BACKSIDE (バックサイド)

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1009

COLUMN

マニュアル車からオートマ車に進化したハードギア

2016.09.21

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唐突ではあるが語弊を恐れずに言わせていただく。近年のギアを比喩するならば、“マニュアル車”から“オートマ車”に進化した。
 
筆者よりも古くからライディングし続けているスノーボーダーから言わせれば、この表現は適切ではないのかもしれない。しかし、今から20年余り前の92-93シーズンに初めて雪上で板を履いたため、それ以降の価値観で綴らせていただく。当時を振り返ってみると……今では考えられないほどローテクだったわけだが、あの“じゃじゃ馬”感がまた面白かった。
 
94-95シーズン、スノーボード歴3年目。当時憧れを抱いていたプロスノーボーダーのシグネチャーボードを購入した。ウエスト幅はナローとワイドの選択肢があったのだが、どうしてもほしかったグラフィック(3パターンから選べた)のボードは真夏の展示受注会にも関わらずナローモデルが完売。乗りやすさよりも見た目を優先させ、ウエスト幅26cm超のワイドモデルに跨がった。正直なところ滑りづらかったが、このボードを乗りこなせるようになったことで、カービングスキルが高まったように感じている。ウエスト幅の問題だけでなく、あらゆる面で試行錯誤が繰り返されていたボード構造だっただけに、あの時代はそれを乗りこなす楽しみがあったのだ。
 
その後、スケートボードの延長線上にあったスノーボードは、MACK DAWG PRODUCTIONS作『STOMPING GROUNDS』(96年)のオープニングに収録されている、インゲマー・バックマンが放ったスウェーデン・リクスグランセンでの伝説のバックサイドエア(映像はこちら)を皮切りに、ジャンプが巨大化していくことに。伴って、ビッグエアを生み出すための反発性や、それを受けての耐久性、さらに軽量化や滑走性の向上など、ハードギアを進化させるべくテクノロジーの追究が急がれた。その頃からスキーメーカーが本格参入し始め、自らも仕事として携わっていた某スキーブランド発のボードは、これまでの感覚でカービングすると、驚くことに谷側に切れ上がるほど。スキーからノウハウを得たカービングテクノロジーは、スノーボードシーンに衝撃を与えた。ソール材に当時としては最高級のP-TEX4000を採用、ストラクチャーが深く刻まれていたこともあり、あの時代のどのボードよりも滑走性が優れていたように記憶している。簡単にスピードが出て、勝手に曲がる。誇大表現に思われるかもしれないが、自ら体感し、そのように感じたのだ。
 
……話が長くなってしまうため、以降については割愛させていただくが、以来、毎年ニューギアに触れてきた。ボードは劇的な軽量化を遂げ、反発性などすべての面で向上。構造も複雑化の一途をたどり、ロッカーやダブルキャンバーなどベンド(ボードをサイドウォールに対して真横から見たときの形状)が多様化したことで、あらゆるライディングニーズに応えられるようになった。同様に、バインディングやブーツも軽量化はもちろん、快適性や耐久性などが格段にアップ。休眠層から抜け出したスノーボーダーが近年のハードギアを使用したとしたら、その進化幅に驚きを隠せないはず。選択さえ間違わなければ、自分に合ったギアが確実に見つかる時代なのだ。言うまでもないが、ブーツを履き、バインディングに固定された状態で滑るため、ギアへの依存度はかなり高い。快適かつスピーディに上達できるプロダクトが市場にあふれているのだから、現在のスノーボーダーは恵まれていると断言できる。
 
だが、筆者が体感した時代背景も知っておいてほしい。車の運転もそうだろう。エンジンブレーキや坂道発進など、マニュアル車が運転できてこそオートマ車の特性を活かせるわけだ。乗らされるのではなく、自ら制御しながら操るライディングを目指していただきたい。そのためにも、今の時期からあらゆるギアに触れることをおすすめする。試乗することはできないが、見て、触れて、聞いて、そしてイメージできれば、適正なギアを判断できるだろう。もちろん、そのためのショップ選びも重要になるわけだ。
 
この冬をともに過ごす最高のパートナーと出会うために、ショップ、ギアともに妥協せず選んでいただきたい。それをクリアできれば、来たる冬が素晴らしき季節になるはずだから。

rider: Travis Rice photo: Tim Zimmerman/Red Bull Content Pool

 
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.42」(2015年8月19日公開)を加筆修正した内容です

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