
COLUMN
BACKSIDE MAGAZINEが伝えたいこと Vol.2
2016.09.09
スノーボーダーとしてのアイデンティティ
スノーボードは“遊び”か“スポーツ”か───。この業界で長く生きていると、こうした議論がしばしなされる。シーンに精通している人々にとっては遊びでありライフスタイル、オリンピック種目であることから一般的にはスポーツという認識に違いない。では、なぜこうした議論が巻き起こるのか。それは、オリンピック種目になる以前から、勝敗を決するよりも自己表現に重きが置かれてきたからだ。こうした思想を持つ生き方に、スノーボーダーとしてのアイデンティティが確立されるのだと考える。
筆者も含めた一般スノーボーダーの視点では、ゲレンデ内の起伏を活かして、飛んだり、回したり、当て込んだりしながら、自由に滑走する遊び方がフリースタイルスノーボーディングであると前項で説いた。フリースタイルに遊ぶためには、滑走力はもちろん、創造力が欠かせない。なぜなら、ヒットする地形の見極めに始まり、そこにはパークのように決められたスタート地点は存在しないので、スピード調整やラインどり、ジャンプの飛距離など、すべてを巧みにコントロールする必要があるからだ。パークのように飛びやすく整備されているわけではないし、視点を変えれば飛ぶ以外の遊び方を選択できるのかもしれない。十人十色の滑り方ができるからこそ自由であり、表現力が試されるわけだ。そして、それが個性として発揮される。パークのように予想ができないのだから、想定外のシチュエーションを上手く攻略できたとき、アドレナリンが多く分泌されるに違いない。奥深く難しい反面、面白いというわけだ。
その面白さを追究し、表現方法を模索するプロスノーボーダーたちは、さらなる自由を求めてバックカントリーと呼ばれる聖域を目指す。しかし、手つかずの大自然は、滑るために用意された舞台ではない。行く先が見えない状況は多々あり、場所によって雪質が異なり、コンディションを見誤れば雪崩れる可能性だってある。アプローチスピードを間違えば、飛距離が合わず大事故につながりかねない。こうした話はアーバンライディングにも通じ、コンクリートや階段が剥き出しになっている状況で、人間が生活を営むための建造物に己を同調させて表現する。自由を求めながらも、命懸けでライディングに明け暮れているのだ。
それはなぜか。彼らにとっては自由な遊びであり、それが生業である。自由だからこそ、己の限界と格闘しながら前人未踏のラインを追究する。遊びだからこそ、本気になれる。遊びが仕事だからこそ、仕事を遊び倒す。こうして育まれていく積極性や挑戦心が自己主張につながり、そこに自然との調和を原点としたスノーボーダーとしてのアイデンティティが培われていくのではないか。
プロではなく趣味だとしても、バックカントリーではなくゲレンデだとしても、それは同じだ。遊ぶためのフィールドや方法が決められていないから自発的に考えることで、積極性が育まれていく。自由に表現するための滑走力を養う必要はあるが、滑れば滑るほど可能性が広がっていくとともに挑戦心が高まっていく。
さらに、すべてのスノーボーダーは自然の恵みである雪を必要とし、それが降り積もって形成される地形で遊ばせてもらうことで、地球環境に対する意識は強まっていくはずだ。
スノーボードはオリンピック競技であり、アクションスポーツと呼ばれるいちスポーツである。自己主張よりも調和を重んじる日本人気質も相まって、順位を競うスノーボードのほうが受け入れられやすいのかもしれない。そんな我が国だからこそ、スノーボーダーとして育まれていく積極性や挑戦心が自己主張につながり、一般社会に一石を投じるだけの存在価値を見出すのではないか。そう、BACKSIDEでは提唱していく。
プロのように命を懸ける必要はないが、人生を賭けるだけのものにはなりうるのだから。
BACKSIDE編集長 野上大介
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