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FEATURE
初級者からプロまでみんなが遊べる“サイドヒット”を大会にした「BURTON MYSTERY SERIES」潜入ルポ
2022.04.25
「より多くの人々にスノーボードを楽しんでもらうことを目的とした、まったく新しいアプローチのスノーボードイベントに挑戦する」
昨年10月、1982年から続く伝統の一戦「US OPEN」がなくなるというリリースがBURTON(バートン)から舞い込み、大きすぎる衝撃を受けた。と当時に、世界最高峰の国際大会として多くのトップライダーたちが目指してきた大舞台ではなく、今後は冒頭で述べたようなグラスルーツイベントに舵を切ると聞けば、なおさら驚きだ。
だが、オリンピックを筆頭にトリックの高難度化ばかりがフォーカスされるコンテストシーンに対して懐疑的な立場であるため、ある意味では好意的に受け止めていた。“新しい未来の幕開け”として発表されたイベントのタイトルは「BURTON MYSTERY SERIES」。その名のとおり、この時点ではすべてがミステリーに包まれていた。
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白馬八方尾根で国内初開催となったBURTON MYSTERY SERIES
そして、平野歩夢が日本スノーボード界初の金メダルを獲得するなど大きな注目を集めた北京五輪が幕を下ろすと、ついにそのベールが脱がされた。世界7ヶ国・全9回に渡り、BURTON MYSTERY SERIESの開催が発表されたのだ。大会のフォーマットは開催地によって異なるため、スノーリゾートの特徴や各国のカルチャーなどに重きを置いて考案されるとのこと。それなら面白そうだ。そのうえで、幅広い滑走レベルのスノーボーダーが参加できるイベントであることが大前提となる。
3月19、20日、長野・白馬八方尾根で日本大会が開催された。サブタイトルは「FLOW LINE」。今大会の中心人物となった藤森由香に、イベント開催に至るまでの経緯について話を聞いた。
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今大会のオーガナイザーを務めた藤森由香。左は竹内悠貴
「ゲレンデから下山するときって必ずといっていいほど壁があって、そこで遊ぶじゃないですか。初級者の人も入ったりしていると思うんですけど、ああいうポイントで気持ちよく飛べたことってあまりなくて(笑)。たまに気持ちよく飛べる壁もあるんですけど、ちょっとキッカケを作ってあげたりキレイにするだけで気持ちよく飛べるよなぁ、そうしたら最高だよなぁっていうイメージがずっとあったんです。それを伝えたらパノリン(パノラマ林道コースの通称)がいいんじゃないかと教えてもらって、実際に見に行ったら自分が理想としていたコースに近くて。それで、運営側と私のほうでアイデアを出し合って、私は個人的にクリップラーができるヒットポイントがほしくて(笑)、さらにここはロードギャップ風にできるよね?みたいに、実際にコースを見ていたらアイデアが湧き出てきたという感じです」
実際に筆者も何本も滑らせてもらったのだが、まさにFLOW LINE。藤森が言うように、サイドヒットでの遊びがよりやりやすくなっており、各々のレベルに応じたスピードやラインどりで、大きくも飛べるし小さいエアでも遊べる。なんなら飛ばなくてもクリエイティブに魅せることだってできる。初級者からゲストライダー兼ジャッジで来場していた宮澤悠太朗、高橋龍正、竹内悠貴、久保田空也、佐藤正和といったプロスノーボーダーまでもが楽しめるフリーライドパークだ。
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一般スノーボーダーと比べて圧倒的な高さを誇る宮澤悠太朗。プロの実力が理解できる瞬間
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バンクを流しているだけでも画になる高橋龍正
大会は2日目の20日に行われたのだが、当日は3月下旬にもかかわらず気温が低く、ドライスノーが舞っていた。雪は硬めの状態ではあったものの、ボードは走るしアイテムも崩れないという視点で見ればコンディションは上々だ。会場は1,200mに及ぶ迂回コースとなっており、右へ左へとラインをとりながらサイドヒットを攻略していく。ヘアピンカーブにはバンクが設置されるなど、フリースタイルにもサーフライクにも遊べる面白コース。そのうえで滑りごたえ十分なのだが、コースが長すぎてジャッジが全体を見渡せない! というわけで、上部・中部・下部に分けてジャッジ時間を設け、参加者たちは順々にトップ・トゥ・ボトムで流すジャムセッションという形式をとった。
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写っているのは中部セクションと下部セクションのほんの一部。いかに長いコースで行われたのかがおわかりいただけるだろう
滑れば滑るほどいろいろな可能性が見えてきて、次はあのラインで入って、次はあのトリックを仕掛けたい……など妄想が膨らんでいくコースだっため、ジャムセッションは大正解。メンズ、ウィメンズ、キッズと総勢80名超の参加者たちは飽きることなくライディングを楽しんだことだろう。大きく飛べるジャンプ台が用意されているわけではないので、回転数合戦には決してならない。トリックの難易度を求めるのではなく、いかにしてカッコよくサイドヒットを攻略するかという創造性が重視されていたように感じる。各コースについて藤森に説明してもらった。
「上部のメインはレギュラーのフロントサイド側に用意した2ウェイのヒップですね。それらの手前にあるウェーブでスピードをつけてもいいので、アプローチスピードによって大小どちらかのサイドヒットを狙ってもらうイメージでした。迂回路なのでライダーズレフト側にコースがカーブして、左側に小さめのサイドヒットをふたつ設置。そして、ライダーズライト側に続くカーブにはバンクを作りました。私がハンドプラントをやりたかったので、バンクにはドラム缶を置いたんです」
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下部セクション賞のキッズ部門に輝いたマルヤマイチノシンのステイルフィッシュ
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上部セクション賞のウィメンズ部門に輝いたハラユキノのインディ
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上部セクション賞のメンズ部門に輝いたニシイタカヒロのレイバック
「中部コースはレールからライダーズライトにサイドヒットを作りました。そこから迂回コースを道路に見立てたロードギャップを設置したんです。このポイントはかなり盛り上がりましたね! ロードギャップを飛ばなくても、着地のところにもうひとつリップを用意していたので、そこでも遊べるようにしていました。そこからレギュラーのバックサイドにサーフライド的に遊べるバンクがありましたね」
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中部セクション賞のキッズ部門に輝いたナツメムツホのボードスライド
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中部セクション賞のメンズ部門とINK賞に輝いたスギヤマカズヒロのロードギャップでのインディ
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上部セクション賞のキッズ部門に輝いたタケダリキのバンクライド
「下部にはストレートにも飛べるし、レギュラーのバックサイドヒップとしても遊べるジャンプ台を作りました。テーブルを利用してバタートリックを楽しんでいる参加者もいましたね。そこからサイドヒットやウェーブに当て込みながら、コースのボトムに向かっていく流れです。どれだけすごい技ができるかということも大切かもしれないですけど、楽しんで滑ってくれているなぁと感じた人を今回は選ばせてもらいました。板に乗れている人もそうだし、とにかく楽しんでいる人ですね」
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BURTON賞に輝いたミナミリナのテール
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下部セクション賞のメンズ部門に輝いたアライヨシカズのメソッドトゥイーク
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下部セクション賞のウィメンズ部門に輝いたイシイヒマリのインディ
参加者たちそれぞれが、思い思いのライディングを楽しんでいる姿がとても印象的だった。時にはアイテムが設置されたコースから外れてフリーライディングさながらオリジナルのラインを描く者、豪快にフロントフリップを繰り出す者、スノースケートで攻める者、手を振りながらジャッジにアピールする者など、とにかく個性にあふれており、大会というよりもファンなセッションと化していた。これこそが本来のスノーボードのあるべき姿なのではないか。そう強く感じさせられた。
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イベントの総括を語る藤森
「コースが一望できないなどの課題もありましたが、リゾート側もこのコースを常設でおきたいと言ってくださったり喜んでもらえましたし、何より参加者たちが楽しんでくれていたのがよかったですね。スロープスタイルやビッグエアのようにアイテムのサイズが決まってしまうとスキルによっては飛べないなど、エントリーの敷居が高かったりします。自分で滑っていても勝つためにやらなければならないとなると、やはり“楽しい”という部分が削られてしまいます。そういった、既存の大会で足りない部分をフリースタイル要素とともに組み込んで作ることができたので、いろいろな年齢層の方たちや初級者の人でも上手な人でも魅せることができるコースになりました。満足しています」
今後は、初級者が入れるというコンセプトは変えることなく、より大きくも飛べるようにしていきたいんだと藤森は語る。一般スノーボーダーが楽しみながら参加できるイベントに、アーサー・ロンゴやケビン・バックストロムといった欧州ライダーたちがゲレンデ内で披露するような、サイドヒットで巨大ジャンプが繰り出せるコースということだ。そこには、平昌五輪ハーフパイプに出場したオリンピアンでありながら、近年はバックカントリーでの撮影に精を出している片山來夢も積極的にイベント制作に関わっていきたいと意思表示をしているとのこと。
あらゆるレベルのスノーボーダーから喜ばれるグローバルシリーズに育て上げることを目標として掲げローンチしているだけに、MYSTERY SERIESのこれからの発展に期待しようではないか。
RESULTS
上部セクション賞
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キッズ: タケダ リキ
ウィメンズ: ハラ ユキノ
メンズ: ニシイ タカヒロ
中部セクション賞
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キッズ: ナツメ ムツホ
ウィメンズ: シンガイ ミナミ
メンズ: スギヤマ カズヒロ
下部セクション賞
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キッズ: マルヤマ イチノシン
ウィメンズ: イシイ ヒマリ
メンズ: アライ ヨシカズ
INK賞
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スギヤマ カズヒロ
BURTON賞
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ミナミ リナ
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photos: Kentarou Fuchimoto