COLUMN
アメリカと日本。パイプとスロープ。15歳・込山虎之介が“ハイブリッド”で切り拓く新時代
2026.05.21
「彼は、“どちらかを選ばなくてはならない”という常識を覆して証明してみせました」
今シーズンのFIS(国際スキー・スノーボード連盟)NorAmアメリカ大会2戦目、カリフォルニア州マンモスマウンテンでの表彰式。ハーフパイプとスロープスタイル、2日連続で表彰台に立った込山虎之介に向けて、MCはそう言葉を投げかけた。
このひと言が、現在の競技スノーボードを射抜いている。
世界のトップシーンでは「専門化」が当たり前になった。パイプはパイプ。スロープはスロープ。それぞれのレベルが極限まで高まり、両立は非現実的だという空気が漂っている。ショーン・ホワイトが両種目でソチ五輪を戦おうとしたあの時代を経て、その壁はさらに高くなった。
だからこそ、15歳になる前の虎之介が成し遂げたことは異質だ。
今シーズン、NorAmのアメリカ大会でスロープスタイル2勝。カナダ大会ではビッグエアとスロープで表彰台を獲得し、スロープ/ビッグエアでUSルーキーチーム入りを決めた。同時に、ハーフパイプでも2度の表彰台。昨シーズンに引き続き、パイプでもUSルーキーチーム入りを果たしている。

スロープスタイル強国・アメリカで、その実力を遺憾なく発揮している
虎之介は両方で結果を残した。しかも、それは単なる器用さではない。
マンモスで初優勝を飾ったスロープコースの最後には、巨大な正面クォーターパイプが設置されていた。そこで虎之介は、パイプで磨いてきたフロントサイド・ダブルコーク1080を完璧に決める。
「クォーターがあったからこそ勝てたんだと思います」
母であり、元プロスノーボーダーの上田ユキエはそう振り返る。パイプで得た技術が、スロープの勝利を手繰り寄せた。
さらに、その逆も起きている。ジャンプ、レール、流動的なラインどり。スロープで求められる総合的な滑走スキルが、パイプにも還ってくる。
「間違いなく、パイプがスロープに、スロープがパイプにいい影響を与えていると確信しました」
ユキエはそう言い切った。
90年代から2000年代初頭、パイプはまだ“総合滑走力”を磨く場所だった。ターン、パンピング、テイクオフ、ラインどり。そこにはフリーライディングにも通じる、スノーボードの根が張っていた。しかし競技化が加速するにつれ、種目は少しずつ分断されていった。
だからいま、アメリカの大会でパイプのライダーたちがレールイベントに出場している事実は興味深い。日本では、まだ珍しい光景だからだ。

ジビングの実力も本物だ
虎之介の面白さは、そこに「アメリカと日本のハイブリッド」が重なることにある。日本で積み上げた人工芝とエアマットの練習環境。北米の巨大なコースで鍛えられる総合滑走力と、揉まれ続ける競争環境。13歳でRev Tourに挑み、ジャンプの大きさに苦しみ、スピード不足で戦えなかったシーズンも経験した。それでも逃げずに北米で滑り続けた積み重ねが、15歳で迎える来シーズン、FISワールドカップのパーソナルスポット獲得へとつながった。
パイプか、スロープか。
アメリカか、日本か。
コンテストか、フリーライディングか。
本来、スノーボードに「どちらか」なんてなかったはずだ。虎之介は、その分断された境界線を、軽やかなエアで飛び越えた。
text: Daisuke Nogami(Chief Editor)
words: Yukie Ueda
photos: Yoshiburger




