BACKSIDE (バックサイド)

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INTERVIEW

ファッション&アウトドア界でキャリアを形成した男がBURTONに吹き込む新たな創造性

2023.11.08

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BURTON(バートン)創業者であるジェイク・バートンは2019年、闘病の末に他界してしまったが、彼の死を境にして、同ブランドのクリエイティブは一新した。現在、米カリフォルニア州サンタモニカを拠点に少量で品質にこだわったアパレルブランドを運営するグレッグ・ダーキシェンが2018年まで10年以上、BURTONのクリエイティブを司ってきたのだが、2020年秋からは、スイス・チューリッヒに出自を持つエイドリアン・ジョセフ・マージェリスト(以下、AJ)が指揮を執っている。トップ画像でマーク・マクモリス(右)と肩を組む男だ。
 
AJの35年以上に渡るスノーボーダーとしてのキャリアと、ハイブランドで23年、アウトドアブランドで6年かけて培ってきたデザインセンスが、現在のBURTONすべてのクリエイティブに反映されている。2022年からチーフ・ビジネス・オフィサーに就任、ワールドワイドにクリエイティブをマネジメントしているAJを知ることで現在、さらに、未来のBURTONを知る。

スノーボード業界に新風を吹き込むAJという男

1987年、スイス・アルプスでスノーボードに初めてまたがったAJ。フリースタイルスノーボーディング黎明期であり、BURTONで言えば伝説のライダー、クレイグ・ケリーがまだ正式契約する前だ。AJのスノーボードキャリアがいかに長いかが理解できる。そして、本インタビュー記事を読み進めることで、その深さまでうかがい知ることができるだろう。
 
「BURTONを昔から知っている私にとって、現在のポジションを与えられたことはとても光栄です」
 
AJは山に雪が降り積もれば雪上を駆け抜け、雪解けとともに波に乗るライフスタイルを30年以上続ける傍らで、ハイエンドブランドやアウトドアブランドでキャリアを積んできた。

 

前出のクレイグが愛した山、カナダ・ブリティッシュコロンビア州ボールドフェイスで豪快にパウタースノーを刻むAJ

 

「(イタリア)ミラノのイスティトゥート・マンゴーニ(ファッションとデザインの私立学校)で修士号を取得したのち、(イギリス)ロンドンのVivienne Westwood(ヴィヴィアン ウエストウッド)で最初の仕事をしたのが始まりです。アシスタント・デザイナーからチーフ・クリエイティブ・オフィサーまで、ハイエンドファッションの世界で23年間のキャリアを重ねてきました。最後の仕事はMCM(エムシーエム)のリポジショニングでした。
 
そして2014年、MAMMUT(マムート)からのオファーを受け、ファッションからアウトドアの世界へと転身したんです。今でもそのことをうれしく思っています。そして2019年、ドナ・カーペンターと出会う機会に恵まれて、今に至ります」
 
BURTON入社時、海外のファッションメディアでAJは次のように語っていた。
 
「スノーボードを始めて以来、ずっとBURTONのファンでした。あの頃、BURTONのチームと一緒に仕事ができる日が来ると言われても、きっと信じられなかったでしょう。この度、このような機会に恵まれたことを謙虚かつ光栄に受け止めていますが、その興奮を抑えきれません。アウトドア、ライフスタイル、ファッション業界における私の数十年に渡る経験と、アジアでの仕事と生活の経験が、BURTONのチームをネクストフェーズへと導き、それらをサポートする一助になることを心から願っています」
 
この言葉から3年が経過した今、改めて聞いてみた。四半世紀近くハイエンドファッションの世界を渡り歩き、アウトドアブランドでクリエイティブオフィサーまで務めた経験をもってして、BURTONのクリエイティブにどのような改革をもらたしているのか。

 

ファッション業界で培ったスキルを武器に、生まれ変わったANALOGをプレゼンする

 

「私たちはここで、もしかしたら少し型破りなことをしているのかもしれません。しかし、それでいいのです。私にとって、誰かの経験や過去の仕事がどうであるかは重要ではありません。それよりも大切なことは、私たちの行動のすべてにおいて、いかに中心的な消費者を念頭に置き、そうした顧客を理解しているかということです。それを管理し、私たちの様々な経験や持ち味をすべて仕事に活かすことができれば、それこそが多様で予想外の結果を生み出し、ひいてはBURTONマジックを生み出すことにつながるのです」
 
その一環として、「挑戦的なモノづくり」を実践している。これまでの生産工程が、商品計画やデザイン作業、素材調達など部門ごとに縦割りで進んでいたとしたら、AJはすべての部門をスタートの時点から巻き込んでいる。デザイナー、開発担当者、マーケティング担当、ブランド広報などがゼロの状態から携わることで、”いいモノを作ろう”と成果を出すためのマインドセットになるのだと言う。

 

AJはライダーからのフィードバックにもしっかりと耳を傾ける。写真左はマーク・マクモリス

 

こうした好循環を生んだ結果、AJが言うBURTONマジックが生まれる。北京五輪ハーフパイプで金メダルを獲得した平野歩夢が搭乗していたボード、ピンクに彩られたソールを持つCUSTOMはスノーボーダーのみならず、世界中の人々の脳裏に焼きついたことだろう。
 
「オリンピックという大舞台では、どのブランドも目立ちたい、注目されたいと思うものです。ロゴが大きければ大きいほどいいと考える人もいますが、私たちは“色”のトリックを使いました。シグナルカラーは、大きなロゴよりもずっと興味をそそる。だからこそ、CUSTOMのピンクベースが誕生したのです」

 

平野歩夢は北京五輪ハーフパイプでCUSTOMに搭乗し、金メダルをもぎ取った
photo: Kosuke Shinozaki

 


生まれ変わるBURTONのブランドスタイル

「BURTONはイノベーションとクリエイティブの上に成り立っています。それが重要な柱であり、私たちはそれを守り続けています。いくつかのホットなイノベーションを準備すると同時に、デザイン面では、BURTONが常に掲げていた姿勢を取り戻すべく尽力します。また、2027年の50周年に向けて毎シーズン、アイコンとなるボードグラフィックを新しい形で復活させていきます。50周年はビッグバンになると思いますので、目を光らせておいてください」

 

豪華絢爛なBURTONチーム。右から7番目がAJ

 

AJはすでに先の未来を見据えている。1977年に創業したBURTONは2027年、50周年を迎えるわけだ。それに向けてなのか、現在進行形で様々な施策が展開されている。先日、BURTON FLAGSHIP TOKYOでANALOGのリニューアルイベントが行われたが、BURTONブランドにとって、それは何を意味しているのか。
 
「これまではBURTONがメインであり、MINE77やANALOGもそれぞれブランドだったため、顧客が混乱することがありました。3年前に新体制となり、私たちは4ラインを持つひとつのブランドであるということを明確にしました。各ラインが果たすべき仕事はありますが、MINE77、AK、ANALOG、そして、BURTONラインがひとつのブランドとして見えるようにすることで、ユーザーたちは改めて、BURTONの特徴を理解し始めています
 
そのうえで、AKが最高性能で素晴らしい製品であることは誰もが知っていると思いますが、ANALOGを同じ性能レベルに引き上げることは、私たちにとって重要課題でした。AKと同等の性能であるGORE-TEX素材を用いることで、最高級の機能を備えています。スタイル的な視点から見ても“兄弟”と言うことができます。AKはフリーライディングやビッグマウンテンのために開発され、ANALOGはパークやストリートを意識したスタイルです。私たちはANALOGのリニューアルに多くの投資をしています」

 

チームライダーたちは着用するウエアの選択肢が増え、それぞれの個性がより際立つ

 

AKはその名のとおりアラスカで滑るために誕生したラインであり、元来、バックカントリーやフリーライディングが想定されていた。しかし、現在のAKは着用しているチームライダーの顔ぶれを見てもわかるように、フリースタイル色が強い。
 
「チームライダーたちは最高のパフォーマンスを求めているので、AKを着用しているフリースタイルライダーは増えていました。しかし、ANALOGがAKと同性能に高まったことで、パークライディングではANALOG、フリーライディングではAKというシフトがすでに始まっているのです。私たちのライダーはこうした最前線に立っており、コミュニティや消費者に影響力を持っています」

 

ハイエアが武器の片山來夢は飛ばずとも画になるが、ANALOGのウエアがよりスタイリッシュさを演出する

 

なるほど。ANALOGの性能をAKレベルにまで高めると同時に、AKをよりフリーライディングにフォーカスさせるため、ハイエンドラインが追加されたということなのか。
 
「私たちはBURTONを価格ではなく、製品と品質で定義しています。製品のユースケースが重要であり、ユーザーたちに最高のパフォーマンスを提供することが重要なのです。新たに加えられたKALAUSI、ACMAR(未発売)、TUVAK(未発売)は、スノーボードブランドとしていい意味で期待を裏切るラインです。私たちは、山に登ることを第一に考えてこれらを作り上げました。ですから、これまでには存在しなかった、クールなスノーボーダー気質な登山ラインだと考えてみてください!」
 

滑ることはもちろん、“登る”ことを最重視して作られたKALAUSIを身にまとうダニー・デイビス

 

リーディングブランドであるBURTONが切り拓いていく未来は、スノーボードの未来とも言い換えることができるだろう。AJが旗を振り、BURTONはさらなる進化を遂げていく。

text: Daisuke Nogami(Chief Editor)

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