
COLUMN
上田ユキエの全米選手権ルポ Vol.2「高齢者スノーボーダーのパワー」
2018.04.27
アメリカ・カリフォルニア州マンモスマウンテンに居を構え、息子とともにライディングに明け暮れている上田ユキエ。1998年の長野五輪ではハーフパイプ日本代表の座を射止めるべくW杯を転戦するなど、コンペティターとしての20代を過ごしてきた。しかし、以降は映像制作やフリーライディングを追究するためにコンテストからは遠ざかったスノーライフを送ることに。そして、長野五輪から20年が経過した2018年。ユキエは再び大会に挑むことになった。40代半ばを迎えて出場した全米選手権。そこで彼女が感じたこととは。
「アイツらにできてオレにできないわけがない」
最年長で出場していた78歳の男性選手はこう言った。
スノーボードクロスコースのラストジャンプの飛距離が長かったので、私はなかなか飛び越せずにいた。昼になって雪が緩んできたからスタート前の彼に「雪、軟らかくなってきてるみたいだね!」と声をかけた。硬いアイスバーンは怖いに違いない。緩んだほうが安心だろうと思ったから。すると、彼の答えはこうだった。
「スピードが出せなくなってきたから難しいだろうね。さっきのランは最後のジャンプがナックル(テーブルとランディング面が交わる角)に落ちて飛び越せなかったよ。オーリーしても上に飛んでしまうから、スピードが必要なんだ。朝、硬かったときは飛び越せたのに」

えっ、このおじいさん、朝イチであのジャンプを飛び越えてたの? ビックリしたのと侮っていた自分が恥ずかしくなった。「ワオ! あれ飛び越えてたんだ。すごいね」と私が返すと、おどけたようにヤンチャな目をして次のように言った。
「チビたちが飛んでるだろう。アイツらにできてオレにできないわけがないと思うんだ」
白いヒゲを蓄えた口元がニヤリと緩んだ。
脱帽だ。そのセリフを聞いた私は、なんだか飛び上がりたいくらい嬉しくなった。
ちなみにスーパーパイプでは、この78歳ともうひとり75歳の男性が出ていて360やキャバレリアルをサラっと決めていた。さらに75歳の男性はその後、バックサイド360→スイッチバックサイド360とつなげていたのだ。もちろんリップを抜けたエアではないけれど、その動きはすごい。
「グラブはできないんだ。ほら、オレは脚が長いから手が届きにくいんだよ。本当はちょっと身体が硬いんだけどな」
少年のような目をした78歳は、そう言って笑った。背筋をピンと伸ばした彼は“老人”ではなく、立派なスノーボーダーだった。
勝ちにいくオンナたち
流行りのウエア上下を着こなし、ゴーグルの色と合わせたネオンピンクの口紅をつけた女性が気になっていた。どう見ても年配なのに、この雰囲気はなんなのだ。こっそりとビブナンバーと名前をチェックする。彼女は私の予想をはるかに上回る68歳だった。長い髪を三つ編みにして、ジャケットには薄いピンクのファーが付いていた。
話しかけるとピンクのゴーグルを上げてくれたのだが、私はさらに驚いた。メイクをしている彼女の顔がイキイキと若く見えたから。きっと、このファッションに身を包む68歳の女性はもっと異様に映るはずなのだが、まったくそんなことはなかったのだ。
出走前にソールにブラシをかけながら、イヤホンから漏れてくる音はノリノリのヒップホップという50代半ばほどの女性もいた。彼女たちの会話を聞いていると、「私55なのよ」「そりゃ若いわね」といった感じで、私などは「あんたなんかまだ40代でしょ」と大して相手にされない風だ。

50歳以上、60歳以上とまた別のクラスになるので、彼女たちにとって私は“ライバル”ではないはずだが、気になる存在らしい。毎回「なんの技やったのよ」と探りを入れてくる。そしてこっそり「ねぇ、これどう滑ったらいいと思う?」と、ライバルたちに差をつけるためにアドバイスを求めてくるのだ。
“勝ちにいくオンナたち”がここにいた。
高齢の選手たちはライディングこそ激しくないが、ハーフパイプ、スロープスタイル、スノーボードクロスと、どの種目にも出場していたことに驚かされた。コースを滑るだけでも相当なものなのだから。
つづく
text: Yukie Ueda
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