、その先にある人生もまた、ライダー自身の手で切り拓かれていくべきだ。
 
スノーボーダーは競技引退後、どこへ向かうのか。
 
その答えは、ひとつでなくていい。ストリートやバックカントリーへ向かう者もいる。映像や写真、ブランド、コーチング、解説、ビジネスを通じてスノーボードと関わり続ける者もいる。そして、まったく異なる競技へ進み、自分の可能性を試す者がいてもいい。
 
椋真は、雪上で結果を残したスノーボーダーとして、新たな競技へ向かう。
 
それはスノーボードから離れることではなく、スノーボードで得たものを別の舞台へ運んでいくことでもある。競技スノーボーダーのキャリアが多様化していく時代において、彼の決断はひとつの前例になるかもしれない。
 
雪上で培った挑戦する姿勢が、次のフィールドでどう花開くのか。椋真の新たな挑戦を、スノーボード界からも見届けたい。

text: Daisuke Nogami(Editor in Chief)

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