COLUMN
雪がなくてもロングライドできる時代へ。スノーボードシミュレーターが映し出す、新しい未来の選択肢
2026.05.25
「雪が降る日に頼っていては、もう遅いのかもしれない」
SkyTechSportが開発したリアルスキー&スノーボードシミュレーターの映像を観ながら、そんな言葉が頭に残った。価格は約13万ドル、日本円にして2,000万円超。正直、多くのスノーボーダーにとって現実的な存在ではないだろう。だが、このプロダクトが示している未来は、決して他人事ではない。
実際、開発側は映像内でこう語っている。
「温暖化が進む世界で、雪の日に頼り続けるのは、スマートフォン時代にガラケーへ依存するようなものだ」
かなり挑発的な言い方だ。しかし、世界中の雪山で起きている現実を見れば、その言葉を完全には笑い飛ばせない。
氷河は縮小し、春営業は短くなり、かつて安定して雪が降っていた場所で雪不足が起こり始めている。スイスでは氷河地帯の積雪量が平均より25%減少(記事はこちら)し、米ユタ州ソルトレイクシティでは観測史上最低積雪を記録(記事はこちら)した。いつもの冬が揺らぎ始めているのは事実だ。
そんな時代に、このシミュレーターは「雪がなくても滑走感覚を維持する」という発想を現実へ近づけようとしている。
実際のブーツを履いてバインディングを装着し、自分の動きでモーションプラットフォームを操作する。エッジを切り替えればモーターが反応し、身体は横方向へ飛ばされる。目の前に映し出されるスロープは終わらない。エンドレスにライディング可能だ。開発者は「目を閉じれば、山の上に立っている感覚になる」と語る。
もちろん、本物の雪山とは違う。風の匂いもない。地形を読む感覚も、仲間とリフトへ乗り込む時間もない。パウダーライディング時に得られる浮遊感は再現できないだろう。
それでも興味深いのは、このマシンが単なるゲーム機ではなく、「身体感覚の維持装置」として進化しようとしている点だ。実際、映像内ではリハビリ用途についても言及されていた。雪へ戻る前段階として、筋力や安定性を取り戻すために活用できるという。古傷を抱えながら滑り続けるベテランスノーボーダーにとって、この視点は現実味を帯びる。
そしてもうひとつ重要なのは、「オフシーズン」という概念そのものが変わり始めていることかもしれない。
日本ではこれまで、人工芝を敷き詰めたエアマット施設が独自のオフトレ文化を築いてきた。実際、多くのトップライダーたちが、そうした環境でトリックを磨いてきた歴史がある。
いっぽう、このシミュレーターが目指しているのは、ジャンプやジブの練習だけではない。ターン、荷重、バランス、エッジング。雪上で滑り続けるための「身体感覚そのもの」へ近づこうとしている点が興味深い。
24時間、365日、滑走感覚へアクセスできる時代。雪山へ行ける人だけが上達するのではなく、都市部でも身体感覚を維持し続ける環境が整い始めている。
もちろん、スノーボードは本来、自然の中で遊ぶカルチャーだ。だからこそ、この未来を歓迎すべきなのか、それとも少し怖がるべきなのか、まだ答えは出ない。
ただ、ひとつだけ確かなことがある。「雪がある」が、当たり前ではなくなり始めていることだ。
実際、日本国内でも導入は始まっている。東京・西麻布や神奈川・横浜、長野・志賀高原では、このシミュレーターを体験できる環境も登場した。
本物の雪山を置き換えるものではない。だが、雪不足や短くなるシーズン、そして雪がない時間との付き合い方そのものが、少しずつ変わり始めているのかもしれない。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)




