BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

突如のルール改正で五輪出場を逃した男がムービースターへ華麗なる転身『GET BUCK』

2023.12.04

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コンペティターとしては平昌五輪のスロープスタイル&ビッグエアに出場、現在は表現者としてあらゆるムービーで活躍中のベルギーに出自を持つセッべ・デ・バック。このオフシーズン、K2 SNOWBOARDING(ケイツー スノーボーディング)への移籍が発表されるなど、順風満帆なスノーボードライフを過ごしている。しかし、結果としてはその転身を早めたのかもしれないが……後味は非常に悪かった。
 
イギリスのメディア「WHITELINES」が北京五輪直後、セッべにインタビューを行っている。その中身を見ていくと、FIS(国際スキー・スノーボード連盟)はコロナ禍による渡航制限のために出場資格を変更した際、ベルギーのトップランカーだったセッべに対してその内容がしっかりと伝わっていなかったようだ。ワールドカップに全戦エントリーせずともオリンピックの出場権を得られると確信していた状況から一転、一夜にしてFISランキングが30位も下がってしまったのだ。急遽FISポイント獲得のためにワールドカップを転戦するも、北京五輪の出場は叶わなかった。
 
このように大きな代償を払ったわけだが、オリンピックに出場していたら叶わなかった「NATURAL SELECTION TOUR」のインビテーションを受け取ることができた。ここから、セッべのムービースターとしての第2章が始まり、本記事で紹介する彼の立身出世物語とも言える映像作品『GET BUCK(BACKではなく彼の名、Sebbe De Buckの一部を採用)』につながっている。
 
まずは本ムービーの冒頭で、セッべが語っている言葉を日本語で紹介しよう。
 
「自分のストーリーを少しでもシェアできる現在の立場でいられることを、とても誇りに思っています。時々、非現実的な生活を送っていると感じるんです。自分がこうした特別なライフスタイルを送っていることを。そして、子供の頃からの夢を実現し、仲間と毎日ライディングに明け暮れていることを。今、親友のひとり(映像作家のウィレム・ジョーンズ)と一緒にこのプロジェクトを立ち上げる機会を得たこと、それが地元・ベルギーで始まったことはとてもクレイジーですね」
 
プロスノーボーダーになってみないとわからない感覚だろう。そんなセッべは、「コンテストが終わったら1ヶ月間、日本に行って自由に過ごしたいと思っていました」と語っているのだが、その日本が舞台のオープニングパートから始まる。JAPOWを撒き散らす美しいライディングスタイルに酔いしれてほしい。
 
さらに、特筆すべきふたつのパートについて紹介しよう。まずは、オリンピアンとしてもムービースターとしてもK2ライダーとしても先輩格にあたる、ソチ五輪スロープスタイル金メダリストのセージ・コッツェンバーグとのアラスカトリップだ。「初めてのAK……(中略)すごく怖かったけど」とセッべは本音を吐露しているのだが、コンテストで培ってきた技術力が超絶スティープなバックカントリーでも遺憾なく発揮されているシーンの目撃者になっていただきたい。
 
さらにラストパートは、「室内ゲレンデに行く途中、ABSINTHE FILMSの昔のムービー『POP』でこのジャンプを観ていました。まさか自分がこのジャンプを飛ぶ日がくるなんて、夢にも思っていませんでした」と語っているチャドズギャップが舞台。POPは2004年にリリースされた映像作品で、米ユタ州に存在する超巨大ギャップでのジャンプシーンを収録している。当時、スノーボーダーには飛ぶことが不可能とされていたチャドズギャップだが、若かりしトラビス・ライスとロメイン・デ・マルチが常識を覆した。その衝撃シーンを小学生のときに観ていたセッべが、BSダブルコーク1080をメロングラブで味付けしながら制覇しているシーンが、本ムービーの結びとなっている。
 
話が長くなってしまったが、日本人スノーボーダーにとっては非常に重要な情報だと信じている。このストーリーを知ってから観ることで、オリンピックを頂点とした競技スノーボードだけでなく、個性を発揮しながら己を表現するフリースタイルスノーボーディングがいかに本質的で魅力的であるか、きっと理解できるはずだから。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)

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