COLUMN
身体と向き合うことで遊びの幅が広がる
2017.08.17
気が早いかもしれないが、初滑りをイメージしてほしい。多くのスノーボーダーたちが筋肉痛に悩まされ、年配の方であればどこかしらに痛みを伴うこともあるだろう。そう、スノーボードはハードなスポーツだ。だが、体育文化とは一線を画する遊びでもあるため、それを生業とするプロたちもトレーニングについては口を閉ざす傾向がある。だからなのか、他スポーツのようにフィジカルを強化することが一般的に浸透していない。反面、ケガをしやすいという悪評だけは周知されている。かく言う筆者も、若かりし頃は身体を鍛えること自体が“横乗りっぽくない”と決めつけていたひとりではあるが、2012年1月に大ケガを負ったことで考え方が大きく変わった。35歳以上の社会人スノーボーダーが増加していることも踏まえ、今回のコラムではフィジカル強化の重要性について触れていきたい。
私事で恐縮ではあるが、まずは自身のケガの経緯ついて簡単に説明させていただく。今から5年半ほど前、スパインでランディング面を飛び越えてしまいフラットバーンに着地。フィジカルが弱かったことも重なってか、Gに負けて左膝が砕けた。大腿骨外顆という左膝上部の外側の骨が関節面を含めて粉砕してしまったため、今なお可動域に制限が出てしまっており、完治は難しい。雪上には復帰できているものの、膝の柔軟性が重要であるスノーボードにおいて、昔のように滑ることはできない。いわゆる“だましだまし”のライディングだ。
ただ、本格的なリハビリを通してトレーニングを指導してもらったことにより、身体に対する意識が変わったことで、ケガを補って余るケースも少なからずある。左膝を負傷しているわけだが、左右均等のトレーニングを推奨されていることもあり、アラフォーながらも右脚は鍛え上げられている。スノーボードは斜度を利用して滑走するため、重心をセンターに置いた状態でも後ろ足への加重割合のほうが多い。スタンスはレギュラーなので、“だましだまし”のライディングではあるが後ろ足を上手く使うことで、グルーミングバーンで痛みを伴っていない状態であれば、ケガする以前よりもカービングの切れを感じることもできる。また、日常生活においてトレーニングをする時間が増えたため、他の部位も鍛えるようになったことで、年齢のわりには動ける身体ができているように感じる。
次元の違う話にはなるが、角野友基はフィジカルを鍛え上げたことで世界の頂に上り詰めたといっても過言ではない。彼は国際大会を転戦し始めて他国のライダーたちと触れ合ったことで、日本人スノーボーダーがフィジカルトレーニングを怠っていることに気づかされ、自らの肉体改造に取り組んだ。これにより、高回転スピンでのテイクオフやランディングの精度が向上し、メイク率が格段に上がったのだ。その結果、2012年12月のAIR+STYLE北京大会での優勝を皮切りに世界トップランカーの仲間入りを果たし、その後の快進撃は周知のとおりである。
雪上に復帰できた当初は滑れるだけで喜びを噛みしめていたが、人間という生き物はやはり欲が出るもの。以前のように滑れない歯がゆさが、トレーニングに対するモチベーションを高めている。理想の滑りに少しでも近づけるべく、これからもトレーニングを怠ることは決してないだろう。ごく一般的なスノーボーダーではあるが、今ではトレーニングすることがライフスタイルの一部に組み込まれているから。
本格シーズンが訪れるまで、およそ4ヶ月が残されている。上達を目論んでいる人はもちろんだが、いつも以上に楽しむためにも、今のうちから自身の身体と向き合ってみてはいかがだろうか。筆者は大ケガを負ったことで気づかされたわけだが、フィジカルを強化すれば当然、ケガのリスクを抑えることもできる。堅苦しい話に聞こえるかもしれない。しかし、遊ぶために必要な身体ができていれば、これまで以上に楽しめるはずだ。いつまでも滑り続けてほしいからこそ、少しでも考えていただければ幸いである。
rider: Tim-Kevin Ravnjak photo: Samo Vidic/Red Bull Content Pool
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.41」(2015年8月14日公開)を加筆修正した内容です