COLUMN
あなたの可能性を広げる、来たる冬に向けた“気づき”
2017.09.01
東京では8月1日から21日連続で雨が降り、この8月は27日間も雨が降った。これは観測記録のある1886年以降の最多記録に並ぶ。日照時間は1890年の観測開始以来、史上最短の83.7時間(速報値)を記録し、平年の半分ほど。8月最終日の東京は日中でも気温が20℃程度までしか上がらなかった。これは10月中旬なみの気温である。
こうした異常気象に一抹の不安を覚えながらも、涼しくなったことで一気に冬を意識してしまうスノーボーダーも少なくないのではないか。そこでここでは、スノーボードシーンの現況を踏まえながら、一般スノーボーダーの実態について考察していきたい。
当コラムでも再三と綴らせていただいているが、92-93シーズンにスノーボードと出会った筆者は、FALL LINE FILMS作『ROADKILL』(93年)や『R.P.M.』(94年)をビデオテープが擦り切れるほど観て、完全に虜となった。これらの映像に興味のある方は、「現代スノーボーディングの礎を築いた映像作品『ROADKILL』」「ジェイミー・リンの美しすぎるスタイルを周知させたマスターピース『R.P.M.』」の記事をご覧いただきたい。
ゲレンデ内のギャップやパークでのスケートライクなライディング、ネルシャツやサングラスを身に纏ったストリート色全開の雪上ファッション、パンクロックの調子に合わせたロードトリップを題材とした演出など、理屈抜きにすべてがカッコよかった。若い世代のスノーボーダーにはオヤジの戯言に聞こえるかもしれないが、一度は必ず観てほしい。この原稿を執筆しながら改めて2作品を観たのだが、現在のライディングレベルとは雲泥の差があれど、いまだ色あせることなく映った。
当時輸入されたニュースクールムーブメントに多くの若者が魅せられ、日本国内にスノーボードカルチャーが広まったキッカケのひとつだった。
あれから20年あまりが経過した現在。ライディング、プロダクト、フィールドなど、すべてが劇的な進化を遂げるとともに多様化。トップライダーは前人未踏のバックカントリーを求め続け、ジャンプのスケールが巨大化したことでトリックの難易度は急上昇、オリンピック種目であるがゆえにそれをさらに助長している。
対して、レジャースポーツとして確立したことにより、カルチャーとして広まったスノーボードの価値観は薄まっていき、進化しすぎたライディングに感情移入できなくなったスノーボーダーがシーンに溢れた。
このような現状を踏まえ、何が大切なのかを俯瞰で見ながらシンプルに考えてみると、自らがスノーボードを始めた頃に得た感覚──単純に「カッコいい」ということなんだと気づかされた。ファッションやフィーリングもそうなのだが、そのカッコよさの本質を体現するためには、遊びではあるがスポーツとしての側面が強い以上、やはり滑走技術が求められる。フリースタイルという言葉が意味する「自由」がスノーボードの魅力だからこそ、それを表現するためには基礎が絶対に必要だ。
雪山に“コモる”という文化が浸透していた時代、その自由は滑走日数と引き替えに手に入れることができた。しかし現在は、当時と比べたらシーンの進化に比例して、ギアの品質も格段に向上している。段階さえしっかりと踏んでいけば、当時よりもスピーディに上達できる環境が整っているはずだ。社会人スノーボーダーであれば、限られた滑走日数の中でこれらを得るためにも、決して飛び級はしないでほしい。カービングができていないのにキッカーでスピンするのは自由だが、朝イチのグルーミングバーンでフリーライディングする気持ちよさを忘れないでほしい。その感覚がわからないという人は、今一度自身を見つめ直す必要があるかもしれない。
先述のビデオを観てもらえればわかると思うが、パークで滑るだけがフリースタイルではない。パークが少なかったこともあるが、当時はゲレンデ内の起伏を求め、縦横無尽に駆け巡っていたものだ。地形は昔と変わらずに存在しているが、飛べる環境を人工的に提供してきたことでフリーライディングが軽視され、スノーボーダーとしての基礎力が下がってしまった現況を作り出したとも言い換えられるのではないか。
トリックのみに執着してしまうと限界があり、基礎力がなければ発展も望めない。カービングの延長線上にトリックがあり、パウダーターンがある。基礎を体得し、いわゆる“板に乗れている”滑りを身につけることで自由は広がっていくのだ。それを手に入れることができれば、トリック、地形遊び、パウダー、バックカントリー……など、無限大の楽しみが待っているのだから。
rider: Nik Baden photo: Adam Moran
※弊誌編集長・野上大介がRedBull.comで執筆しているコラム「SNOWBOARDING IS MY LIFE Vol.40」(2015年8月7日公開)を加筆修正した内容です