
COLUMN
“楽しい”以上に“面白い”スノーボードを
2017.02.08
「スノーボードは面白い」「スノーボードは楽しい」
日常においても、この“面白い”と“楽しい”という言葉は、充実した生活を送っているうえで使用頻度は高い。どちらも肯定的な意味として用いられ、ポジティブな意思表示である。
改めて辞書を引いてみた。ここで言う“面白い”は「興味をそそられて、心がひかれるさま」という意味であり、“楽しい”の意は「満ち足りていて、愉快な気持ちである」となる。
そんなことを考えているとき、興味深い(面白い)サイトにたどり着いた。引用させていただくと、“面白い”とは、そこに何か発見があることだと定義づけられ、発見のない当たり前の状態は面白くない。当たり前のことからどれだけ上手く離れているか、また、そこから得られる情報量が面白さを決めるとされている。情報には意識されるものと暗黙のものとがあり、意識される部分の割合が多ければわかりやすいのだが、すぐに飽きてしまう。暗黙の部分の割合が多ければ理解しづらいのだが、その面白さは長続きするとのことだ。
さらに、発見することは予想できないからこそ、面白さとは想定外であり、それを求めるには試行錯誤や偶然に頼って自分で探すしかないとし、このような精神状態が“自由”であると綴られている。つまり、面白いことを探している状態が“自由”であると言うのだ。しかし、何が見つかるのかわからないのだから不安定でもある、としている。
これを読んで思った。まさに、フリーライディング中の精神状態がこれだ。完璧にグルーミングされたオープンバーンのみを自由に滑ったところでこうはいかないが、地形に富んだコースであればあるほど、目の前に現れる状況に己を同調させながら滑走し、想定外のシチュエーションを上手く攻略できたときほどアドレナリンが多く分泌される。こうしたヒットポイントを求めながら滑り、自らのスピードとラインがその地形にハマったとき……スノーボードが面白く感じるのだ。それは、パークのように決められたスタート地点があるわけではないので、スピード調整やジャンプの飛距離などを自らコントロールする必要があるからこそ、難しい反面、面白いということ。また、滑り慣れたホームゲレンデであっても、その日の雪質やその年の積雪量によって予想どおりにいかないこともあるだろう。だから、面白さを感じ続けられるのだ。「あらゆる地形やコンディション=暗黙の意識」と置き換えることができる。
そして、先述したサイトではこうも言っている。「面白い=自由=不安定」だとすると、反対は安定となり、人間の精神状態が安定するのは“楽しい”状態なのだ、と。楽しいことは発見ではなく確認であり、予想どおり、思いどおりのことが起きると、自分にとっての当たり前が再確認できて楽しいというのだ。こうした見解から、面白いの反対は「楽しい=安定=不自由」と示している。
なるほど。パークで滑っているとき、新しい技ができたときは新しい発見でもあるのだから、もちろん面白い。だが、転倒するリスクや羞恥心を考えたとき、はたまた、滑走日数が限られた社会人スノーボーダーであれば、ニュートリックに挑戦することは難しいだろう。そうした状態で、持ち技を自身のレベルで完璧にメイクできたとする。確かに楽しいが、それは確認作業であり、そこに新しい発見はない。それを繰り返していると、いずれ飽きてしまい、やがてゲレンデから遠のいていく。以前耳にしたことがある言葉を裏づける結果にもつながった。「男5年、女3年」───これは、パーク全盛期にスノーボードを辞めてしまう一般的な年数である。当たり前の積み重ねだけでは、継続することが難しいのだ。
パークを滑る前に、フリーライディングで基礎を固めたほうがよいという話は、これまでも執拗に説いてきたわけだが、技術面の話だけではなく精神面でも言えるということに気づかされた。また、エキスパートたちが最終的にバックカントリーを求める動きも必然なのだと、改めて理解することができた。
これまでの話を言い換えれば、新たなゲレンデや斜面を求め続けることで、一生涯フリーライディングは面白いということ。一期一会である地形におけるトリックについても、同様のことが言えるはずだ。また、パークで新しいトリックができなかったとしても、持ち技の高さやスタイルにこだわることで面白さを求められる。
だから、“楽しい”以上に“面白い”スノーボードを追究してほしい。
rider: Nicolas Muller photo: Scott Serfas/Red Bull Content Pool
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.88」(2016年7月24日公開)を加筆修正した内容です
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