
COLUMN
激減してしまった日本のインドア環境を振り返ると同時に高まった価値を知る
2023.09.15
古くは1958年、東京・練馬に世界で初めて誕生した屋内ゲレンデ「豊島園インドアスキー場」に端を発し、1993年に当時としては世界最大の屋内ゲレンデとして「ららぽーとスキードームSSAWS(ザウス)」が千葉・船橋に誕生。滑走距離やコース幅など施設の大きさとしては、現在、中国やアラブ首長国連邦・ドバイにある世界最大級のものと比べても遜色のない規模だった。
しかし、ザウスがオープンした当初の時代背景を鑑みても、急激な右肩上がりだったスノーボーダー向けのパーク施設などは一切なく、距離はあれどもグルーミングバーンのみ。スキーヤーはザウスがオープンする以前から減少の一途をたどっていたこともあり、2002年に閉館に追い込まれたのだ。反対に90年代後半からは、カムイやスノーヴァ系列のフリースタイルスノーボーディングに特化した小規模なインドア施設が全国各地に建設された。
カムイ系列は、かつて筆者も足繁く通っていた茨城・竜ヶ崎や東京・多摩にあった。「カムイ竜ヶ崎」はもともとハーフパイプがメインの施設で、当時世界トップだったパイプライダーが海外から訪れるほど。以降はキッカーがメインアイテムとなり、多くのスノーボーダーたちがスピントリックに磨きをかけていた。
署名活動が行われるほど惜しまれながらも、2021年11月に閉館した岐阜・羽島の「スノーヴァ羽島」は間違いなく、中部や近畿を中心とした雪に恵まれていないスノーボーダーたちのライディングスキルはもちろん、クリエイティビティをも刺激したことだろう。ほかにも、東京・板橋にあった「クールバル東京」など、スノーヴァ系列は全国に10箇所ほど存在した。
以外にも、ハーフパイプのオリンピアンを多数輩出した愛媛・東温に位置した「アクロス重信」や、九州のスノーボードシーンを支えた「ビッグエア福岡」が博多にあった。どちらにも赴いたことがあるのだが、アクロスはパイプ、ビッグエア福岡はその名のとおりストレートジャンプに特化。このように、全国津々浦々のスノーボードシーンを盛り上げると同時に、各地のカルチャーを醸成していたのだ。
しかし、国の経済成長と比例するようにして、現在中国では50近くの屋内ゲレンデが稼働している状況の中、かつて隆盛を極めた日本には2箇所しかなくなってしまった。その2箇所が、山梨・笛吹に位置するハイクオリティなハーフパイプを有する「カムイみさか」と、神奈川・横浜のジブに特化した「スノーヴァ新横浜」だ。それぞれ、前出のフランチャイズ型インドア系列ゲレンデとしての生き残りであり、言い換えれば、ハーフパイプ、スロープスタイルというライディングのジャンルとしても、それぞれ唯一残ったわけだ。
こうして数は激減してしまったが、そう悲観することもない。現在双方のインドアを盛り上げているのは、日本が世界に誇る若手トップライダーたちだからである。言わずと知れた北京五輪ハーフパイプ金メダリストの平野歩夢、そして、その弟でハーフパイプのハイエスト世界記録を同五輪で樹立した海祝だ。海祝は昨年、カムイみさかの天井にテールをタップするという、狙ってもできない偉業を成し遂げ、世界中に日本が誇るインドアパイプの価値を知らしめた。
さらに、今はなきスノーヴァ羽島の中心にいた相澤亮が自身のブランド「UKIYO」をともに運営する相棒・長澤颯翔ともに、スノーヴァ新横浜を再燃させている。そして、海祝と颯飛とともに「d0bunezumi(ドブネズミ)」クルーとしてアメリカでも活躍している伊藤藍冬も含め、彼らが屋内で宙を舞い、そして、創造力を爆発させていることで、それらの動画が本場・アメリカを代表するメディア「SLUSH THE MAGAZINE」で取り上げられているのだ。
インドアゲレンデに取って代わるようにして、人工芝をアプローチに用いてエアマットに飛び込む、雪を必要としないジャンプ練習施設が全国に点在している現在。これらの施設があったからこそ、オリンピックを頂点としたビッグエア競技において、日本人が強くなったと言って過言ではない。スピントリックの技術を磨くにはこれ以上ない施設である。
しかし、その技術力をオンスノーで活かすことも、フリースタイルスノーボーディングに必要不可欠な表現力を発揮することも、それらのジャンプ施設だけでは完結しない。だからこそ、全国に2箇所しかないがインドアゲレンデに足を運ぶことをオススメする。
電気代を含めた維持管理費が高騰する中、こうした素晴らしい環境を維持してくれている、カムイみさかとスノーヴァ新横浜に感謝の意を表したい。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
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