COLUMN
横乗りが育む文化
2018.04.08
2013年の秋、ソチ五輪直前に平野歩夢のインタビュー記事を制作するため、彼の生まれ故郷である新潟県村上市を初めて訪れた。数ヶ月後、歩夢が銀メダルを獲得したことを受けて再び出向き、翌年には歩夢の父である英功さんの動画インタビュー取材のために3度目の訪問。そして再び、およそ1年半ぶりに村上へ足を運んだ。
偶然ではあるのだが、訪れた4回ともすべて水曜日だった。歩夢が4歳からスノーボードとスケートボードを始めたという話は、ソチ五輪前後にあらゆるマスメディアから発信されていたのでご存知の方も多いと思うが、彼は英功さんが運営する日本海スケートパークで滑りに磨きをかけてきた。それは今も変わらないのだが、その日本海スケートパークでは毎週水曜日の夜に、初心者対象のスクールを開校している。
メダリストが誕生したいわば聖地であるため、たくさんのキッズスケーターがいることはもちろんなのだが、引率で来ている親たちもスケートを楽しんでいる姿が見受けられるのだ。近年、スノーボードなどの横乗りスポーツを経験していない親たちが、我が子をオリンピアンに育てるべくゲレンデに通いつめ、子供をスクールに入れるとブーツも履かずにレストハウスで待機……なんて話をよく耳にする。それを否定するつもりはないし、ほかの一般スポーツでも同じことはよくあるだろうが、日本海スケートパークで毎回目にする親子でスケートボードを楽しんでいる姿を見ていると、横乗りならでは“セッション感覚”で家族のコミュニケーションが図れる新時代が幕開けしたんだということを実感させられる。
英功さんも現場で指導にあたっているのだが、ローカルスケーターたちがボランディアで協力している体制は美しい。国内最大級である高さ4.6mを誇る巨大バーチカルが常設されているなど超本格パークでありながら、水曜夜のスクールではアットホームな雰囲気が漂っている。彼らによる指導のもと、子供たちが目を輝かせながら遊びを本気で楽しんでいる姿。競技スポーツとしてだけではなく、横乗りならではの価値観を守ったうえで育まれていく文化。毎回思わされる。こうした積み重ねによって、ライフスタイルやカルチャーとして根づいていくのだと。
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.76」(2016年4月22日公開)を加筆修正した内容です