
COLUMN
スキー連盟に属するスノーボードとは
2017.03.09
今週末、FIS世界選手権のスノーボード競技が、スペイン・シエラネバダの地で開催される。FISとはフランス語のFédération Internationale de Skiの略で、スキーの国際統括団体である。スノーボードとスキーはまったくの別物であるのだが、1998年の長野五輪でスノーボードが正式種目に採用される際、IOC(国際オリンピック委員会)はISF(国際スノーボード連盟。2002年解散)ではなくFISにそのハンドリングを託した。すべては、ここから始まってしまった。
当時、ショーン・ホワイトと同じくハーフパイプでは“絶対王者”と謳われていたテリエ・ハーカンセン。ISF主催の世界選手権で3回、全米オープンで3回、ヨーロッパ選手権で5回のタイトルを獲得するなど、当時のハーフパイプシーンでは圧倒的な強さを誇っていた。しかし、スノーボードのフリースタイル種目として唯一採用されたハーフパイプだったにも関わらず、テリエはオリンピックをボイコットしたのだ。
その背景にはあらゆる問題があった。それは、スキーヤーに支配されたことに対するスノーボーダーの憤りといった単純な問題ではない。以前、弊サイトのコラムでもお伝えしたように、スキーヤーやスキー場の経営サイドは、自由な遊びであるスノーボードを当時受け入れなかった。しかし、若者のカルチャーとして一気に浸透し、その参加人口が急激に膨れ上がると、ビジネスとして受け入れざるを得なくなったことは言うまでもないだろう。同じように、FISはスノーボードが五輪種目に採用されることに反対の立場だったはずなのだが、IOCからその主導権を受け渡されると手のひらを返したかのように、代表選考の大会をFISに限るなど、ライダーたちを囲い込んだ。そういった手法にテリエは中指を立てたわけである。
また、オリンピック自体が国を代表して行われる祭典である以上、スノーボードに関して言えば世界最高峰のコンテストになり得ない、という持論を彼は展開してきた。「どうして世界トップクラスのライダーが揃っていない大会が、世界最高峰のスノーボードコンテストと言えるんだ?」という趣旨のコメントを以前に語っていたわけだが、山と雪という自然の恵みを必要とするスポーツであるスノーボードにおいては、否応なしに地域差がつきまとってしまうもの。山があっても降雪がなければ練習できないし、その反対も然り。しかし、参加国には最大で4つの出場枠しか与えられないため、ハーフパイプでは日本やアメリカ、スロープスタイルとビッグエアではカナダやノルウェーといった強豪国に多くの世界トップライダーがいても、彼らすべての出場は許されない。
そうしたバックグラウンドから、長野五輪やソルトレイク五輪についてはテリエに賛同してボイコットした有力ライダーがいたことも含め、世界最高峰とは言い難いコンテストと化したのだった。
2006年のトリノ五輪あたりからは前述したストーリーが風化し始め、世代が入れ替わったことあり、多くのトップライダーが積極的にオリンピックの舞台を目指しだした。
その後、FISは次なる手段として、バンクーバー五輪で行われたハーフパイプ種目のテレビ視聴率がよかったことに目をつけ、スノーボード界で発展を遂げてきたスロープスタイルを種目化することに。さらには、2018年のピョンチャン五輪よりビッグエアが正式種目となる。
スロープスタイルを正式種目とする際には半ば強引に、2011年より大会をスタート。出場経験のある海外ライダーたちの当時の声に耳を傾けてみると、興味深いコメントが多く残されていた。「高いレベルのコース設定を求めているのだろうが、根本的な部分が欠落しているため危険な設計」「オリンピックを目指す大会のコースがアベレージ以下の状態は、タイガー・ウッズがパターゴルフでマスターズの予選をやっているようなもの」……など、かなり手厳しい意見が多かった。トリックの進化がもっとも著しいビッグエア競技ではジャンプ台の巨大化が予想されるだけに、ライダーたちの安全をファーストに考えて設計してもらいたいものだ。
これらを踏まえて思い出してほしい。3年前に行われたソチ五輪のスノーボード種目で話題となった、コース設計やジャッジ基準についての問題を覚えているだろうか。転倒者が続出し、スノーボードに精通していない人から見れば、これが世界最高峰なのか?という疑念が残ったに違いない。結果、スロープスタイルとハーフパイプの2冠を目論んだショーン・ホワイトは、コースの危険性を訴えてスロープスタイルを棄権。ハーフパイプでの3連覇に懸けたわけだが、こちらでも番狂わせが起こってしまった。
そんな悪条件をものともせずに当時15歳だった平野歩夢、同じく18歳の平岡卓が、それぞれ銀・銅メダルを獲得。その波及効果として、先に述べた世界選手権をテレビ東京が2年前から放映することになったわけだ。オリンピック以外で民放が放送するということは、日本においてスノーボードがメジャースポーツの仲間入りをしたという証とも言えるだろう。
だが、その世界選手権はFISが運営するものである。ほぼ同じスケジュールで、ノルウェー・オスロにてESPNが主催するX GAMESのスロープスタイルとビッグエアが開催されるため、これらの競技における主力ライダーたちはX GAMESに出場。彼らの大半が属する北米や北欧の各国は、いわば2軍ライダーたちをFIS世界選手権に送り込むことになる。
これが現状だ。スノーボードという競技が一般的にわかりづらい理由のひとつとして、オリンピックまでの道のりが一元化されていないことに起因しているのだろう。
rider: Terje Haakonsen photo: Rob Grace
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.13」(2015年1月16日公開)を加筆修正した内容です
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