
COLUMN
上田ユキエのマンモスライフ Vol.3「雅やあさみらが気づかせてくれた新しい未来」
2017.07.18
~表舞台だけでなく“裏側”から支える新たなる生き方~
このくらいでないとトップには居続けられないのだろうと思わせる揺るぎない強さを持つ少女と、ひたむきで不器用でもギリギリまで諦めないど根性ガールのドラマ。そして、想像できる未来を越えようとするひとりの女スノーボーダーがいた。
強い意志を持つガールズライダーたち
次にこの地を訪れてくれたのは(前回のコラムはこちら)、日本を代表する女性ライダーたちだった。鬼塚雅と広野あさみ。現在、スロープスタイル&ビッグエアのナショナルチームに属するふたりだ。雅と共に来た大久保勇利もまた、昨シーズンのジュニア世界選手権で世界の頂点に立った若き大物であった。
子供の頃からこの世界で活躍し続けてきた雅からは、18歳とは思えない意志の強さとオーラを感じた。このくらいでないとトップには居続けられないだろうと思わせてくれる何かがあった。事実、彼女は15歳で大人に混じった世界の大会で表彰台に立ち、16歳で世界選手権の頂上に立った日本人だ。オリンピックに出場することではなく、表彰台しか彼女のビジョンにはないのだと思う。
彼女の生活と食事を支える母・美代子さんの姿も印象的だった。特に昨シーズンは、かなりの頻度で雅に帯同していたらしく、家庭の状況などの話も聞かせてくれた。
なるほど。この強い母があってこその世界王者・鬼塚雅なのだな、と。ブレない揺るぎない強さを母親からも感じたのは初めてだった。
話は変わって広野あさみ。彼女が私のマンモス移住のキッカケとなったひとりだ。2月のUS GRAND PRIXで、現在ナショナルチームのコーチである西田崇と共にあさみのケアをさせてもらった。「ああ、やっぱりスノーボーダーが好きなんだ!」、あさみは私にそう感じさせてくれた。それは、高校生の頃から知るあさみだったからこそ、余計にそう思わされたのかもしれない。彼女の一途さ、ひたむきさ、不器用さ、そして可能性が、たまらなくそう思わせてくれたのかもしれない。
あさみはオリンピックへの挑戦に向け、強い意志を持って来た。気持ちにもお金にも多くの余裕がないことはわかる。けれど、絶対に手を抜きたくない、やるべきことはすべてやりたいと、自費でコーチを連れてやってきた。自分で栄養を考えた食事を作り、部屋の中でトレーニングをし、レンタカーではなく無料シャトルバスに乗り、朝早くから山に上がっていた。
それぞれのスノーボーダーにドラマがある。この先の人生、私にできることをもっと活かしたい。心から好きなことを仕事につなげたい。
私にとってのマンモスライフは、みんなが来てくれたことで大きな意味を持つ、新しい第一歩となった。
自分のあるべき姿
自分の限界は誰にも決められない。自分でも決めてしまってはいけない。
これまで好きなスノーボードに没頭し、スノーボードを仕事にし、滑るために好きな場所に足を運び生きてきた。結婚して子供ができても、このくらいできていれば十分だと思うこと自体、どこか自分の限界を決めていたのではないかと振り返る。
自分があるべき姿。もしパートナーがいるならば相手も含め、子供がいるなら家族として、その理想は変わっていって当たり前だと思う。日々を生きて変化しているのだから。
私は新たな自分の視野から靄が取れて、一気に遠くまで広がったような気がしている。5年後、10年後、自分はどこまでできるのか。それは今日の自分が作るのではないだろうか。今精一杯やることで、この先の自分の可能性は広がるはず。自分の想像できる未来を越えることが、最高の未来予想図だ。
単純に自分のライフスタイルとして選んだ地だったが、ここでこのようなドラマを次々と見ることができて、正直驚いている。異国の地に来た日本人ライダーを手助けできること、そして、その感動を日本に伝えること。そんな大きなやりがいを発見したと思えるマンモスライフを送っている。
おわり
上田ユキエ
1973年、東京都出身。プロスノーボーダー。長野五輪出場を目指しコンペシーンで活躍。その後、ガールズムービープロダクション「LIL」を立ち上げるなど、国内の女性シーンを牽引してきた。現在は、アメリカ・カリフォルニア州に身を置き、子育てとプロスノーボーダー業を両立させながら、アメリカと日本を繋ぐ活動やプロダクトの開発などに携わっている。人気ブログ「プロスノーボーダーママ in LA」にて、ライダー活動から子育てに至るまで、あらゆる情報を配信中。
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