CREW
富山・立山、標高3,003mへ。一般スノーボーダーが挑む2泊3日の雪中キャンプが教えてくれた、バックカントリーの神髄
2025.12.15
2025年のGW、富山・立山へ向かった。2年連続となる読者スノーボーダーのコミュニティ「BACKSIDE CREW」の面々と、雪中キャンプを行うためだ。昨年は5月の平日に開催したのだが、GWの立山は大混雑。長野側からアプローチすることもできるが、昨年同様、富山側から入山することになっていた。深夜0時過ぎに立山駅の駐車場に到着すると、すでに多くの車で埋まっていた。
今回も1993年の創業以来、8,000m級の山々でも「行動し続けられる」高品質で耐久性に優れたプロダクトづくりを貫いているMountain Hardwear(マウンテンハードウェア)による協力のもと実施。バックカントリーで使えるプロダクトが、CREWたちをサポートしてくれた。また、ガイドを担ってくれたのは同ブランドのサポートライダーであり立山を知り尽くす男、水間大輔。彼を筆頭にCREW5名、フォトグラファー、筆者の8名は2泊3日の荷物を背負い、早朝の立山駅に集合した。
ガスに覆われた初日──雷鳥沢キャンプ場にベースを築く
GW真っ只中の立山駅は、滑り手以外の観光客でごった返していた。アジア系の外国人も多い。立山ケーブルカーのチケットを求めて、長蛇の列ができていた。

深夜から並んでいる強者も多くいたようだ
水間が全員分のチケットを手配してくれていたため、予定どおりにケーブルカーで美女平へ向かい、そこから立山高原バスに乗り込み、1時間ほどかけて標高2,450m、黒部立山アルペンルートの最高地点である室堂ターミナルに到着した。

大荷物とともに、いざ出発!
昨年も経験したが、室堂から雷鳥沢キャンプ場までの道のりはおよそ2km。15kg超の荷物をボードにくくりつけ、アップダウンの道のりをてくてくと歩く。ガイドの水間は大型テントや僕たちの食料など大量の荷物を運んでくれており、その重量は想像を絶するほど。水間の体力と心配りに敬意を抱きながら1時間ほど歩みを進めると、雷鳥沢キャンプ場に到着した。

昨年は途中まで背負って歩いていたが、あまりにもキツくて編み出された運搬方法。これも経験

この重量ある荷物を雪上で引っ張るのは至難の業。「大ちゃん、ありがとう!」
予想はしていたが、昨年とは比べものにならないほど多くのテントが立ち並んでいた。なんとかスペースを確保し、まずはベースキャンプをつくっていく。CREWのためにテントや移動中のダッフルバッグ、防寒着としてダウンジャケットなど、Mountain Hardwearからお借りしていた。昨年経験したメンバーもいれば、雪中キャンプが始めての者もいる。快適に寝るため、ショベルで雪面の凹凸をフラットに整地し、テントを張るCREWたち。

多くのテントが並ぶ中、Mountain Hardwearのテントはスタイリッシュであることを実感
ガスに覆われ、天候は思わしくなかった。2泊3日だが、最終日は下山に費やすため、ライディングできるのは2日のみ。天候の回復を祈りながらコーヒーブレイク。しかし、僕たちの想いは天には届かなかった。

設営をを終えてほっとひと息。いよいよ雪中キャンプがスタート。テントで飲むコーヒーは格別
「天候が厳しいので、今日の分も含めて明日滑りましょう。ご飯はオレが作るので、みなさんゆっくりしててください!」

飲み水を確保するCREWたち
キャンプ場には管理小屋があって、水洗トイレが完備されており、飲料水も汲める。各自雪中キャンプに臨むため万全の準備を整えていると、夕食ができあがった。「大ちゃん、ありがとう!」と、本セッション最初の乾杯。翌日は早朝から行動するため、日が落ちる前のディナーを楽しんだ。

テントで飲むコーヒーは格別だと前述したが、ビールはもう、たまらない
空腹が満たされると、天候は回復していた。ガスで覆われていたため見えなかったが、昨年目に焼きつけた光景が広がっている。周囲を山々に囲まれた、圧倒的な秘境感が漂うロケーション。

昨年滑った剱岳の話でCREWたちは盛り上がっていた
明日は4時起き。初日は慣れない雪中キャンプを全開で楽しんだ。待望のライディングに備え、床についた。

ようやく視界が開けた。期待感が一気に高まる
快晴の2日目午前──一の越山荘から御山谷の大斜面へ
起床。水間が寝泊まりするリビングスペースを兼ねた大型テントでは、すでに朝食の準備が進められていた。「大ちゃん、ありがとう!」と感謝しながら、みなで腹ごしらえ。前日の天候を鑑みると、早めに行動しても斜面がまだ緩んでいないという水間の判断だった。遠くの斜面の話だが、これまで積み重ねてきた経験値の賜物なのだろう。ゆっくりと準備を済ませ、ビーコンチェックを終えて7時半頃に出発。まずは一の越山荘を目指した。

ビーコンの電源が入っていることを確認してから行動スタート

iPhoneでこの日の歩数をさかのぼったら、20,000歩超だった
2時間半ほどハイクアップすると、室堂ターミナルから登ってきているスノーボーダーやスキーヤーたちの流れに合流。さすがはGW。多くの滑り手がハイクアップしていた。少し進んだ祓堂社(はらいどうしゃ)で小休憩。ここから急勾配を含めて登ること1時間弱、最初の目的地である一の越山荘に到着した。
一の越山荘の標高は約2,700m。雷鳥沢キャンプ場が2,277mなので、400mあまり高度を上げたことになる。天候は快晴。前日は滑ることが許されなかったCREWのテンションは最高潮に達していたことだろう。
ここから御山谷(おやまだん)を滑り下りる。一気に落とすのではなく、まずはパーティーランで足慣らしすることにした。

快晴のもと滑れる喜びを、みんなで共有する
水間の予想どおり、雪は適度に緩み始めていた。まずはみんなで短めのファーストライドを楽しみ、一旦合流。ここから御山谷の標高2,320m付近まで落とす。
足元に広がる大斜面を見ながら、バックカントリーの広大な斜面に慣れていないと、最初はターン弧が小さくなるという話をライダーたちから聞いていたことを思い出した。その言葉を胸に、できるかぎり大きなターン弧で滑ろうとイメージする。CREWたちは思い思いのラインを刻んでいった。

「立山は何度か来ているので毎回素晴らしい景色に感動するけど、CREWのみんなとは初めて。同じ景色でも違う感動がありましたね。みんなで滑ったパーティーランは楽しかったです」──成瀬岳史

「ターンが小さかった。大きな山を滑ることに慣れていない自分にガッカリでしたね。2日目はハードな行程だったけど、個人的にはあのくらい登りたいし、滑りたい」──佐藤潤一
滑り終えたのがちょうど正午頃。当たり前だが、滑った分は登り返さなければならない。途中でランチがてら行動食を口にし、1時間半あまりかけて一の越山荘に戻った。

歩く、歩く~、オレーたちー♪
水間によれば、通常の行程であればここで一日は終了となる。時計の針は14時に差しかかろうとしていた。しかし、僕たちはテント泊なので、時間はまだ十分に残されている。昨日滑れなかったことを考慮して、水間は標高3,003mを誇る雄山に登って滑ろうと提案。例年であればアイゼンがないと上がれないのだが、昨シーズンの春は雪解けが早かったため、登山道を利用することができる。5月とはいえ、夕方になると気温は一気に下がるが、今ならギリギリ間に合うとのこと。
私事で恐縮だが、筆者は古傷の左ヒザに爆弾を抱えていた。スノーシューで斜面はなんとか登れるものの、雄山までは岩場の登山道を登るそうだ。日常生活で階段の上り下りもままならない状態だったので悩んだが、「ここまで来て登らない選択肢はない」と言い切り、雄山を目指すことにした。

スノーシューをバインディングにくくりつけて、いざ雄山へ
標高3,003mの雄山へ──10時間に渡る、大人の冒険
一段一段ゆっくりと登っていく。余裕はないながらも、登山道から見えた景色に地球を感じた。大きすぎる空、丸みを帯びた日本海の水平線、室堂ターミナルや出発地点の雷鳥沢キャンプ場が米粒よりも小さく見える。「ここまで登ったのか」と充足感を味わいながら、ほかのメンバーから遅れをとるも、なんとか登り切り16時くらいに雄山到着。

スノーシューの重さも加わり、かなりハードな山行

この景色、一生忘れない

登頂成功! 水間がCREW一人ひとり迎え入れる
四半世紀ほど前に仕事で山梨・北岳(標高3,193m)に登ったことがあるのだが、それ以来の標高3,000m超の世界。ものすごい強風が吹き荒れていた。岩場には「エビの尻尾」と呼ばれる、強風にさらされることで氷の粒が風上に向かって次々と付着し、長く扇状に成長する気象現象が見られるほどだった。

GWなのに標高3,000mの世界はこんな感じ
さらに岩場を抜けるのだが、ボードが飛ばされそうになるほどの強風に恐怖を感じた。「絶対にボードは流さないように!」──終始優しい水間も、このときばかりは厳しい表情で、語気を強めた。無事にドロップポイントにたどり着くも、風で叩かれて雪面がコンクリートのように硬くなっている。座った状態でボードを履くのも危険な状態。雪面にエッジがまったく入らないのだ。
CREW一同、恐怖と不安に苛まれていたことだろう。水間の指示に従い、エッジがほとんど効かない氷のような斜面をサイドスリップで下りていく。すると、少し標高を下げただけで、滑りやすそうなコーンスノーが広がっているではないか。さすがは立山を知り尽くす男だ。筆者の遅れも含めて予想よりもパックされるのが早かったが、極上の斜面が待ち受けていた。
まずは水間がドロップイン。素晴らしいターンを刻んでいく。CREWたちは美しい滑りに酔いしれながら、「これならいける!」と安堵の表情を浮かべていた。

スピード感とコーンスノー特有の浮遊感が伝わってくる水間の滑り
「大ちゃん、ありがとう!」
みなが再び心でそう叫びながら、順番にドロップイン。思い思いのラインを刻んでいくCREWたち。

「雄山を登り切ったときは達成感を覚えましたが、同時に風が強くて厳しいコンディション。息つく間もなかったのが印象に残っています。滑り終えて落ち着いたとき、『こんなところを登って滑ったのか」と、その事実に驚かされました」──ノブ

「仲間の滑りを見ながら、どうすれば見栄えのいい滑りになるかと観察していました(笑)。何かひとつアクションを入れないと、ただ滑って終わってしまう。しかし、疲労困憊でその余裕はまったくありませんでした」──原本 真

「高山病でバテながらも、雄山からの景色は忘れられません。その後、ドロップ前にガリガリなところで板を履いて、ドロップポイントまでの移動が3日間で一番緊張した! 水間さんの声のトーンが違いました(笑)」──星 貴浩

ハイスピードにヒザが耐えられそうになかったため、レイバックに逃げる筆者
一の越山荘に戻ったのは17時過ぎ。みなでハイファイブを交わし、その直後に撮った写真が本記事のトップを飾っている。「やり切った」──そんな雰囲気が伝わってくるのでは?
雷鳥沢キャンプ場を目指して、標高差400mあまりのラストラン。前半はトラバースが続いたが、後半はレギュラーのバックサイドに位置する地形を利用して、パンパンの足腰を奮い立たせてフリースタイルに遊んだ。
17時半に雷鳥沢キャンプ場に無事到着。10時間に渡る超ハードな“大人の遠足”は、バックカントリーの“経験値”が格段に上がり、CREW同士の“友情”が深まり、さらにスノーボードの“奥深さ”をこれまで以上に知ることができた。

達成感、ハンパじゃなかった
ベースキャンプに戻るやいなや、缶ビールで即乾杯。「限界までやり尽くしたあとに飲むビールは甘く感じるんですよ」と水間が教えてくれたのだが、本当に甘く感じた。詳細な説明は長くなるので割愛するが、糖質が大量に消費された結果、身体が緊急にエネルギーを欲しているからなんだって。

人生でも指折りに入る乾杯だった
昨年の立山から「神様、仏様、水間様」と言っているのだが、ここから水間はひとりで夕食の仕込みが始まる。「みなさん、お風呂に行ってきてください!」とさわやかな表情で見送られ、「大ちゃん、ありがとう!」と感謝の気持ちを胸に、温泉を堪能。ポカポカに温まりベースキャンプに戻ると、2年連続「居酒屋水間」が開店していた。
まずは、本トリップ3回目の乾杯! 居酒屋水間のメニューは焼肉、ホルモン焼き、ブリの漬け、海老のアヒージョ、ホタルイカ……などなど。富山の銘酒・立山が進む進む。
「2日目の夜はパーティーですよ」と開催前から水間は言ってくれていたが、このために運んでくれたのだ。雪山で海の幸が味わえ、口当たりは軽やかながら米の旨みも感じられる日本酒を楽しめる。水間がいなければ実現できない、贅沢な大人の遊びだ。

居酒屋水間はマジで美味い。食べログには載っていないが3点台後半は堅いだろう
明日は下山。名残惜しいが、最高すぎる雪中キャンプセッションだった。また来年も、水間と一緒に来たい。そう心に誓う夜だった。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
photo: Kenta Nakajima
special thanks: Mountain Hardwear




