BACKSIDE (バックサイド)

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COLUMN

スノーボーダーとしての生き方を考える

2016.09.27

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パークに固執してトリックを磨き続けている若きスノーボーダー、パウダーボードに跨がってターンに執着しているベテランスノーボーダーなど、多様化した現在のスノーボードに対する価値観や目的は異なる。さらに言えば、かたくなにグラトリばかりするクルーなども含めこれらを横軸と考えるなら、レジャーとして捉えている人からプロを目指す人までの縦軸も幅広い。
 
例えば野球やサッカーでも、プロを目指して血のにじむような努力をする人もいれば、趣味や学業の一環として仲間たちと楽しんでいる人もいる。他の一般スポーツも同様だが、スノーボードと決定的に違うところは「勝負」が醍醐味であること。勝つために練習し、団体競技であれば協力し合い、相手を上回るために全力を注ぐ。JSBA(日本スノーボード協会)の地区大会や全日本選手権を目指すのであれば同じこともいえるが、プロスノーボーダーたちを見ていればわかるとおり、大会よりも写真や映像を残すための活動に精を出しているライダーが多い。コンペティター(競技者)というよりもアーティスト(芸術家)としての要素が強いのだ。これがスノーボードの特徴だろう。
 
話はさかのぼって1990年代初頭。それまではコンペ志向が強かったシーンに風穴を開けるかのように、アメリカ西海岸のスケートボーダーたちがストリートそのままのノリを雪上で体現し、爆発的なムーブメントを巻き起こした。俗に言う「ニュースクール時代」なわけだが、裾がボロボロになったバギーパンツにネルシャツを纏い、バインディングのハイバックを切り落とし、切り株にタップしたりハンドレールをコスリ、ジャンプの軌道に逆らうようなシフティ、メソッドにトゥイークを加えるなど、現シーンの礎を創り出した。ビデオを通して自分たちの“遊び方”を表現するようになったのも、ちょうどこの頃からだろう。勝敗を決するのではなく、単純にカッコよかったり気持ちよかったりする滑りを追求するスノーボーダーが増え始めるとともに、“スタイル”という言葉が今も昔も使われるようになった。
 
ひと言でスタイルといっても、この言葉は奥深く、反面わかりづらい。そして時に、語弊を生みやすい。なぜかというと、括られる対象が広すぎるし、見解が曖昧だから。トリック中の体勢、ライディング時の身体の動き、見た目やファッション、考え方や取り組み方……など、すべてにおいてスタイルについて議論される。一部ではそういった風潮を毛嫌いする流れもあるが、このこだわりがあるからこそスポーツという枠を超えて存在しているのだ。いくら高回転スピンを回せたとしても、そこにオリジナリティが表現されていないと一目置かれない。低回転でも独自性にあふれていれば「Yeah!」となる。
 
しかし大会で勝つためには、確実に高難度なトリックが求められる時代。スタイルを優先させることは難しく、表現を犠牲にしなければならない場面もある。だから、コンテストを敬遠するライダーが多いのだろう。このような潮流はスノーボード界に深く根づいており、ライディングだけでなくファッションにも大きな影響を与え、求めるライディングスタイルを具現化すべくハードギアのテクノロジーにまで及んでいる。そう、スタイルとは、この遊びでありスポーツの“本質”なのだ。
 
冒頭で述べたように、この世界には多様な価値観が渦巻いている。「上手くなりたい」「自然と触れ合いたい」「この道を究めたい」「仲間と楽しみたい」……など、人それぞれ求めるスタイルは異なる。もちろん、上手いにこしたことはない。けれど、仮に上手くなかったとしても楽しむ術はたくさんある。自身の価値観でいいから「カッコいいこと」「気持ちいいこと」を求めてみてはどうだろうか。
 
それがスノーボーダーとしての本来の姿であり、大切な価値観。他スポーツとは一線を画する、ライフスタイルとしてのスノーボーディングの魅力について、改めて考えてほしい。

photo: Cyril Mueller/Red Bull Content Pool

 
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.30」(2015年5月27日公開)を加筆修正した内容です

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