COLUMN
自由すぎる発想から創造されたフリースタイルな遊び方
2016.10.15
HISTORY OF SNOWBOARDING Vol.10 〜スノーボードをより深く知るための10の物語〜
これまでは人物や映像作品を軸に、スノーボードの起源から90年代初頭までを振り返ってきたわけだが、ここで改めて、トリックやプロダクトの歴史についても考察しておきたい。
Vol.4のコラムでお伝えしたように、フリースタイル・スノーボーディングのゴッドファーザーはテリー・キッドウェルだ。その背景があったうえで、スケートボードでも名を馳せていたノア・サラスネックが、雪上でスケートの動きを体現したことで現在のトリックの原型が生まれたことは、以前のコラムでも触れたとおり。そして、その映像が世に発信されると、カリフォルニアローカルのスケーターたちがスノーボードに飛びついた。
足が固定されているスノーボードだが、いかにスケートライクに表現できるか───これが最重要テーマだった。ボーンアウト(足を伸ばすこと)しやすくするために足首の可動域を広げることが求められ、ハイバックを切断するのが当たり前だった時代。筆者も当時、購入したばかりのバインディングのハイバックを、ためらうことなく電動ノコギリでカットし、切れ端をダクトテープでガードしていた。動きやすさもそうなのだが、このスタイル自体がカッコよかったからだ。翌シーズンには、カットする必要がないくらい低く設定されたハイバックのLO-BACKバインディングや、丈が短くホールド性よりも柔軟性を重視したトレッキングシューズを彷彿とさせるブーツ・STUMPYが、それぞれBURTONよりリリースされた。
切り株に当て込んだり、クラシックカーをコスったり、リゾート内のハンドレールをスライドするなど、ジビングという新たなるライディングスタイルが確立した。それを象徴する写真が今回紹介しているタークィン・ロビンスのライディングなのだが、彼はハイバックを外し、スタンスを大幅に広げ、スケートスタイル全開のオーリーやノーグラブのフロントサイド360などを、現在と比較すると小さすぎるエアで繰り出していた。でも、その手に届きそうなライディングだったからこそ、リアルなカッコよさがあったわけだ。
また、スケートのマニュアルの動きに、スノーボード独自のプレスやピボットなどをフラットバーンで組み合わせることでグラウンドトリックが誕生。今では考えにくいが、170cm以上ある男性でも144くらいのレングスをチョイスし、ウエスト幅27cm近くのワイドボードに跨がり、超ソフトフレックスを駆使して、雪上にバターを塗るかのような動きを披露するスノーボーダーで溢れた。これがバタートリックの語源。もちろん、身にまとっていたのはネルシャツにバギーパンツだ。
マイク・ランケットやクリス・ローチがブラウン管の向こう側で繰り出していたフロントサイド・ノーズバターは、日本中のスノーリゾートで多くのスノーボーダーがマネをしたものだ。現在の一般スノーボーダーたちから絶大なる人気を誇る通称“グラトリ”だが、フリーライディング中に取り入れていた当時のそれとは異なり、日本では独自のカルチャーとして根づいてしまった。ターンをほとんどせずに、低速でパタパタと回しながらコースを下りてくるスノーボーダーのことを指しているのだが、ドキっとした読者諸兄姉がいるとしたら、Vol.8、Vol.9で紹介した映像作品『ROADKILL』と『R.P.M.』を改めて観てほしい。きっと、価値観が変わるはずだから───。
おわり
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.11」(2014年12月26日公開)を加筆修正した内容です
rider: Tarquin Robbins photo: Chris Carnel