BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

スノーボードで世界を目指すために必要なこと。「1万時間」から逆算して見えてくるもの

2026.05.05

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「1万時間の法則」って聞いたことあります?
 
何かの分野でトップレベルに近づくには、だいたい1万時間の練習が必要だという考え方で、音楽でもスポーツでもゲームでも、わりとよく耳にする話だと思う。
 
ふと、これをスノーボードに当てはめたらどうなるんだろう? そんなことを考えてみた。
 
かつて、自分はスノーボードブランドでチームマネージャーをやっていた。多い年には10代から50代の20〜30人のライダーと契約して、彼らの成長をすぐそばで見てきた。もう10年以上前の話だから、今の状況とまったく同じとは言えないけれど、オリンピックで日本人ライダーが活躍するようになった今、当時から見えていたことが少しずつ言葉にできるようになってきた気がしている。
 
最初に断っておくが、これは決してスノーボードをする上で「オリンピックを目指しましょう」という話ではない。もし目指すとしたら、こうしたことを考えるのがいいのでは?という話だ。
 

「18歳でナショナルチーム」から逆算してみると

まず、ひとつの目標として「18歳でナショナルチームの選考に入るレベル」を設定してみよう。もちろん、もっと早い子もいるというのは前提で。
 
種目はわかりやすく、ジャンプ系(ビッグエアやスロープスタイル)を例にする。
 
平日は学校があるので一日3時間の練習を年間200日。土日祝日は5時間で90日。さらに夏休みなどの長期休暇は7時間で50日。この積み重ねで、およそ7年ちょっとで1万時間に届く計算になる。
 
つまり、8歳から11歳の間にスタートすれば、18歳までに1万時間に到達できる。逆に言うと、中学校を卒業してから本格的に始めるのでは、時間的にはかなり厳しい。
 
ただ、このスケジュールはかなり詰め込んだものでもある。燃え尽きやケガのリスクもあるから、オフ日をどう設けるかはすごく重要になってくる。
 

時間をこなせばいいわけじゃない。1万時間には「順番」がある

がむしゃらに練習すればいいかというと、そう単純でもない。
 
ジャンプ系の上達には、段階的なプロセスがある。ストレートジャンプから始まって、どんな順序でどこまで技を伸ばしていくか。この「道筋」を見極めることが、実はすごく重要だ。
 
コーチやまわりにいる経験者の動きをよく見て、自分の現在地を把握する。そうしないと、気づけば同じところを足踏みしていた、なんてことにもなりかねない。闇雲に練習しても、遠回りになることのほうが多い。1万時間の「中身」が、そのまま差になる。
 

避けて通れない、お金の話

練習時間と同じくらいリアルなのが、費用の問題だ。
 
夏のバグジャンプは、1回あたり交通費込みで約1万円。これを年間100日行えば約100万円になる。冬はリフト代や移動費がかかる分、その1.5倍程度で約150万円。さらに道具代として年間40万円前後が必要になることも多い。
 
合計すると年間で約290万円。5年続ければ、1,000万円を超える投資になる計算だ。
 
もちろん、ある程度のレベルになればブランドから道具の提供を受けられることもあるし、実績が出ればスポンサーや大会賞金という形で収入が生まれることもある。ただ、最初の数年間を支えるのは、やはり家族の経済力だ。
 

才能より、続ける力

チームマネージャーをやっていた頃、天性の才能だけで滑っているようなライダーも確かにいた。でも、全体のライディングレベルが高まったこともあって、そういうタイプは最近どんどん減っている。
 
代わりに目立つのは、地道にコツコツと積み重ねてきたライダーたちだ。才能があっても、練習量と継続する力がそれを上回る場面を、私は何度も見てきた。
 
世界を目指すなら、ライバルは地球の裏側にもいる。みんなが同じように努力する中で、次に差がつくのはケガをしない身体づくりや、モチベーションの維持といった部分になってくる。
 
さらに、スノーボードでオリンピックを目指すという夢を実現するには、時間、お金、環境、コーチング、そして何より続けられる力が必要だ。
 
専属コーチがいなくてもいい。高いレベルの世界に飛び込めば、自分がその時点でどのポジションにいるのかは自然と見えてくる。そこから始めてみることが、最初の一歩になるのかもしれない。
 

そして、もっとも大切なこと

毎日コツコツと練習を続ける。それ自体が、すでにひとつの才能だと思っている。
 
そのうえで、スノーボードの技術を本当に伸ばすために何が一番大切かと聞かれたら、私は迷わず「状況を読む力」と答える。
 
スノーボードは、常に同じ斜面を滑るわけではない。雪質も、傾斜も、風も、その日その瞬間によって変わる。その中で次の動きを瞬時に判断していく力が、技術の土台になる。
 
だからこそ、フリーライディングの重要性は大きい。管理されたコースで同じ練習を繰り返すだけでなく、変化のある地形を自由に滑ることで、状況判断の引き出しが増えていく。不規則な地形に対応し続けることで、体幹や全身の体力も自然と養われる。
 
そうした総合的なスノーボードの上手さ──判断力、身体能力、適応力などが、ナショナルチームに入ってから、さらに上のレベルで戦う際に効いてくる。
 
勝つための「型」を磨くことは大事だ。でも、それだけでは届かないところがある。
 
どんな状況でも、“自分らしいスノーボード”ができるライダーが、最後の舞台で強い。

text + photo: Takahiro Yui(Chief Marketing Officer)

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