BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

日本のティーンエイジャーたちが担うスノーボードの未来

2020.02.19

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2月上旬、若きアスリートたちがアメリカ・カリフォルニア州のマンモスマウンテンに集まった。世界のトップ選手たちが集結するUS GRAND PRIXが行われた後に、続けてUS REVOLUTION TOURが始まるからだ。こちらは、13歳から19歳までのティーンエイジャーが参加資格を持つアメリカのシリーズ戦。FIS(国際スキー連盟)ポイントの対象となり、ワールドカップの下位大会という位置づけのため、US GRAND PRIXからそのまま参加するライダーも多い。日本からもナショナルチームに属する若手や、個人参加をする選手が増えてきている。スノーボード大国・日本の次世代を担うティーンエイジャーたちを、今のうちからチェックしておきたい。

 
 

REVOLUTION TOURってナンダ?

近年、世界最高峰のコンテストであるX GAMESやBURTON US OPENで日本人ライダーが活躍するなか、このREVOLUTION TOURとはどういう大会なのか。テレビ放映やニュースでは決して取り上げられることはないかもしれないが、そこには近い将来を背負うであろう選手たちが多く出場している。そうは理解していたのだが、想像をはるかに超えるほどの熱い刺激を受けることになるとは思いもよらなかった。
 
用意された種目はハーフパイプ、スロープスタイル、ビッグエアの3つだ。まだワールドカップへの出場には至らない選手もいれば、そこで力を発揮するための練習として出場する者もいる。全体のレベルとしてはワールドカップとは比にならないが、現在の世界トップレベルのライダーも混ざっている状況。
 
そのなかでも日本人選手の存在感が強く印象に残った、ハーフパイプ女子とビッグエア男子で活躍したライダーたちの勇姿をお伝えしたいと思う。
 
 

互いを高め合う素晴らしきオンナ同士の絆

女子ハーフパイプに出場したのは、冨田るき(18)と小野光希(15)の2名。気温が下がり強風が吹き荒れるなか22フィート(約6.7m)のハーフパイプは凍りつき、時折雪煙が舞うという過酷な状況だった。コーチたちの心配をよそに決勝1本目、ふたりとも安定した滑りで確実に高ポイントを叩き出した。るき1位、光希2位をマークし、勝負の決勝2本目を迎える。
 
すると、ますます天候が怪しくなり、スタート位置ではコーチたちが大会の進行について話し合っていた。もしかしたら1本で終了かもしれない。それを聞いた光希が、「そんなの絶対にイヤだ! 2本目も滑りたい」と訴えていた。ハードなコンディションにも関わらず、彼女たちは自分の滑りを出し切りたいのだ。
 
そして迎えた決勝2本目。るきはさらに攻めの滑りに転じ、2ヒット目に高さのあるFS900を繰り出した。キレイにメイクしそのままスピードを上げると、高さのあるBS540→FS720→CAB720→FS540とつなぎ、両手を高々と上げてフィニッシュ。ライバルたちからは「オーマイガッ!」と驚きの声が上がっていた。99ポイントという驚きの高得点を叩き出したのだった。
 
続いて光希も高さのあるバック・トゥ・バック(連続)720を含むルーティンでフィニッシュ。90点台というハイスコアを記録して2位に。しかし、滑り終えた光希からは、喜びではなく悔しさばかりが滲み出ていた。本当は出したかったFS900。一発目から出したかったその技は、強風というコンディションで合わせきれなかったのだろう。聞かずとも伝わってきた、彼女の思いが切なかった。
 
表彰台の真ん中に立つるきの笑顔からは、自信と達成感を強く感じることができた。実は先月、ヨーロッパでコーチと居残りをしてFS900とCAB720の特訓をしてきたのだった。その成果をしっかり出せたことに満足しての弾ける笑顔だったのだろう。
 

WomensHalfpipe

 
彼女たちは、目先の順位だけで一喜一憂しているのではない。もっと先の大きな目標に向かって、自分のレベルを高め、それをきちんと大会で出し切るということが今の課題なのだ。周囲ではなく自分自身と戦っている彼女たちは、お互いをリスペクトしていた。
 
「私のなかで光希の存在は、何でも相談できる大切な友達。そして、お互いを刺激し合えるいいライバルです。720のコンボは光希のほうが断然上手だし全体的に(エアの)高さがあるから、同じ技じゃ勝てないという気持ちがありました」
 
光希の存在がるきをより高める。このコメントからもよき関係性がうかがえるだろう。
 
強風が吹き荒れるなかでも怖気づくことなく、華麗な技を繰り出す彼女たちの滑りに、ひさしぶりに鳥肌が立った。そして、ふたりのまっすぐな気持ちとそのライディングには、まだまだ未知の”のびしろ”があると感じたのだった。
 
 

勝負強さを発揮した若武者たちのよきライバル関係

最終日の男子ビッグエア。風が強く吹き荒れ、夜中から降り始めた雪がちらつくなかで行われた。
 
薄く降り積もる雪の影響によりボードが走らず、誰もがスピードコントロールに苦戦していた。設けられていたスタート位置からではなく、その地点に張られていたネットを外し、さらに上部からスタートする選手たちが続出。もちろん緊張感はあるのだが、何だか草大会のようなワイワイとした雰囲気を醸し出していた。
 
そのなかで熱い戦いを繰り広げたのが、川上蒼斗(15)と山田悠翔(16)だった。悪天候のため予選は省かれ、全員が決勝進出。2本のランでの勝負となり、1本目で5位に悠翔がつけ、6位に蒼斗。ふたりとも70点台半ばで、表彰台に上がるためには80点台後半の得点を出さないと厳しい状況だ。
 
勝負の決勝2本目、蒼斗はスタートネットの上部から直滑り、勢いよくFSダブルコーク1440を決めた。その瞬間に周囲が湧き、ポイントは96点。一気に1位へと躍り出た。
 
みなが蒼斗の優勝を確信して盛り上がっている状況のなか、スタート地点ではその蒼斗を盛り上げていたものの、食い入るようにして彼の姿を悠翔は見ていた。蒼斗の滑りを見て「やるしかない」、そんな悠翔の言葉が聞こえてきたように感じた。
 
すると悠翔はさらにスタート位置を上げ、スピードと高さのあるCABトリプルコーク1440を決めたのだった。しかも、高さも飛距離も着地も十分すぎるほど完璧に。コーチが「あれ、つい最近習得したばかりの技なんだ。よくやったよ」と悠翔の勇姿を見届けながらつぶいていた。そのポイントは97.5。もう誰も抜く余地のない高得点となった。
 

MensBigAir

 
「勝ちたかったから、やるしかないと思っていました。おかげで自分のスノーボードができました!」
 
悠翔もまた、蒼斗の存在にプッシュされながら自分の力を出し切り、表彰台の真ん中を射止めた。最高にうれしい瞬間だったに違いない。
 
 

国境を越えて切磋琢磨する17歳ライダーたち

US GRAND PRIX はワールドカップの一戦でもあり、アメリカの代表選手を選考する要素も含まれているため、ほとんどのアメリカ人のトップ選手たちが出場している。そんななか、REVOLUTION TOURとともにUS GRAND PRIXにも参戦し、スロープスタイルで2位という快挙を成し遂げた木俣椋真(17)が残した爪痕についてもお伝えしておきたい。
 

RyomaKimata

photo: Lee Ponzio

 
そのUS GRAND PRIXスロープスタイルで椋真を従え優勝を飾ったのは、ダスティ・ヘンリクセン。アメリカのルーキーチームに所属し、大会中に誕生日を迎えた17歳だ。今年1月に行われたユース五輪のスロープスタイルではダスティが、ビッグエアでは椋真がそれぞれ優勝していたため、いわば17歳同士によるパーク頂上決戦かのような様相を呈していた。
 
決勝1本目、ジャンプセクションで椋真はFSダブルコーク1080→BS1260、そしてCABトリプルコーク1440を決めてトップスコアを叩き出した。ダスティは椋真に続いて2位。勝負のラストランで、椋真はトリックの難易度をさらに上げ、ジャンプセクションの2ヒット目でBS1620を出すも転倒。ダスティはFSダブルコーク900からCABダブルコーク1260につなぎ、ラストは高さのあるBSトリプルコーク1440のランディングを完璧に決めてフィニッシュ。椋真のポイントを上回り、逆転優勝を飾った。
 
後にダスティが語ってくれた言葉が印象的だった。「リョウマが1440を決めたから、2本目でBSトリプルコーク1440を出したのさ。彼がオレをプッシュしてくれたんだ」
 
US GRAND PRIXの男子の表彰台は、3位のジャド・ヘンクス(アメリカ)を含めて全員が18歳以下だった。時代は移り変わっている。ティーンエイジャーの彼らはお互いをプッシュし合いながら、とてつもない勢いで急成長している。彼らが新たに、世界のレベルを急激に押し上げていくのだろうと強く感じた。
 
 

日本人選手に必要なものとは

「日本人ライダーは基本ダブルコークができて当然なのか?」
「いったい、あとどれだけ秘密兵器が日本にはいるんだい?」
 
大会期間中に現れた若い日本人ライダーたちは、ローカルをざわめかせた。スタート地点で、キッカーの上で、パイプの下で、あらゆる場所で日本人を話題にしたトークを耳にした。
 
日本のゲレンデには国際大会に通用するようなビッグキッカーも22フィートのハーフパイプも存在しないのに、なぜこんなに強くなったのだろう。海外から見てもそれは素朴な疑問だ。そこには、90年代から出現し始めた室内ハーフパイプやエアバッグを敷き詰めたジャンプ施設の存在があった。雪山に行かずとも、子供の頃から毎日のように練習し続けられる環境が整ったことにより、日本人が操るトリックの難易度は確実に上がったのだ。
 
日本人は勤勉で、ひとつの競技に対する練習量がとてつもなく多いと思う。アメリカ人はスノーボードをオールラウンドに楽しんでいる反面、日本人選手が子供の頃から行っているような勤勉な反復練習はあまり得意としない。だから、アメリカのライダーたちはスノーボード自体が上手い。日本人選手は、その競技に特化した滑りが上手い。
 
現在、日本人選手が特にビッグエア競技で強くなっているのは、まさにそれらの施設での練習のおかげだろう。しかし、よりスノーボードの総合滑走力が求められるスロープスタイル競技で高難度なトリックを持つ日本人選手たちが、今一歩実力を出しきれずに敗退してしまう背景には、海外のように広く長いスロープのコース設定や山全体を駆け抜けられるような場所が少ないからなのかもしれない。
 
今回、日本人選手たちが口を揃えて言っていた。「海外の選手はみんな本当にジブが上手い」と。マンモスマウンテンのパークを滑り、各レベルに応じたジブアイテムの多種性に驚いていた。「子供の頃からこんなところ滑っていたら上手くなるよね」──それはジブだけでなく、山全体の様々な地形を滑ることによる総合滑走力の差にも表れているのだと思う。
 
スロープスタイルコースにはR系アイテムのシャークフィンが設置されるようになり、ハーフパイプも変形されたものが使われたりと、より創造性や総合滑走力が求められるようになってきている今。この事実にすでに気づいている選手やコーチたちには、日本人選手にあと何が必要なのかが見えてきているのではないかと思う。
 
これまでと同じことをしていたら、いずれ通用しなくなる。その事実を誰よりも肌で感じているのは若い選手たち自身なのだ。10代の早い時点から海外を見て刺激を受けている、彼らのこれからが楽しみだ。

text & photos: Yukie Ueda

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