
COLUMN
ジェイミー・リンとブライアン・イグチに学ぶ
2017.03.14
現在のフリースタイル・スノーボーディングの礎を築き上げた、90年代初頭に巻き起こったニュースクール・ムーブメントを牽引したふたりであり、筆者と同い年にあたるレジェンドスノーボーダーたち。ジェイミー・リンとブライアン・イグチだ。
日進月歩だった当時のスノーボードに、異なるバックグラウンドを持った両名は多大なる影響を与えた。ワシントン州シアトル出身のジェイミーは、かのクレイグ・ケリーも滑り込んだマウントベイカーがホームマウンテン。オウンリスクながらバックカントリーへのアクセスが許されているベイカーはフリーライディングの聖地として、数々の名ライダーを輩出してきたわけだが、若き頃からその地で滑り込んでいたためベーススキルが高かったのだろう。
さらに、彼独自の感性がスノーボードを刺激した。ニルヴァーナやパール・ジャムに代表されるグランジロック発祥の地としても知られるシアトルは、アートやカフェなどあらゆる一流文化を育んできたのだが、そこで生まれ育ったジェイミーは芸術や音楽にも造詣が深かった。ポテンシャルが高かった彼のライディングスキルに豊かな才能が掛け合わさったことで、技術を追求するスポーツとしての側面が強かったスノーボードに“スタイル”というスパイスを融合させたのだ。メソッドエアにトゥイークを加え、ノーグラブのままガニ股でスピンするそのスタイルは瞬く間に世界中から支持され、多くのスノーボーダーが彼の虜になった。紛れもなく、筆者もそのひとりである。
一方のイグチは、ニュースクールムーブメントが巻き起こった大きな要因であるスケートボードに精通していた。ジェイミーと時を同じくして、スティーブ・キャバレロやクリスチャン・ホソイ、トニー・ホークといったスケートボーダーから多大なる影響を受けていた彼は、スケートのトリックをどのように雪上にトランスレートするかを試行錯誤する日々を過ごす。結果、自身のバックグラウンドであるサーフィンを含めた3Sが上手く融合し、当時はゲレンデ内だったがトリックを取り入れながら流れるように山を滑り下りるフリーライディングが確立。するとイグチは、カリフォルニア州ビッグベアを拠点としてフリースタイルライディングに没頭していたのだが、ワイオミング州ジャクソンホールへ移住することに。スケートボードの延長線上として活動していた彼だったが、フリーライディングを追究する中で多くのことを山から学んだ。先輩にあたるクレイグにも影響され、よりよい雪を求め、あらゆるヒットポイントを開拓していくうちに、ジャクソンホールに辿り着いたそうだ。
現在、世界中のトップライダーたちは、手つかずの雪山でスタイル溢れるトリックを織り交ぜながら滑降するマウンテンフリースタイルを追究している。イグチは以前のインタビューで、このように語ってくれていた。
「まずテレインパークでトリックを習得して、やがてそこから山の知識を得ていき、それをナチュラルテレインに合わせていくことが、マウンテンフリースタイルのゴールだと思っている。ただ、僕はまだその入り口に立っているにすぎないんだ」(2014年3月に取材)
今なお雪上を駆け抜けながら己と向き合い続けている、レジェンドと称されるアラフォーライダーたち。パークに固執してトリックを磨き続けている若きフリースタイラー、はたまた、パウダーボードに跨がってターンに執着しているベテランスノーボーダー。弊サイトでも紹介しているこちらの映像で観ることができるジェイミーとイグチの滑りは、あらゆる世代に向けてのアンチテーゼのように感じてならない。
rider: Bryan Iguchi photo: Trevor Graves
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.29」(2015年5月22日公開)を加筆修正した内容です
RELATED POSTS
-
READ MORE
COLUMN
現在のライディング事情を考える
誤解を恐れずに言わせてもらう。もし彼がいなかったら、現在のスノーボードにおける価値観は異な...
2017.10.09
-
READ MORE
COLUMN
フリースタイルスノーボーディングの真意
ビッグキッカーで繰り出される縦4回転と横5回転の融合スピンであるクワッドコーク1800や、...
2017.06.09
-
READ MORE
COLUMN
冬に向けて最高の仲間と環境を求めて
10月に突入し、世界中から初雪の便りが聞こえてきた。19日には静岡のイエティがオープンする...
2018.10.07
-
READ MORE
COLUMN
フリーライディングとはスノーボードのすべて
プロスノーボーダーたちは、ターンの一つひとつにとてもこだわりを持っている。滑る地形や雪質に...
2018.06.01
-
READ MORE
COLUMN
時代を超えても変わらない普遍的な価値観
スノーボードを始めたばかりの頃、知人から借りた一本のビデオに衝撃を受けた。当コラムでも再三...
2018.05.24
-
READ MORE
COLUMN
横乗りが育む文化
2013年の秋、ソチ五輪直前に平野歩夢のインタビュー記事を制作するため、彼の生まれ故郷であ...
2018.04.08
-
READ MORE
COLUMN
國母和宏が母国に捧げたランを振り返る
2011年3月11日14時46分。BURTON US OPENの開催地だった米バーリントン...
2018.03.11
-
READ MORE
COLUMN
あなたの可能性を広げる、来たる冬に向けた“気づき”
東京では8月1日から21日連続で雨が降り、この8月は27日間も雨が降った。これは観測記録の...
2017.09.01
-
READ MORE
COLUMN
身体と向き合うことで遊びの幅が広がる
気が早いかもしれないが、初滑りをイメージしてほしい。多くのスノーボーダーたちが筋肉痛に悩ま...
2017.08.17
-
READ MORE
COLUMN
脳内スノーボーディングのススメ
「後ろ足がリップを抜けるあたりで抜重するようにオーリーを仕掛け、それと同時に前肩を背中方向...
2017.07.28
-
READ MORE
COLUMN
スノーボーダーの夏
スノーボード業界外の人と接していると「夏は何をやられているんですか?」という質問をよく受け...
2017.07.19
-
READ MORE
COLUMN
クワッドコーク誕生までの3Dスピン史を振り返る
2015年4月15日、イタリア・リヴィーニョの地で、ソチ五輪スロープスタイル種目に出場して...
2017.07.03
LOAD POSTS